人材育成とは何か?考え方や大切なこと、主な手法をわかりやすく解説

人材育成・マネジメント

人材育成を実施したくても、「人材育成と人材開発の違いが分からない」「人材育成の具体的な手法を知りたい」「人材育成を成功させるポイントを把握したい」など、疑問を持っている人事担当者の方も多いでしょう。

人材育成は長期的に行う施策のため、時間や労力を要します。人材育成を正しく理解しいていないと導入しただけで中身が伴わず、失敗に終わる可能性が高いです。

この記事では、人材育成とは何か概要を解説し、人材育成の手法や人材育成の始め方、人材育成を成功させるために押さえるべきポイントまでを解説します。

人材育成を包括的に理解し、企業の業績向上や適切な人材育成制度の導入に役立ててください。

人材育成とは

人材育成とは、「企業の経営戦略の実現に向け貢献できる、良質な人材を育成する」ことです。単純に仕事ができるよう教育・訓練することは、人材育成にあたりません。

まずは人材育成について、目的や考え方など概要を解説します。

人材育成の目的

人材育成は企業の発展と存続を左右する重要な施策です。人材育成の目的は主に、次の3つが挙げられます。

  • 1.生産性の向上
  • 2.離職の防止
  • 3.キャリア開発

それぞれについて詳しく解説していきます。

1.生産性の向上

人材育成でスキルアップを図り従業員のパフォーマンスを高め、生産性の向上が期待できます。人材育成は従業員一人ひとりの成長にくわえ、企業の成長にもつながります。

2.離職の防止

長期的な視点に立ちコア人材を育成することは、経営戦略の達成につながる重要なポイントです。人材育成で個人のスキルを向上させ、能力を発揮できる環境を整えれば、人材が定着し離職防止の効果が得られやすくなるでしょう。

3.キャリア開発

人材育成では、従業員のキャリア開発に寄与するプログラムを導入しましょう。主体的にキャリアを築ける人材を育成することで、従業員自身が自己の成長を実感できモチベーションの維持につながります。

キャリア開発は従業員が主体となって行うものだと認識し、従業員の志向にあわせてサポートすることが重要です。

人材育成の考え方

人材育成を導入するには、次の考え方がポイントとなります。

  • 長期的な視点を持つ
  • 必要な人材の明確化
  • 従業員一人ひとりが業務と役割を理解している
  • 業務を実践できる
  • 組織全体で成果のフィードバック体制を構築する

人材育成は企業の経営戦略を達成することを大きな目的としています。長期的に人材育成を実施し、従業員が組織内での役割を理解し、やりがいを感じられる環境を整えることが人材育成の成功への近道です。

人材教育・人材訓練との違い

人材育成は、従業員を企業が目指す方向に成長を促すことです。それに対し人材教育や人材訓練は、「スキル・知識を教育訓練を通して教えること」のみを意味します。

人材育成は経験から人材を育成する手法を取るケースもあり、教えること以外でも従業員を育成します。人材教育や人材訓練は、人材育成の手法の1つという位置づけなのです。

人材開発との違い

人材開発は、「Human Resource Development」から派生した言葉です。HRDとは、人的資源を戦略的に育成するために行う人材育成や組織開発に関わる取り組みを言います。

人材育成は長期的に従業員の成長を促し、個人ごとにスキルアップできる環境を整える仕組みです。一方、人材開発は「組織の課題を解決するために従業員の知識・スキル・考え方を開発する」ことを指します。

能力開発との違い

人材育成とよく似た言葉に「能力開発」があります。能力開発は人材開発と同じように、潜在的な能力・スキルを開花させるという意味合いを持ちます。

能力開発とは個人が持っている能力を見つけて整理しながら、一層能力を高めていく活動です。能力のレベルアップが目的であり、企業の経営戦略の達成を目指していない点で人材育成とは異なります。

人材育成の主な手法

人材育成の手法は①狭義の手法、②広義の手法に大別できます。ここでは、狭義の手法について確認していきましょう。

1.狭義での人材育成の手法

狭義で人材育成を行う手法として、次の3つ代表的です。

  • OJT(On the Job Training)
  • Off-JT(Off the Job Training)
  • SD(Self Development)

以下で詳細を解説します。

OJT(On the Job Training)

人材育成の1つ目の手法はOJTです。OJTは「職場内でトレーナーのもと、業務を学んでいく」ものを指します。トレーナーは指導を担当する先輩社員があたり、研修の際はトレーナーがマンツーマンで新入社員を教育します。

