人材育成のマネジメントとは?求められるスキルや育成手法を紹介

人材育成マネジメント 人材育成・マネジメント

企業の中核を担うマネジメント層(管理職)の育成は、人材育成に不可欠です。しかし、マネジメント層の人材育成に何が必要なのか、どのように人材育成に取り組めば良いのか分からない、といった声も聞かれます。

企業の成長には、既存のマネジメント層の育成と将来のマネジメント層の育成のどちらも必要です。本記事では、マネジメント層に対する人材育成を実施する人事担当者に向けて、人材育成マネジメントの効果や実施方法、成功するためのポイントを解説します。

人材育成マネジメントとは?

企業の成長には、人材育成が不可欠です。しかし、人材育成を実施するのは容易なことではありません。そこで、「人材育成マネジメント」が必要になります。

人材育成と混同されやすいため、どのような違いがあるのか確認しましょう。

そもそも人材育成とは

人材育成とは、言葉のとおり、企業にとって欠かせない人材を育成することです。そして、高齢化や少子化が続く中、近年では人材育成の重要性が高まっています。

人材育成にはおもに以下のメリットがあります。

  • 企業の業務効率化
  • 生産性向上
  • 離職率の軽減
  • 社員の満足度向上
  • 企業理念の浸透による法令遵守の定着

人材育成の実施は企業にさまざまな効果をもたらし、結果として企業の採用活動にも良い影響をもたらします。

人材育成とは何か?考え方や大切なこと、主な手法をわかりやすく解説

人材育成マネジメントとは

人材育成マネジメントとは、人材育成を促進するためにマネジメントを行うことです。「マネジメント」とは、組織が成果を上げるために「ヒト」「モノ」「カネ」といった経営資源を効率的に活用することを指します。上司が部下へ指導して育てる「育成」とは違う意味です。

人材育成は企業にとって不可欠ですが、結果が出るまでに時間を要する場合もあります。そこで、人材育成を成功させるために、人材育成マネジメントが必要なのです。

そもそもマネジメントについて詳細を知りたいという方は、以下の記事をご覧ください。

マネジメントとは何か?意味や仕事内容、必要なスキルを簡単に解説

人材育成マネジメントを行う効果

人材育成マネジメントには、さまざまな効果があります。特に、マネジメント層の育成により新しいマネジメント層が増え、既存マネジメント層の育成にも役立つでしょう。経営戦略を達成するためには、組織を牽引するマネジメント層の存在が不可欠です。

しかし、マネジメント層の人材育成には長い時間を要します。そのため、人材育成マネジメントを実施する際は、長期的な視点に立ち計画的に取り組むことが重要です。

ここからは、人材育成マネジメントを実施する効果を解説します。

企業の成長につながる

人材育成マネジメントの実施による最大の効果は、企業の成長に直結する点です。

人材育成実施のスピードを高めることで、企業の成長速度も高まる傾向があります。ただし、いくら人材育成計画や要件が優れていても、社員数や社員の能力が欠けていては効果的ではありません。企業の成長速度を高めるためには、計画を遂行する社員の数や能力などが関係するのです。このとき、マネジメント層の統率力が欠かせません。

このように企業の成長スピードを加速するためには、マネジメント層の統率力をベースとした社員の能力向上が求められます。

組織力が強化される

人材育成マネジメントの強化より、組織力を強化できる点も特徴です。人材育成マネジメントの実施により身に付くスキルには、おもに以下が挙げられます。

  • チームの目標達成を導く統率力
  • コミュニケーション力の向上を基礎とした社内外との調整スキル
  • 的確な判断や指示をするための論理的思考

マネジメント層には、ビジネスに関わる総合的な能力が求められます。しかし、総合的な能力は短期間で身に付くわけではありません。そのため、長期的な目標を立てて着実に進めていくことが大切です。

