人材育成は、労働力人口の減少により人手不足に直面している企業にとって、重要なテーマです。人材育成を行わないままだと、将来的に人材が確保できず、業務に支障が出る恐れもあります。
しかし、効果的な人材育成を実施できている企業は多くありません。なぜ人材育成の取り組みが上手くいかないのでしょうか。
今回は人材育成における企業の課題と解決方法、人材育成の手法や選び方、人材育成の課題について解説しています。
人材育成の課題の内容と解決方法を理解して、対策を立てた上で人材育成を行い、従業員の育成を効率良く進めるのに役立ててください。
そもそも人材育成とは?
人材育成とは、「企業と共に成長できるよう従業員を育て、経営戦略や業績向上の実現を目指す取り組み」を指します。ただし、育てるといっても従業員を管理職にすることや、スキルを教えて稼げるようにすることを目指すわけではありません。
人材育成はスキルや知識を単純に教えることではなく、主体的に考えて行動できる人材になるよう育てることです。
また人材育成では、従業員の一般的な能力・専門性を向上、モチベーションアップ、退職の予防といった効果が期待できます。
人材育成において企業が抱える6つの課題と解決策
人材育成は従業員を定着させ、企業が成長していく上で欠かせない施策の1つです。人材育成を成功につなげるには、失敗する要因を理解しておくことが重要です。
ここでは人材育成の課題を6つピックアップし、解決策もあわせて以下で確認していきましょう。
1.社内の体制が整っていない
1つ目の課題は、社内体制の不備です。社内の風土や体制が人材育成に適していないと、人材育成の計画が素晴らしくても、期待している効果は得られません。
社内体制が整っていない状態とは、下記のようなケースを指します。
- 年功序列で成果が評価されない
- 昇給基準がなく、成果を出している人も出していない人も一定の額しか昇給しない
- 挑戦できる環境ではない
成果が評価されない環境では、従業員は積極的に行動して業績向上を目指そうという意欲は沸きません。また、チャレンジしても失敗を叱責される職場では、主体的に思考して実践にうつすのが難しいため、従業員はのびのびと働けないでしょう。
自らどうすべきか考え、行動できる人材に育てるには、社内体制の整備が欠かせません。例えば評価制度を設計し、モチベーションを維持しながら働ける体制を整えたり、どんどんチャレンジできるよう企業風土を見直したりして、体制を見直しましょう。
2.目的や方向性が定まってない
目的や方向性があいまいなことも、人材育成の課題の1つです。人材育成の効果を得るには、人材に求める知識・スキルを明瞭にした上で、目的を定めることが重要です。漠然と人材育成をスタートしても、目指す方向が決まっていないと、誤った目的地に進んでしまう恐れがあります。
この課題を解決するために、自社の現状の洗い出しと、人材に求めるスキルを整理することから始めましょう。また、部署やグループごとに人材育成の目的、方向性を定めて人事と現場の従業員の認識にズレが生まれないように配慮することが大切です。
人材育成を効率良く進めるには、目的と方向性を明確にして準備を整えましょう。方向性が定まれば、従業員にどんな教育訓練を行うべきか、自然と見えてきます。
3.人材育成に対する意欲が低い
3つ目の人材育成の課題として、人材育成への意欲が低いことが挙げられます。人事だけで人材育成を実行しても、従業員の上司や先輩、経営陣といった周囲の協力がなければ、計画が進まず失敗につながる可能性が高いです。
この課題の解決策は、会社全体の意識改革です。まず、社内の人たちに人材育成の目的を伝えて「なぜ人材育成が必要なのか」「人材育成のメリットは何か」を丁寧に説明することから始めましょう。
ある程度重要性を説明したら、具体的な行動を示します。例えば人材育成を進めるために何をすべきか管理職・リーダー層に考えてもらい実行を促したり、従業員にどのように仕事に取り組んで欲しいかを伝えたり、行動の方向性を示しましょう。
人材育成を成功に導くには経営陣や管理職、従業員全員が一丸となり、人材を育てていこうと高い意欲を持つことがポイントです。
4.人材育成のスキルがない
