等級制度は人事制度を構成する柱の1つで、従業員の育成、モチベーションアップが期待できる重要な制度です。等級制度の見直し・設計をするには等級制度の基本構造を理解し、自社に適した制度を作ることが重要です。自社に合った制度でなければ、従業員を適切に評価できず、不満につながるおそれがあります。
そこで本記事では等級制度の種類と、それぞれのメリット・デメリット、活用方法といった等級制度の基本情報を解説します。等級制度の作り方も5ステップに分けてご紹介しているので、自社の等級制度の見直しや設計に役立ててください。
Contents
等級制度とは?3つの種類
等級制度とは、人事制度を支える柱の1つで、能力、役割、職務を区分して序列をつけ賃金の管理をする制度です。大きく分けて①職能等級制度、②職務等級制度、③役割等級制度の3種類があります。
等級制度は企業が求める人材のモデルになり、企業風土にも関連するため重要な役割を担っています。
また、人事制度を支える要素としては他に評価制度、報酬制度などが挙げられます。。人事制度については、こちらの記事に詳しく記載しています。
次の章で、等級制度を構成する各制度の役割やメリット・デメリット、活用方法を詳しく確認しましょう。
1.職能資格制度とは?メリット・デメリットと活用法
等級制度の1つ目は職能資格制度で、従業員に求める職務遂行能力を基準とした仕組みを指します。入社して在籍期間が長くなるのに応じ、職務遂行能力も比例して高くなると定義付けており、終身雇用・年功序列が基盤となっています。
職能資格制度を従来の日本の企業は多く採用していたため、日本固有の人事制度と言われています。
職種の枠を超えて等級を設定することで、市場の変化に応じてプロジェクトや組織への配置転換が容易に行えるため、スピーディーに組織改編が可能です。
しかし職能資格制度では等級が上がっていくにつれ、役職数の不足と人件費高騰といった問題点が浮上します。現在でも職能資格制度を採用している会社は職務・業績を報酬制度で大きく反映して運用するケースが増えています。
職能資格制度のメリット
職能資格制度のメリットは主に以下の3つです。
- 人材を長期にわたり確保しやすい
- 職務を越えて職能を設定するので組織改編がスピーディーに行える
- ゼネラリストの育成や製造業と相性が良い
職能資格制度は「勤続年数に比例して職務遂行能力も高い」という前提で作られているため、長期的な人材育成がしやすいという特徴があります。またゼネラリストや長年の経験が重視される製造業で効果を発揮しやすい制度です。
職能資格制度のデメリット
次に職能資格制度のデメリットをまとめました。
- 年功序列的な運用になるため人件費が高くなる
- 従業員のモチベーションが下がる可能性がある
- 評価基準があいまいになりがち
勤続年数が長くなることが前提のため、年功序列の制度に抵抗がある従業員は不満を抱きやすいかもしれません。
また全職種に対応した基準をもうけると断定的な言い回しができず、評価基準があいまいになりやすいといった点もデメリットの1つです。
職能資格制度の活用法
職能資格制度は制度のデメリットを補完する他の制度も同時に使います。次の2つのポイントを押さえて、職能資格制度を活用しましょう。
- 従業員のレベルを洗い出す
仕事のレベルがどれくらいか数値化します。このとき、役職者は仕事のレベルと役職がふさわしいかのチェックも行ってください。勤続年数も踏まえながら、仕事のレベルで従業員一人ひとりのランクを決めます。
- 定期的なレベルのチェック
期間を定め、従業員のレベルを試験や面接を通して確認し、レベルに応じて昇給や昇進を行います。
2.職務等級制度とは?メリット・デメリットと活用法
職務等級制度とは「職務の価値」だけで評価をする等級制度を言います。職能資格制度が日本固有の制度であるのに対し、職務等級制度は欧米で広く使われている制度です。
職務記述書と呼ばれる書類を作成し、必要なスキル、仕事内容、労働時間、勤務地などを明確にしておき、従業員は決められた職務に対して責任を負います。
職務等級制度は給与と労働の関係性と評価がはっきりしており、実力主義の従業員は成果を発揮しやすく、優秀な人材確保に期待ができる制度です。
ただし職務記述書の作成に要するコストや、環境変化に対応しづらく組織の柔軟性が下がってしまう点が課題と言えます。
また、職務記述書の職務が遂行できれば賃金はどの従業員であっても同じのため、スキルを身につけた従業員は条件が良い会社を見つけたら転職してしまうリスクもあります。スキルに応じた賃金を支払っているか、定期的に確認して従業員が不満を抱いていないか状況を把握しておくことが重要です。
次に職務等級制度のメリット・デメリットなどをまとめました。