組織全体の生産性が上がる

人材育成マネジメントは、組織の生産性向上にも役立つ点が特徴です。

人材育成マネジメントを実施することで、コミュニケーション能力やリーダーシップスキルなどの能力向上が期待できます。結果として社内外の調整が円滑に進み、組織の目標を達成しやすい環境が整うのです。

人材育成マネジメントに必要なスキル

人材育成マネジメントの内容や必要性を理解したところで、効果的に実施するために必要なスキルを確認しましょう。

現状把握力

人材育成マネジメントには、現状把握力が不可欠です。経営戦略を考えるときに、企業の理念や方針に即して、企業に必要な人材を把握する必要があります。そして、必要な人材を把握するためには、組織の現状を理解しておくことが必要なのです。

人材育成マネジメントを実施するためには、企業が目指すべき目的と現状との差異を認識した上で、目的達成のためにどのような人材が必要なのかを考えることが大切です。

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルは、さまざまな情報を適切に伝達するための能力であり、ビジネスにおいて不可欠なスキルです。人材育成マネジメントを実施するためには、対象者とのコミュニケーションスキルが求められます。

コミュニケーションスキルは、部下の状況把握や業務の進捗管理に役立ちます。人材育成マネジメントを成功させるためには、社員の能力や業務の進捗状況などに関するコミュニケーションの取り方を工夫することが大切です。

目標設定・管理能力

個人や組織を目標達成に導く能力も、人材育成マネジメントに必要です。

具体的には、組織の現状を把握し、目標達成までの進捗管理やスケジュール調整をします。目標設定に関して、まず達成可能な目標を立てることがポイントです。どのような目標を立てるかは、社員のモチベーション維持にも関わるため慎重に行いましょう。現状と最終目標に大きな差異がある場合は、最終目標までの過程に実現可能な目標を設定することが大切です。

目標を設定したら、各社員のスキルや経験、考え方に即して、目標達成に向けてどう取り組んでいくかを考えます。現場の状況を詳しく把握するためには、「報告」「連絡」「相談」が欠かせません。

部下育成力・統率力

人材育成マネジメントを適切に実施するためには、部下育成力や統率力が求められます。統率力とは、組織やチームを牽引するリーダーシップスキルのことです。

社員の育成や組織の目標達成に関するスキルには、「ティーチングスキル」と「コーチングスキル」があります。ティーチングスキルは、上司が部下に対して仕事のスキルや知識などを指導するためのスキルのこと。他方、コーチングスキルは、上司が部下との対話を通じて自主性や自己成長を促すスキルを指します。部下自身が物事の本質を見極め、解決への糸口を見出すことがコーチングスキルの本質です。上司は部下に答えを与えてはいけません。

論理的思考力

論理的思考力はロジカルシンキングとも呼ばれ、物事の原因と結果との因果関係を整理して分析するスキルのことです。

人材育成マネジメントを実施する場合も、さまざまな課題や問題に対処するために論理的思考力が必要です。課題や問題の原因と結果を結びつけて、物事の本質を見極めながら解決に向けて行動できるようになります。

人材育成に必要なスキルとは?必須スキル8選と大切なポイント

人材育成マネジメントの手法

人材育成マネジメントの実施には、さまざまな手法が取られています。効果的に実施するためには、企業や部下の状況に合わせて、自社に合う手法を採用することが大切です。

ここでは、人材育成マネジメントの手法を5つ解説します。

OJT

OJTとはOn the job Trainingの略で、実務を通して必要なスキルや知識の習得を目的として上司が部下に指導する手法です。短期的に実務で活躍できる人材を育成できる手法といえます。

人材育成マネジメントを実施する際は、以下の方法があります。

  • 対象者をOJTトレーナーに任命する
  • OJTトレーナーを育成するための研修を実施する

OJTトレーナーとは、育成担当者を指します。OJTトレーナーになることで、部下を育てるために必要なマネジメントスキルや目標管理能力、コミュニケーションスキルなどを身に付けることが可能です。また研修を実施することで、育成・指導のスキルが向上します。2つの方法を組み合わせて実施すると効果的です。