4つ目の課題は、人材育成に必要な知識・スキルの不足です。人材育成を従業員に行う前に、教育担当者が人材育成に関する知識・スキルを習得する必要があります。
教育担当者のスキルが不十分だと、費やした時間に対して効果が得られず、教育担当者も従業員もモチベーションが下がってしまうでしょう。
まずは教育担当者に人材育成の教育を施しスキルアップを図ることが、課題解決につながります。人に教えるといっても、従業員の個性や習熟度によって指導の方法は異なるはずです。教育担当者に求められるスキルとして、次のようなものがあります。
- 教育技法の基本的な知識と実践経験
- 人材育成の実施後に効果測定などの分析力
- コミュニケーション能力
人材育成を成功させるために、会社は教育担当者の育成スキルを磨くことから進めましょう。
5.人材育成に取り組む時間・予算がない
人材育成の大きな課題の1つが時間と予算です。人材育成をしたくても、現場の上司、先輩従業員が業務に追われていては、後輩の指導に時間を確保するのは難しいかもしれません。また、企業によってはあまりお金をかけられないところもあるでしょう。
しかし、人材を採用できたとしても定着せず数年で辞めてしまっては、採用コストや教えた労力が水の泡になってしまいます。会社が人を育てようとしなければ、採用と退職を繰り返し、肝心の人材が確保できないという負の連鎖が生まれるリスクもあります。
人材育成にあてる時間や予算がないという会社は、人材育成の時間やお金を投資と捉えてみてください。長期的な視点で考えると、決して人材育成のコストは高い物ではないはずです。
人材育成の課題を解決するには、投資と割り切り、会社全体で取り組んでいくことが重要なポイントです。
6.自社に合った手法を選べていない
人材育成の手法を間違っているケースもよくある課題です。会社が求める人材は組織によって異なります。例え他社が成功した育成の手法であっても、自社で同じ成果が得られるとは限りません。
また、カリキュラムの内容が良くても、必要のない従業員に研修を行っても充実度は低いでしょう。自社の風土や従業員の個性に適した人材育成の手法を選び、実践することが成功に一歩近づきます。
この課題を解決するために、人材育成の方法や従業員のレベルなどを人事と現場が情報共有し、会社全体で人材育成に取り組むことが重要です。また、自社の状況に照らして、効果の出やすい人材育成の手法は何かを充分に検討しましょう。
人材育成を円滑に進めるためには、会社の状況の把握、課題の洗い出し、自社の風土などを行い、費用と相談しながら適した手法を選ぶことが大切です。次の章で具体的な手法と選び方を紹介するので参考にしてください。
人材育成の手法と選び方
人材育成の手法は、主に次の6つです。
- OJT
- OFF-JT
- e-ラーニング
- 自己啓発
- 目標管理制度
- メンター制度
以下で詳細を解説します。
OJT
OJTとは、通常の業務をこなしながら従業員を教育する仕組みです。例えば上司や先輩が業務のやり方や基本的な知識などを、業務を進行しながら教えます。業務に関する初歩的な内容を教育するため、新入社員や経験の浅い従業員の指導に適しています。
メリットとしては、
- 習得した知識をすぐに活用できることと
- 低コスト
が挙げられます。OJTは実際の業務について学ぶので、現場ですぐに実践できる点が大きな特徴です。
一方デメリットとしては、
- 指導者のスキルや価値観に影響を受けやすい
という点になります。指導の専門家ではないため、指導者の教え方によっては能力が偏る可能性があります。
OFF-JT
OFF-JTとは、セミナーや研修を通して学びを得る教育訓練です。専門の講師を呼び、対象となる従業員を集めて特定の知識・スキルを身につけさせます。階層別、スキル別に指導するため若手~中堅社員まで幅広い従業員が対象です。
メリットとしては、
- 均等に教育するため知識のバラつきを防げる
- 体系的に知識をインプットできる
という2点が挙げられます。
デメリットとしては、
- 講師の人件費や設備費などのコストが発生する
という点です。
e-ラーニング
e-ラーニングとは、オンラインで学習する仕組みを言います。オンラインで好きなときに好きな場所で学習ができるため、特に外周りに出ている営業職は受講しやすいです。
