こんにちは、ITプロマガジンです。
業務委託で働く場合、トラブルなどの発生を防ぐためにも、書面による契約を取り交わすことが重要ですが、なかには業務委託契約書がないというケースもあるようです。
この記事では、業務委託契約書に盛り込むべき内容やよくある疑問に触れながら、業務委託契約書がない場合に確認しておきたいポイント、考えられるリスク、対処法などについて詳しく解説します。業務委託で働いているのに契約書がないという方や、これから業務委託で働く予定の方はぜひ参考にしてください。
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目次
業務委託契約書がない場合に考えられる働く側のリスク
業務委託契約書がない場合でも仕事を進めることは可能ですが、さまざまなリスクが考えられるうえ、トラブルに発展する恐れもあるため注意が必要です。以下より、業務委託契約書がない場合に考えられる働く側の具体的なリスクについて、主なものを紹介します。
業務の対応範囲があいまいになる
業務委託契約書がないことで、対応すべき業務の範囲があいまいになります。そのため、本来であれば担当外の仕事を依頼されたり、納品した成果物に対して繰り返し修正対応を求められたりするなど、想定よりも仕事が増えてしまう恐れがあるでしょう。
さらに、対価に対しても証拠が明文化されていないため、増えた仕事に対しての追加報酬は得られないことが多いはずです。その結果、金額に見合わない仕事量を常に負わされる羽目になり、精神的・肉体的に疲弊してしまうケースも考えられます。
責任の範囲があいまいになる
業務内容や納品した成果物について、どこまでの責任を負うかがあいまいであることも業務委託契約書がないことのリスクの1つです。そのため、納品物の不具合はもちろん、納期遅延、情報漏洩など、何らかのトラブルが発生した際に、損害賠償を請求される恐れがあります。
トラブルの発生リスクをゼロにすることは基本的に困難ですが、損害賠償が発生する際の条件や責任の範囲、賠償金の上限額などを業務委託契約書に明記し、自らが被るダメージの度合いを抑えておくことが重要です。
一方的な契約変更・終了を受けやすくなる
書面によって契約期間や諸条件が定められていないことにより、クライアントの一方的な都合で契約の終了や条件の変更を告げられてしまうリスクがあります。口約束で契約内容を取り決めていたとしても、ビジネス環境の推移や担当者の交代など、クライアントの状況が変化することによって、働く側に不利な内容へ変更されてしまう恐れがあることは否めません。
これらのリスクを回避するには、業務委託契約書によって、契約期間や解約条件などの詳細にわたる契約内容を明確に定めておく必要があります。
報酬の未払いが発生した時に不利になる
業務委託契約では、依頼された成果物を約束した期日通りに納品したにもかかわらず、報酬の未払いが発生するケースがあります。その際、業務委託契約書がないと、クライアントに支払いを促すための客観的な証拠が提示できず、適正な報酬を受けられない恐れがあるでしょう。
単純に失念しているケースもあるため、まずはクライアントに確認する必要がありますが、何らかの別の理由で報酬が支払われない場合は、弁護士などの専門家に相談することが重要です。とはいえ、業務委託契約書がないために正当な報酬を受ける権利を主張できず、交渉がスムーズに進まないことも考えられます。
業務委託契約書がない場合に確認しておきたいポイント
業務委託契約書がないことを認識した場合、まずは慌てず冷静に現状を確かめることが大切です。以下、確認しておきたいポイントについて順に解説します。
電子データの契約書があるか確認する
紙媒体による業務委託契約書を取り交わしていない場合でも、昨今は電子契約書によるオンラインでの契約サービスを利用しているケースがあります。印刷などの必要がなく、電子データによってインターネット上で手軽に契約内容の確認や締結が実施できるため、導入する企業が増えているようです。
そのため、紙による業務委託契約を締結していなくても、「パソコン上のファイルを確認する」「過去のメールを改めて見直してみる」などで、電子データによる契約を交わしていないかを確認する必要があります。
仲介業者との契約書があるか確認する
業務委託の仕事を引き受けた際の商流によっては、クライアントとは直接契約せず仲介業者と契約している場合があります。
例えば個人事業主やフリーランスに仕事を斡旋するエージェントを利用している場合、クライアントと直接契約することもありますが、自らはエージェントとの契約のみで、クライアントとの契約はエージェントが行っているケースも多いのです。
その場合、仲介業者となるエージェントとの契約書さえ確認できれば、問題ないことになります。