OFF-JT

OFF-JTとはOFF-the-Job Trainingの略で、職場外のトレーニングを意味します。社内外の講師や専門家に依頼して、仕事に必要なスキルや知識を習得する点が特徴です。集中的にスキルや知識を習得できる環境を整備する必要があります。

リーダーシップスキルや論理的思考、心構えなどは、実務経験での習得が困難です。OFF-JTによる体系的な学習により、スキルのインプットが可能となります。

eラーニング

e-ラーニングとはスマートフォンやパソコンなどを活用してインターネットを活用して実施する研修のことで、対象者のインプットが目的です。インターネットを接続できる環境であればいつでもどこでも受講できるほか、空き時間に学習できるなど効率的に学習を進められます。また実施の負担が少ないなど、主催者側にもメリットがある点が特徴です。

e-ラーニングでの学習は、マネジメントスキルなど学習範囲が多岐にわたるケースに親和性が高いといわれます。

メンター制度

メンター制度とは、知識や経験のある育成担当者(先輩社員)が対象者(後輩社員)にさまざまなサポートをする制度のことです。そしてメンターとは、メンター制度で対象者に助言やメンタル面のサポートをする役割を指します。実務内に限らず、対象者の成長を促進したり、離職を防止したりする点が、OJTと異なります。

マネジメントスキルを身に付けるためには、メンターを経験することが重要です。育成スキルやメンタル面でのサポートスキルが身に付きます。中堅社員などの育成担当者が管理職に就く前に、実務経験を通してマネジメントスキルを得られる点が利点です。

またメンター制度では、個別に指導したりアドバイスしたりできるため、社員のスキルアップや新入社員の適応促進にも効果があります。

MBO

MBOとは、目標管理制度のことです。社員またはチームで目標を設定し、目標達成度合いに応じて評価を決定します。目標達成に向けて主体的に取り組むようになり、社員の能力やチームワークの向上が期待できるのです。

そして目標管理を担い、明確な目標を定める経験を積むことは、マネジメントスキル向上のために不可欠です。対象者にプロジェクトリーダーや目標管理を担う役割を経験させることで、「目標管理能力」「部下育成力」を養うことができます。

人材育成マネジメントの進め方

会社や社員の成長には、人材育成マネジメントを適切に進めることが不可欠です。ここでは、人材育成マネジメントを進める5つの手順を解説します。

  • 現状の課題を把握する
  • 目標を設定する
  • マネジメント計画を立案する
  • 目標を共有した上で実行する
  • フィードバックを実施する

現状の課題を把握する

人材育成マネジメントを実施する上で、社員が抱える課題を把握することが重要です。経営戦略を考える中で、足りない人材やスキルが見えてきます。さまざまな課題を可視化することで、課題解決の糸口を見出すことができるでしょう。そして、人材をどう育成していけば良いかの指針が明らかになります。

目標を設定する

経営戦略を達成するためには、組織全体が同じ方向を向いていることが必要です。社員が目指すべき目標を設定することで、目標に向かって組織全体が一体となって業務を遂行できます。

目標を設定する際は、現状と目標とのギャップを考慮して、実現可能な目標を設定することが大切です。現状と目標との差が大きい場合は、目標までの間に小さな目標を設定すると良いでしょう。

マネジメント計画を立案する

目標を設定したら、マネジメント計画を立てます。計画の立案では、目標達成に必要な人材の要件を設計することです。現状の人材と人材要件とを比較して、不足する要件を可視化しましょう。不足要件を満たすための施策には、研修や資格取得などが挙げられます。

不足要件を満たすための施策を講じ、マネジメント計画を立てることが重要です。

目標を共有した上で実行する

設定した目標は社内で共有し、実行に移します。目標を社内で共有することで、組織内で達成に向けた一体感が生まれるほか、仕事へのモチベーションアップにもつながるでしょう。