メリットは、
- 自由に学べる
- 従業員一人ひとりのスキルに応じて学習を進められる
といった、柔軟に学習が進められる点が、e-ラーニング大きな魅力です。
一方デメリットとしては、
- 教材の選定をはじめとする時間や費用が発生する
という点です。初期投資が必要な点は、e-ラーニングのデメリットと言えるかもしれません。
自己啓発
自己啓発とは、「自発的に学習しスキルアップすること」を指します。自己啓発の代表的な方法はセミナーの受講、読書、資格取得、社内の勉強会への参加などです。
メリットは、
- 柔軟に学習ができる
- 環境の整備次第では教育担当者の負担軽減につながる
上記2点が自己啓発のメリットとして挙げられます。
デメリットは
- 従業員ごとで身につく知識やスキルにバラつきが出やすい
という点です。自由度が高い分、均一なレベルアップが難しいのは自己啓発のデメリットです。
目標管理制度
目標管理制度とは、従業員が個人目標を定め、進捗や達成度を評価するマネジメント方法です。組織目標とリンクした個人目標を自ら決めてもらうことで、主体性が身につき課題解決のために意欲を持って行動できます。
メリットは、
- 主体性と課題解決力の向上
が挙げられます。対してデメリットは、
- 目標設定が低くなりがち
上記が目標管理制度のデメリットです。
メンター制度
メンター制度とは、上司ではなく年齢や社歴が近い先輩が、新入社員や若手社員をフォローする仕組みを指します。メンターとは助言者、相談者を意味する英語です。
メリットは、
- 新入社員や若手社員が孤立するのを防げる
- メンター自身のマネジメント能力のアップ
です。コミュニケーションを取りながら、メンター自身成長できるメンター制度の点が魅力です。
反面、デメリットとしては、
- メンターの業務的負担が増える
- 相性によっては信頼関係を築くまでに時間がかかる
この2点がデメリットと言えるでしょう。
【階層別】人材育成の課題とポイント
人材育成の基本的な課題を押さえたら、次に階層別でどのような課題を抱えやすいか確認していきましょう。
新卒社員の課題とポイント
新入社員の課題は業務に対するやりがい、モチベーションが見つけられない点です。新入社員は慣れない環境の変化に適応しながら業務をこなすため、ストレスが多く業務そのものにやりがいを見出すことが難しいでしょう。
新入社員を育成するときは、丁寧なコミュニケーションがポイントになります。例えばOJTやメンター制度など、コミュニケーションを取りながら安心感を与え、仕事の価値に気付かせる手法がおすすめです。
若手から中堅社員の課題とポイント
若手~中堅社員の育成の課題は、後輩の指導にあてる時間の捻出です。若手社員や中堅社員は業務や責任が年々増え、後輩や部下の教育や育成に手が回らなくなります。
この課題解決のポイントはeラーニングを導入し、効率良く指導力を磨ける環境を整えることです。オンラインで柔軟に学べる環境を整備し、後輩の指導に時間がとれるようサポートしましょう。
リーダー層の課題とポイント
リーダー層の課題はマネジメント能力、リーダーとしての資質・能力の向上、リーダーシップなど多岐にわたります。
リーダー層は通常業務だけではなくリーダーとしてふさわしい振る舞いや能力が求められるため、マネジメントやコーチングの研修を実施して、育成レベルをアップさせることがポイントです。
また、業務過多で指導に手が回らないリーダーに対しては業務量を調整するなどして、会社はリーダー層が人材育成がしやすい環境をつくりましょう。
人材育成の課題に関するまとめ
人材育成は企業の成長に大きな影響を及ぼす重要な施策です。人材育成の課題を理解して対策を立て、準備をして取り組むことが成功につながります。
人材育成を実施できていない、人材育成を導入したものの失敗したという方は、自社にとっての人材育成の課題を突き止めましょう。
今回の記事では人材育成の概要、人材育成の課題と解決策、人材育成の手法の種類や、階層別の人材育成の課題をご紹介しました。
人材育成の課題を知り、会社と従業員の両者にとって価値のある取り組みとなるよう、効果的な人材育成の手法を検討してみてください。