職務等級制度のメリット
職務等級制度のメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- 給与と労働の関係性がはっきりしている
- スペシャリストを育成しやすい
- 優秀な人材雇用に効果的
- 人件費に大きな変動がない
職務等級制度の大きなメリットは給与や賞与は職務内容がベースになっており、年功序列と違って定期昇給がなく人件費の変動が少ない点です。
職務等級制度のデメリット
職務等級制度のデメリットを確認していきましょう。
- 職務記述書の作成にあたり負担が発生する
- スキルを持った従業員が転職する可能性がある
- 組織の柔軟性が乏しくなりがち
職能資格制度と違って職務内容のみを審査しているため、市場の環境変化に対応がしづらく組織改編が迅速には行えません。
職務等級制度の活用法
職務等級制度を活用するためのポイントを、以下にまとめました。
- 職務記述書を作る
職務記述書に必要な能力、資格、仕事内容、労働時間、勤務地などを記載します。すべての職務ごとに作成が必要です。
- 賃金体系を決める
業務内容に応じて賃金体系を定めましょう。このとき市場の賃金相場や同規模の会社と比較することがポイントです。
3.役割等級制度(ミッショングレード制)とは?メリット・デメリットと活用法
等級制度の3つ目は役割等級制度です。役割等級制度とは、職務と従業員個別の能力も踏まえて評価する等級制度を指します。役職に左右されず各従業員に対して会社が求める役割を個別に設定し、成果によって等級を序列化します。成果に応じて昇格や昇給が可能な仕組みですが、成果を出していないと降格、降級です。
職務と個別の能力を評価するため、合理的な評価が可能です。また職能資格制度と同様、組織の柔軟性が高く、従業員の主体性を促す効果が期待できるでしょう。
しかし日本では実例があまりなく、運用にはノウハウを蓄積していく必要があります。
役割等級制度(ミッショングレード制)のメリット
役割等級制度のメリットは次の通りです。
- 目標が明確
- 合理的な評価ができる
- 従業員の主体性を促せる
職務だけではなく、個々の能力も評価されるので成果を出すために従業員が自らの能力をアップして業務に取り組んでいける制度です。
役割等級制度(ミッショングレード制)のデメリット
役割等級制度のデメリットは主に次の2点が挙げられます。
- ノウハウの蓄積が必要不可欠
- 役割が変更となったときは再定義をするコストが発生
導入している会社の事例が少ないので、ノウハウを自社で蓄積しながら調整をしていく必要がデメリットと言えるでしょう。
役割等級制度(ミッショングレード制)の活用法
役割等級制度の活用法は、次の手順で行います。
- 等級レベルの設定
まず、それぞれのポジションにランクを設定しましょう。
- 業務レベルを定める
役割等級に応じた業務のレベルを決めます。例えばマネージャーであれば部下のマネジメント、一般の従業員は上司の指示で目標を達成するなどです。
- 職能資格と関連付ける
役割等級制度は職務と個別の能力で従業員を評価します。そのため職能資格と総合的に評価できるよう整備しましょう。
等級制度の作り方を5ステップで解説
等級制度を代表する3種類の制度を解説しました。等級制度の役割を理解したら、次に等級制度の具体的な作り方を確認していきましょう。
Step1:方針決め・概要設計
1つ目のステップは、等級制度の方針と概要を決めることです。等級制度は会社が必要としている人材、経営目標、目指している組織の在り方に影響します。
等級制度に反映する会社の方針を決め、一般職や総合職などのキャリアコースを大まかにイメージして役職や等級数などを簡単に概要設計をしましょう。
Step2:どの制度を活用するか決める
制度の方向性を決めたら、次は3つの等級制度の内、どの制度を使うかを決めます。職能等級制度、職務等級制度、役割等級制度にはそれぞれメリットとデメリットがあり、会社によってなじむ制度とそうでないものがあります。
制度の特徴を押さえ、自社の課題改善につながると期待できる等級制度を選びましょう。
Step3:等級数を決める
活用する等級制度を選定したら、等級を細分化してください。等級数が少ないと1つの等級の幅が広くなり、同じ等級にいる従業員でもレベルに大きな差が出るおそれがあります。
ただし、等級数が多くなりすぎると等級間の差がほとんど生まれず運用しづらくなるため、等級数に問題がないか、よく検討した上で決定しましょう。
Step4:等級ごとの定義と具体的な内容を決める
4つ目のステップは、等級ごとの役割や能力の基準などの詳細設定です。全職種共通にするか、職種別にするかも重要なポイントです。