前述のとおり目標と現実との差が大きい場合は小さな目標を設定することで、社員は小さな成功体験を積むことができるのです。

フィードバックを実施する

人材育成マネジメントでは、定期的なフィードバックの機会を設けることが不可欠です。社員は、業務に対するフィードバックを受けることで自身の課題を客観的に知ることができます。そして、課題解決に向けてどう行動すべきかを考え、行動に移す能力を養うことが可能です。

また定期的なフィードバックにより、社員は「評価されている」「会社に大事にされている」などと感じるようになり、仕事へのモチベーションアップにつなげられます。

人材育成マネジメントの役立つ資格

人材育成マネジメントを進めるためには、マネジメントや経営戦略に関するスキルや知識が必要です。円滑に実施するために、人材育成マネジメントに活かせる資格を解説します。

キャリアコンサルタント

キャリアコンサルタントは、社員のスキル向上やキャリア設計のための知識を証明できる国家資格です。各社員の能力や性格などを分析し、社員に適するキャリア形成を提案していきます。

人材育成マネジメントを適切に実施するためには、社員の現状をきちんと把握することが重要です。キャリアコンサルタントの資格を取得することで、社員との面談などを通して将来のキャリア形成をサポートするスキルを身に付けられます。

メンタルヘルス・マネジメント検定試験

メンタルヘルス・マネジメント検定試験は、社員の心的な不調の改善などに関する知識を証明できる公的資格です。企業や社員の成長には、働きやすい職場環境づくりが欠かせません。良好な職場環境を構築するために、精神面の健康管理が求められます。

いくら大きな目標を設定しても、業務を遂行する社員の精神的健康が損なわれていては、適切に業務を遂行できません。資格を取得して、社員が抱える精神面の負担を軽減し働きやすい環境を構築しましょう。

経営学検定試験

経営学認定試験では、人材育成マネジメントに必要な「経営管理能力」や「課題解決能力」を身に付けることが可能です。経営学認定試験には、対象者に応じて「初級」「中級」「上級」の3つがあり、マネジメントに関する科目は「中級」に該当します。経営戦略や内部統制についても学習できる点が特徴です。

ビジネスマネジャー検定

ビジネスマネジャー検定は、マネジャーに必要なスキルや知識が身に付く民間資格です。おもに「マネジャーの役割と心構え」「人と組織のマネジメント」「業務のマネジメント」「リスクのマネジメント」の4つに分かれています。

マネジメント業務に必要なスキルや知識だけでなく、管理職などへのキャリアアップとしても活かせる資格です。

人材育成マネジメントを成功させるには

人材育成マネジメントを実施するためには、組織や社員の状況に合わせた育成計画を立てることが重要です。

育成計画は、中長期的に進めることが大切です。そして、進捗を確認できるように、人材育成計画書を作成しましょう。人材育成計画書を作成することで、誰が担当者であっても計画を遂行でき、PDCAを回せるようになります。計画の進捗状況や現状の課題などを分析して各社員に対して計画書を作成することが大切です。

人材育成マネジメントを成功させるためには、納得感のある明確な評価が行われることも重要なポイントです。評価基準が明確に定まっており、業務内容や姿勢などに対する適切な評価がなされることで、社員の仕事へのモチベーションアップにつながります。また現在の評価や課題に対して、定期的に上司と部下が確認する機会を設けることも大切です。

なお、評価手法にはさまざまなものがあります。厚生労働省が設定している職業能力評価基準では「人材育成/能力開発」「人事評価」「採用」「検定試験」などに活用できます。

人材育成マネジメントに関するまとめ

企業の発展や社員の成長のために、人材育成マネジメントを適切に実施することが大切です。

本記事では、人材育成マネジメント実施の効果や適切な進め方などを確認してきました。人材育成マネジメントを成功させるためには、まず現状の課題をきちんと把握することが重要です。現状を把握した上で、目指すべき目標を設定しましょう。組織全体が一体感を持って目標達成に向かって歩みを進めることが、企業の成長に不可欠です。

本記事で解説したポイントを押さえて、自社に合う人材育成マネジメントを実施してみてはいかがでしょうか。