OJTで指導する内容は、仕事に関連する知識・スキル・姿勢などです。OJTは能力開発の1つで、一般的に新入社員や若手を指導するために行われます。

個別の成長・習熟度にあわせて、マンツーマンで指導でき、実際に業務を通して自らの経験として学べる点がOJTのメリットです。

Off-JT(Off the Job Training)

2つ目の狭義の手法は、Off-JTです。Off-JTは職場や業務から離れて行われる指導を指します。例えば講師を招きセミナーの開催、会場に赴いて研修の受講などです。

Off-JTのメリットは、体系的な知識をインプットでき、グループワークなどを通して他部署と新たなコミュニケーションが生まれることです。また、階層・職能ごとに研修を行えば、より専門的な知識・スキルを高められるでしょう。

SD(Self Development)

SDとは「自発的にスキルアップを図ること」、つまり自己啓発を言います。例えば、積極的にセミナーへ参加、資格取得、読書を通して学習するなど、さまざなま方法があります。

OJTやOff-JTと決定的な違いは、自らの意志で自身のキャリアのために学習へ取り組む点です。企業がSDを支援する方法として、費用の補助、勉強会の開催、eラーニングシステムが受講できるよう環境整備が挙げられます。

SDは従業員が方法・勉強のタイミングを好きなように選択できるため自由度が高く、制度を整えておけば教育担当者の負担軽減が期待できるといった特徴があります。

2.広義での人材育成の手法

人材育成の狭義の手法として、3つの例をご紹介しました。次に、広義の手法を3つピックアップしたので、確認していきましょう。

ジョブローテーション制度

ジョブローテーション制度とは一定期間ごとに人材を異動させ、従業員にさまざまな部署で経験を積ませて多角的に事業を見据える力をつけさせる人事異動制度のことです。

メンター制度

ベテランの従業員がマンツーマンで新入社員や若手をサポートする制度です。スキルの指導だけではなく、精神的なフォローも制度の目的の1つ。代表的なメンター制度の取り組みに、「1on1」があります。

目標管理制度(MBO)

目標管理制度とは個人に目標を設定してもらい、達成の状況に応じて人事評価を行う仕組みです。自分で目標を立てて、達成度を自己評価させるため自律的な人材育成に効果的な手法と言えるでしょう。

階層別の人材育成におけるポイントと必要スキル

どの階層の人材を育てるかによって押さえるべきポイントや求められるスキルは異なります。新入社員と中堅社員に分け、確認していきましょう。

新入社員の育成ポイントと必要スキル

人材育成を新入社員に行うときは、中堅社員と違いキャリアが浅いため、丁寧な指導を心がけます。

間違っていることは的確に指摘して基礎固めを意識することがポイントです。何が間違っていて、具体的にどうすれば良かったか論理的に説明しましょう。基本的な知識・スキル・マナーを重点的に指導するのが効果的です。

新入社員を指導する際は、指導者側にコミュニケーション能力が求められます。指導者自身の新入社員の時代とは、仕事に対する考え方が異なっている可能性もあるでしょう。新入社員の育成をするときは、「自分が若い頃はこうだった」という考えは脇へ置き、新入社員それぞれに柔軟な対応をするコミュニケーション能力が必要となります。

中堅社員の育成ポイントと必要スキル

中堅社員とは、一般的に入社して3年を経過している従業員を指します。新入社員に対する基本的な育成ではなく、次のステージに進むための指導を行いましょう。

育成するときのポイントは、マネジメントスキルの向上に重点を置くことです。部下を持たせて育成し、全体を見渡す視野の広さを習得してもらうような育成プログラムを組むのがおすすめです。

マネジメント力を養うためには現状を把握するスキルと、目標設定スキルが欠かせません。指導を行う担当者にも、この2点が特に求められます。

人材育成の始め方4ステップ

人材育成を導入するには手順を押さえることと、自社に適した手法を選ぶことで高い効果を得られます。人材育成をやみくもに実施しても、課題改善にはつながりません。

人材育成を始めるときは、次のステップごとに進めていきましょう。

1.目標を設定する

人材育成の目的を達成するために欠かせないのが目標設定です。具体的に数字を盛り込んだ目標を立て、モチベーションを向上させながら自発的に業務へ取り組んでいけるよう促しましょう。

人材育成の目標設定をする上で大切な6つのポイント【具体例付き】

2.現状の課題把握

次のステップは、現況の課題の洗い出しです。課題の棚卸をしたら、優先度の高い課題や解決が必要なものかなどを精査します。自社の経営戦略にとって重要な課題であれば、取り組みも重点的に行う必要があります。

