管理職が退職を考える理由とは?会社に及ぼす影響とできる対策

管理職の退職 人材育成・マネジメント

終身雇用が崩壊しつつあり、転職が一般的となっている近年、会社の核となる業務を担っている管理職から突然「やめたい」と言われたことがある経営者の方もいるのではないでしょうか。確かに、このようなミドルクラスの人材にやめられては企業にとって大きな痛手です。場合によっては、業務に支障が出るケースもあります。

この記事では、管理職がやめてしまう理由と周りに及ぼす影響について解説します。あわせて、離職を防ぐために企業ができる対策も紹介するので自社の離職対策に役立ててください。

管理職が退職を考える主な原因とは?

そもそも、何年も働いて管理職というポジションを得たにもかかわらず、離職するのはなぜでしょうか。管理職がやめてしまうのは、主に以下の原因があります。

激務だから

管理職は自分の業務に加えて、部下のマネジメントやクレーム対応など、一般社員に比べて多岐に渡ります。さらに、管理職になると目標の達成や数値管理、経費節減など経営にかかわる業務も増えます。

一方で、管理監督者になれば残業代は支給されません。(管理監督者の定義については厚生労働省のこちらの資料を参考)このように、業務範囲が広すぎて激務になり、精神的に疲れてしまうことがあります。

業務範囲の割に給料が安いから

管理職になると業務範囲が広くなり、やらなければならないことが多くなります。たとえば、大きなプロジェクトを任されることもあるでしょう。その業務範囲や責任の大きさの割に、給与が見合わないと感じている人も少なくありません。

このように、仕事に見合った報酬がもらえないと感じれば、モチベーションが下がり前向きな気持ちで仕事をすることが難しくなります。

ストレスが強いから

管理職は、現場でのプレーヤーの側面と経営側の側面を持ち合わせています。そのため、部下に対して言いにくいことを伝えたり、逆に部下から会社に対しての不満を聞いたり、どちらの立場にも耳を傾けなければなりません。

また、管理職は立場上、誰かに相談できることが少なく、ひとりで悩む人もいます。このように、経営層と現場スタッフの板ばさみになり、ストレスを感じてしまうケースが多いのです。

そもそも管理職に向いていなかったから

多くの場合、会社から任命されて管理職に昇格する場合が多く、性格的に管理職に向いていないという場合があります。

たとえば、これまでの営業実績が認められて管理職に抜擢されたものの、マネジメントは性格的に向いておらず、苦痛になるケースなどがあるのです。

このような人は、プレイヤーとして現場で仕事をするほうが向いています。管理職に向いている人の特徴についてはこちらの記事をご覧ください。

管理職に向いてない人の特徴とは?適正の見極め方や選ぶ際の注意点

会社の将来性に不安を感じたから

管理職になれば、会社の業績に関わる数値を目にする機会が増えます。今まで知り得なかった経営状態や経営方針などを知り、会社の将来に不安を覚えるケースも少なくありません。
また、業界関連の会合に参加するなど、社外の人と会う機会も増えます。

そこで業界内で自社の良くないうわさを聞くこともあるかもしれません。そうなると、優秀な管理職ほど早々に見切りをつける可能性があります。

自身のキャリアを考えて転職

管理職になり仕事の幅が広がることで、もっとキャリアアップしたいと考える人もいるでしょう。しかし、自分が求めるキャリアが今の会社では実現できないと感じた場合、転職や独立を考えるケースがあります。

成長意欲が高い社員ほど、キャリアアップのための転職を考える傾向です。管理職の転職については、こちらの記事で詳しく解説しています。

管理職の転職は難しいと言われる4つの理由と成功ポイントを解説

管理職の退職が周りに及ぼす影響

管理職が退職すると、企業は少なからず影響を受けます。会社や部下、取引先に対してどのような影響があるのかをそれぞれみていきましょう。

会社への影響

管理職がやめると、組織としての業務に影響が出ることは避けられないため、早めに後任を決定し、スムーズに引き継ぎを行うなどの措置が必要です。具体的には以下の影響が考えられます。

意思決定や伝達事項の遅れ

管理職は意思決定を行う役割も果たしています。新しい管理職が選出されるまでの間、組織の意思決定に遅れが生じることが少なくありません。また、リーダーを失うことで、部署間の連携がうまくいかないことや経営層からのメッセージが伝わりにくくなることも考えられます。

これらが原因で業務の進行や進行中のプロジェクトに影響が及び、生産性が低下する可能性があることは認識しておかなければなりません。

方向性が変わる可能性

すぐに新しい管理職を着任させた場合でも、考え方の違いから部署の方針や戦略が変わることもあるため注意が必要です。たとえば、営業戦略や業務の進め方などが変わるケースは少なくありません。また、コミュニケーションや人間関係の構築に時間がかかることも多く、組織内に一時的な混乱が生じる可能性があります。

このように、新しい管理職の経験や判断基準が前任者と異なる場合、意思決定のプロセスやプロジェクトの方向性などに変化が生じる可能性があります。このように、企業運営に影響を及ぼしかねないので、十分な意見のすり合わせが必要です。

部下への影響

これまでの上司がいなくなるわけですから、部下への影響は避けられません。場合によっては組織として機能しなくなるケースもあるため、退職がわかった時点で早めの対処が必要です。部下への影響については以下のようなものがあります。