クラウドソーシングでは記録を確認する
仕事を求めるワーカーと業務を依頼するクライアント企業を、インターネットを介して結びつけるクラウドソーシングを利用している場合は、個別のクライアントとの業務委託契約書を作成しないケースがほとんどです。その代わりとして、さまざまな方法でリスク対策が施されています。
例えば、クラウドソーシングの管理画面上で条件の交渉から契約、納品まで全てのプロセスを完結させることで、双方のコミュニケーションが記録として保存され、正当な取り引きが行われた証拠としていつでも確認できるようになっています。また、報酬の未払いを防止するための機能もあるなど、ワーカーが不当な損害を被ることのないよう配慮されているのです。
そのためクラウドソーシングでは、取り引きの内容や条件を確認する必要が生じた場合、保存されている記録を参照することになります。ただし、何らかの理由により個別の業務委託契約書が必要な場合には、クライアントと交渉のうえ作成することも可能です。
業務委託契約書がない場合の対処法
前章にて紹介した「業務委託契約書がない場合に確認しておきたいポイント」を確認したうえで、それでもやはり必要となるはずの業務委託契約書がない場合には、どうしたらよいのでしょうか。主な対処法を以下で紹介します。
契約書以外の記録を保存しておく
業務委託契約書がない場合には、何らかの方法で取り引きに関する記録を保存しておく必要があります。
仕事上、利用することが多いコミュニケーション手段の1つにメールやチャットがありますが、業務上でやり取りした文書については、全て残しておくことが重要です。契約内容について記載されたメールがあれば理想ですが、ない場合であっても、改めての確認と称して、契約内容や諸条件を記載したメールをこちらから送っておくという方法もあります。
また、昨今ではメール以外にもLINE・Slackなどのアプリやチャットツールを利用することも多いでしょう。これらの会話記録が証拠として後に役立つ可能性もあるため、忘れずに保存しておくことをおすすめします。
トラブルに備えて保険に加入しておく
前述した通り、業務委託契約書がないと、報酬の未払いや、多額の損害賠償請求といったリスクが大きくなります。万が一の際、費用の心配をすることなく弁護士に相談できるよう、相談料・報酬金などの弁護士費用を負担してくれる保険に加入しておくのがおすすめです。
個人事業主やフリーランス向けの会員サービスでは、契約するプラン次第で、セット内容に弁護士費用の保険が含まれていることがあります。例えば、国内最大規模のフリーランスネットワークである「フリーランス協会」では、一般会員になることで、報酬トラブル弁護士費用保険「フリーガル」が自動で付帯されます。これは、報酬未払いなどのトラブルが発生した際、弁護士費用が保険金によって補償されるうえ、円満な解決に向けたサポートが受けられるというものです。
クライアントに交渉して契約書を作成する
クライアントに業務委託契約書がない旨を伝えたうえで、新たに作成できないかを交渉してみることも重要です。
業務委託契約書は、必ずしも業務を委託するクライアントが作成しなければならないものではなく、受託側であるワーカーが作成することも可能なため、それによって先方の手間を抑えられる旨を伝えれば、了承してもらえる可能性も高くなるでしょう。
紙媒体による業務委託契約の締結は、以下の流れが基本となります。
- 業務委託契約書を作成・製本する
- 業務委託契約書へ署名・押印する
- 業務委託契約書を郵送・保管する
業務委託契約書は、契約に関わる当事者の数だけ作成することが通例です。
2者間契約の場合は、以下のような流れとなります。
- ドラフトを作成し内容に異議がないことを双方が確認
- 正式版として2部を製本
- 2部とも署名・押印を施し相手方に郵送
- 相手方では署名・押印のうえ1部を返送
これで、お互いの署名・捺印が施された業務委託契約書を、双方が1部ずつ保持することになります。
なお、前述した電子契約書によるオンライン契約サービスを利用することで、製本・郵送などの手間をかけることなく、スピーディな契約締結が可能です。
また、業務委託契約書に盛り込むべき内容については、次章にて解説します。
業務委託契約における注意点について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
業務委託契約書に盛り込むべき内容
業務委託契約書に盛り込むべき項目とその内容について、次の表にまとめましたので確認してみてください。
項目 | 内容 |
---|---|
業務内容 | 遂行すべき仕事の内容を、明確かつ具体的に記載します。変更や追加が発生する際には、合意を要する旨も併せて記載しておきましょう。 |