なお、課題は、

  • ①戦略的なもの
  • ②組織的なもの
  • ③人材育成に関するもの

の3つに分類できるので、洗い出すときは人事で解決できるものと、そうでないものに振り分けておくと良いでしょう。

3.理想の組織像・人材像を考える

3つ目のステップは組織と人材の明確化です。自社が理想とする組織の在り方や必要な人材がはっきりしていないと、人材育成を行ってもズレが生じる恐れが高くなります。

どのような組織になりたいのかイメージを浮かべ、その理想実現に貢献してくれる人材に求めるスキルが何か、考えてみてください。人事視点だけではなく、経営者のビジョンも交えて組織増と人物像の見直しをすることがポイントです。

4.適切な解決方法を決定する

最後のステップは、自社にとって最適な解決方法を選ぶことです。会社によって抱える課題が違い、働く人の雰囲気や会社の風土も千差万別。

他の会社が行った解決方法が自社に最適とは限りません。あらゆる要素を加味し、最も効果的な解決方法が何かじっくり検討しましょう。

人材育成におけるよくある課題

人材育成の課題として、次のようなものが挙げられます。

  • 人材育成への意識が低い
  • 業務が多く、人材育成に時間が取れない

平成26年と少し古いデータではありますが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の行った「人材マネジメントのあり方に関する調査」では、人材育成上の課題として最も多かった回答は「業務が多忙で、育成の時間的余裕がない」でした。

人材育成を成功させるには、人事だけではなく経営層を含め会社全体が人材育成の重要性を理解し取り組んでいくことが重要です。

(人材育成課題の記事ができたら内部リンク)

人材育成を成功させるために大切なこと

人材育成は長期的な企業の成長に欠かせませんが、せっかく実施しても効果が得られないと悩む企業も多いです。

そこで本章では、人材育成を成功に導くポイントを4つピックアップしました。

スキルマップを作成する

人材育成を成功させるには、スキルマップの作成が重要なポイントです。スキルマップとは従業員の役職やキャリア、必要なスキルをまとめた時系列順の表を言います。

スキルマップを作成することで、「いつまでにどのようなスキルを習得すべきか」という指標が一目で分かり、効率良く人材育成を行え、従業員の成長も速められる効果が期待できます。

社員の自発性が高まる環境を作る

社内環境の整備は、人材育成の成功に欠かせない要素です。人材育成で能力を高めても、スキルを発揮できる環境が整っていなければ自ら行動していく人材には育ちません。人材育成と環境整備はセットで行っていきましょう。

例えば不要な社内ルールの廃止やチャレンジできる風土を築き、正当な評価がされていると納得できる人事評価制度を導入するなどです。従業員が頭で考え自発的に能力を存分に発揮できる環境を整えることが、人材育成の成功につながります。

参考文献:

実戦機会とセカンドチャンスを与える

先ほど説明した「自発性の高まる環境作り」と同じように、従業員が育成によって得た知識・スキルを発揮できる環境を整えて、機会とチャンスを与えましょう。

失敗も経験の1つであり、人材育成の一環です。また、失敗してもチャレンジできる環境であれば、反省点から学ぶ力や、課題解決力を身につけられます。

人材育成の成功には、従業員に実戦機会を提供し、失敗を恐れず挑戦できるようにチャンスを与えることがポイントです。

企業全体で取り組む

人材育成は人事といった部署単位ではなく、企業の経営に影響をおよぼす重要な取り組みと認識して、組織全体で人材育成に関わりましょう。

人材育成は前述した通り、企業の経営戦略の実現に貢献できる人材を育成することが目的です。組織全体で取り組めば、理想とする組織像からの乖離を防ぐことにつながります。

人材育成に関するまとめ

人材育成とは、企業の経営戦略の達成に貢献できる人材の育成を指します。人材育成は深刻な人手不足を抱え、コア人材の確保が厳しくなっている今、企業の発展に欠かせない重要な取り組みの1つです。

今回の記事では、人材育成の概要、人材育成の手法を狭義、広義ごとに解説し、人材育成の始め方についてご紹介しました。

人材育成は実施までに課題の把握、解決策の考案など時間と労力が発生します。限られた人材を戦力として育てる重要性を認識し、意識改革を行うことが人材育成の第一歩と言えるでしょう。

この機会に、ご紹介した内容を参考に人材育成の取り組みを1秒でも早くスタートしてみてはいかがでしょうか。