モチベーションの低下

管理職は部下を指導し、組織を引っ張る役割を果たしています。そのリーダーがいなくなることで、チーム全体の目標に対する意識や適切な指導がなくなり、モチベーションの低下を引き起こす傾向があります。

さらに、コミュニケーションの低下により、スタッフのパフォーマンスにも影響を及ぼしかねません。これは後任が選ばれるまでに時間がかかるほど、影響が出る可能性があります。

連鎖退職リスクの増加

退職した管理職が周りからの信頼や人望がある人物ほど、他のスタッフが動揺する可能性があります。目標としていた上司の退職によって、別の上司と仕事をすることを嫌って退職するケースは少なくありません。

また、場合によっては退職した管理職が引き抜く可能性もあるでしょう。このように、管理職の退職は部下の人材流出につながる恐れがあります。

取引先への影響

管理職が退職したときは取引先への影響を最小限に抑えなければ、企業全体のイメージダウンにつながりかねないので注意が必要です。管理職クラスの人材がやめると「社内で何か問題があったのではないか」と思われ、取引先を不安にさせることがあります。

特に、突然の退職などは取引先から組織や経営に対する疑念が生じる傾向にあり、このような事態は避けなければなりません。重要な仕事をしている人ほど疑念や不安が強くなるため、退職の背景や今後の対応策について丁寧な説明が必要です。

管理職が退職しない為に企業ができる対策

解説してきたように、管理職に退職されると社内・社外を含め、さまざまな影響が出る恐れがあります。そのためには、やめたいと思わせない環境づくりが重要です。以下に対策を紹介しますので、できるところから進めてください。

信頼関係を構築する

管理職は責任者として部下がいる立場上、自分の悩みや相談ができる相手がいないことも多くあります。かといって、上司であるあなたに気軽に話しかけることは難しいのです。そのため、積極的なコミュニケーションを心がけ、信頼関係を築くことが重要です。

いつも気にかけてくれていると感じれば、悩みなどを相談しやすくなり、迅速な問題解決や失敗を未然に防ぐこともできるでしょう。よくあるパターンとして、個人を尊重して好きにさせているという人もいます。しかし、自分には無関心であると思わせてしまうケースがあるので、頻繁にコミュニケーションをとりましょう。

予算や人員配置を見直す

管理職はプレイングマネージャーとして自らの実績に加え、部門責任者としても成績にも責任がある立場です。どうすれば全体目標達成ができるのか、自分たちの実力ならこれくらいはいけるだろうということを一番理解しています。

しかし、その実力以上の目標やノルマを与えてしまうと、予算を達成できずチーム全体のモチベーションが下がる可能性があるのです。確かに、メンバーのモチベーションを向上させ、目標を達成するのが管理職の役目です。

ただ、あまりに高い目標だとモチベーションが上がらず、不満につながります。新たな人材確保など、人員配置の見直しをしないまま、高い目標だけを与えるのはやる気をなくしてしまう原因です。

評価制度や待遇を見直す

管理職に限らず、退職理由で一番多いのが給与に対する不満です。特に、管理職の場合は、管理職手当が支給される代わりに残業代がないため、仕事量だけが増えたと感じるケースが少なくありません。

給与が現状の仕事量に見合わず、物足りないと感じれば退職につながる恐れがあります。そのためには「正当な評価」と「仕事に見合った待遇」の改善が必要です。同じ管理職でも、業務の質や貢献度によって待遇を変えるなど、今の制度が公平に評価される仕組みになっていなければ再構築しましょう。

ストックオプションを付与する

管理職を対象にストックオプション制度を導入するのも有効です。会社の業績が上がれば株価が上昇し、ストックオプションの利益は大きくなります。つまり、会社に貢献した従業員に対するインセンティブにもなるのです。

将来の株価上昇によって売却益が増えるとなれば、仕事に対するモチベーションが上がり、さらに貢献してくれるでしょう。また、ストックオプション制度があることで「権利を行使する前にやめると損をする」と考えるようになれば、人材の流出も防げます。

管理職の退職に関するよくある質問

最後に、管理職の退職に関して多く寄せられる質問にお答えします。

管理職が退職する時期で多いのは?

管理職の退職が多い時期は年度末の3月です。新年度からプロジェクトが立ち上がるなど、企業が新たに何かを始めるタイミングでもあり、転職しやすい時期だと言えます。このように、管理職は責任がある立場のため、年度末で1年の区切りがつくタイミングで退職するケースが多くなります。

管理職が退職意向を告げるタイミングは?

法的には退職日の2週間前に申し出れば問題ありません。しかし、管理職ともなればすぐに退職できないことを承知しています。そのため、余裕を持って2〜3か月前に申し出るのが一般的です。

たとえば、年度末の3月で退職したい場合は12月頃に意思表示する場合が多いので、残された3か月の間に後任人事や引き継ぎを行う必要があります。

管理職の退職に関するまとめ

管理職の退職は想像以上に影響が大きく、従業員の混乱や取引企業からの疑念が生じれば、企業活動に少なからず影響がでます。さらに、管理職を失ったことで組織のモチベーションにも影響を与えかねません。

気をつけなければならないのは、退職の連鎖です。社内で慕われていた管理職であるほどその影響は大きく、後を追うように部下が退職していく恐れがあります。このように、管理職の退職は、企業にとってマイナスにはなってもプラスになることはないのです。

このような事態を招かないためにも、管理職の業務内容や評価制度を今のうちから見直すことをおすすめします。