契約形態 | 認識の相違による無用なトラブルを防ぐため、請負契約・準委任契約といった契約形態を明確に記載します。 |
契約期間・更新 | 一方的な契約解除のリスクを防ぐため、契約期間を明示します。特段の申し出がない場合は、自動更新される旨を追記しておくのもおすすめです。 |
報酬の支払い | 報酬の発生条件、支払い方法や期日、具体的な金額などを記載します。振込手数料をどちらが負担するかについても触れておきましょう。 |
経費の支払い | 交通費や通信費など、業務上発生した経費をどちらが負担するかについて明確に定めておきます。 |
再委託 | 依頼された業務を、第三者へ再委託することが可能かどうか、明確に定めておきます。 |
不可抗力 | 事故や災害の発生といった不可抗力により、業務に支障をきたした場合の責任について記載します。 |
著作権 | 業務にて発生した成果物について、誰が著作権を持つのかを明確に定めておきます。 |
知的財産権 | 業務にて発生した成果物の無断使用を防ぐため、商標権や特許権などを含めた知的財産権の扱いについて明確に定めておきます。 |
秘密保持 | 業務上知り得た内容の不正利用や漏洩などを防ぐため、秘密保持の対象となる情報について記載します。 |
契約解除 | 契約解除となる具体的な条件や、問題発生時の解決方法について定めておきます。 |
損害賠償 | トラブルが発生した際の責任や損害賠償の範囲について、明確に定めておきます。賠償金額の上限も設定しておきましょう。 |
管轄裁判所 | 当事者同士で問題解決できず裁判となる事態が発生した場合に備え、管轄裁判所を明記します。 |
なお、業務委託契約書についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
業務委託契約書についてよくある疑問
業務委託契約書についてよくある疑問は、次の通りです。
- 業務委託契約書がないと報酬をもらえない?
- 業務委託契約の種類は?
- 業務委託契約書に印紙は必要?
それぞれについて、以下で回答します。
業務委託契約書がないと報酬をもらえない?
万が一、クライアントから支払われるべき報酬が未払いとなった場合、業務委託契約書がないからといってすぐに諦める必要はありません。契約自体は口頭でも成立するため、正当な報酬をもらう権利を主張することは可能です。
ただし、先方が合意自体の有無やその内容について疑義を申し立てるケースが考えられるため、契約内容の取り交わしや報酬に関する約束がなされたことを契約書以外の何らかの方法で証明する必要はあります。メールやチャットなどによってやり取りの証拠が残っていれば、合意が取れやすくなるでしょう。
業務委託契約の種類は?
業務委託契約には、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3種類があります。
請負契約は、納期と成果物が明確に定まっている契約です。納品された期日と成果物の内容に問題がなければ、多くの場合、そこまでのプロセスについて特に条件はありません。
委任契約は、明確な成果物が定められておらず、法律行為と呼ばれる特定業務の遂行を依頼する契約です。
準委任契約は、委任契約と同様、業務の遂行を依頼する契約ですが、法律行為以外の事務処理を対象とする点に違いがあります。
例えば、訴訟において弁護士に代理人を依頼する場合は法律行為となり、委任契約を締結します。一方で、エンジニアに常駐でシステム開発を依頼する場合は事務処理となり、準委任契約を締結するのが一般的です。
業務委託契約書に印紙は必要?
契約形態が請負契約であり、契約金額が記載されている業務委託契約書の場合には、収入印紙を貼付する必要があります。このケースでは、印紙税法上の第2号文書にあたるためです。印紙税額は、契約金額によって異なります。
また、契約金額の記載がなくても、契約期間が3ヶ月を超える場合には、第7号文書に該当し、4,000円の収入印紙を貼付することが定められているため、注意が必要です。詳細は国税庁のWebサイトなどで確認してください。
なお、印紙税は紙媒体の契約書にかかるものであり、電子契約書によるオンライン契約の場合には必要ありません。
まとめ
これまで見てきた通り、業務委託契約書がない場合には責任範囲があいまいとなり、トラブルの際に多額の損害賠償が請求されるなどの恐れがあります。基本的には、定石に従って業務委託契約書を作成することが賢明ですが、それが難しい場合には、本記事を参考にしながらリスクを減らす工夫をしましょう。
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