職種別にすれば、より具体的な基準を設定できますが、全職種共通であれば誰にでも当てはまる言い回しをするため基準があいまいになってしまう可能性があります。
また、等級に長年滞留していたとしても、上位等級の要件を満たしていなければ昇格させないと明記しておけば年功序列のような運用を防止できるでしょう。
Step5:シミュレーションする
最後に、実際の従業員を完成した等級制度に沿ってシミュレーションをし、評価や仕組みチェックします。各従業員を等級に振り分け、調整が必要であればその要因を見つけて直しましょう。
シミュレーションを行わずに運用を開始すると、適切に人材配置ができずなくなるおそれがあります。また、シミュレーションは評価制度や賃金制度といった他の人事制度との整合性をすり合わせることに役立ちます。シミュレーションですべての人事制度がバランスの良い状態であることが望ましいです。
有名企業における等級制度の事例
等級制度を活用している例を3つピックアップし、ご紹介します。
株式会社ココナラの事例
1つ目は、株式会社ココナラの等級制度です。
議論が空中戦になりがちな、人事評価や給与判断。等級制度から曖昧さを排除することで、その意思決定をスムーズにしている事例。
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基準が曖昧なまま誰かの意見だけで評価が決まることを防ぐために、「コミット範囲」「業務レベル」といった、5つの軸から11段階に分類された等級制度を運用している。(略)評価・育成が体系的に行われる仕組みを作った結果、議論が空中戦になることが減り、マネジメントの意思決定が非常にスムーズになったという。
株式会社ココナラは2017年12月に5つの軸でグレードを11段階に設定し、運用をスタートしました。目的は、評価基準の統一と給与の決定ロジックを明確にすることです。等級制度の改革により属人的になりがちだった評価に基準をもうけ、客観的な評価が可能となりました。
また株式会社ココナラは中途採用が多く前職の給与を踏襲する傾向にあったものの、給与に関する基準を設定したことで、会社の責任や業務の実態に見合った給与額を決定できるようになりました。
パナソニックの事例
次にパナソニックの等級制度の事例をみていきましょう。
パナソニックの管理職(専任職を含む)には、役割の大きさに応じて決まる「役割等級」が8段階あり、経営層(P1~P3)、基幹職(P4~P8)という内訳になっている。かなりざっくり言えば、事業場長クラスの役割等級がP1~P3、BU(ビジネスユニット)長・部長のそれがP3~P6、課長のそれがP6~P8といったイメージだ。
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パナソニックは年功序列性を排除して、役割等級制度を導入し、人材の処遇の透明性と納得性を高めながら、チャレンジ目標を設定することで積極的に挑戦する人を求めることを狙って導入されました。
ユナイテッド株式会社の事例
最後はユナイテッド株式会社の事例をご紹介します。
ユナイテッド株式会社では、2015年より、社員の自律的な成長を会社として全力でサポートする「グレードアップ宣言」の運用を開始。その基軸となる同社のグレードは、縦軸と横軸のマトリクス型です。
SELECK
具体的には、縦軸に総合職・エンジニア職・デザイナー職という職種を、横軸にリーダーシップを発揮する「L(Leadership)職」と、専門的なスキルを発揮する「P(Professional)職」の2軸を設定し、合計6つのグレードがあります。
ユナイテッド株式会社は「ユナイテッドのコア人材となり会社をリードしていく」と意思表示をした従業員を対象に会社がサポートする挙手性のグレードアップ宣言という制度を導入しています。
グレードアップするために必要な視点・スキルを身につけることが求められるので、グレードごとに内容と難易度の設定が違います。
制度開始から年間後には以前の倍以上の昇格数を実現。グレードに応じて担当役員からフィードバックがもらえる仕組みです。昇格する上で自身に不足しているものと、上のステップの視点に気付ける特徴を持っています。
等級制度に関するまとめ
等級制度は人事制度を構成する仕組みの1つで、等級制度は大きく分けて職能等級制度、職務等級制度、役割等級制度の3つがあります。特に役割等級制度は他の2つの制度の中間的存在で、現在の日本企業にマッチした等級制度として関心を集めています。
自社の課題改善に役立つ等級制度を設計するためには、等級制度の持つ役割をきちんと理解しておくことが重要です。本記事を等級制度の見直し・設計をするときの参考にしてみてください。