社員が管理職になりたくないと思う理由と企業側が行うべき対策

人材育成・マネジメント

かつては管理職への昇進は、喜ぶべきキャリアでしたが、近年では「管理職になりたくない」と考える一般社員が増えています。管理職への昇進を嫌煙する背景には、管理職へのネガティブなイメージがあります。

本記事では、昇進を嫌煙する理由を解説するとともに、管理職になりたくないと考える社員に対して会社側ができることを紹介します。

管理職になりたくない人は多い?

昇進として喜ばしいイメージがある管理職ですが、「管理職になりたくない」と考える人は一定数います。 男女共同参画白書によれば、男性で課長以上への昇進を希望する人や一般従業員で約5割~6割、女性にいたっては1割程度と、管理職になりたいと希望する人のほうが少ない状況です。

ただし、係長や主任などすでに役職についている人は、管理職への昇進を希望する割合は、一般従業員と比較して高くなっています。

また、年齢によっても管理職への昇進を希望する割合は異なります。マンパワーグループの調査によると、40代・50代と年齢が高くなるほど昇進を希望する割合は減少。20代・30代は比較的管理職への昇進希望が高い傾向にあります。

それでも7割近くの人が「管理職になりたくない」と考えています。このように、管理職になりたくないと考えている人は多いのが現実です。

社員が管理職になりたくないと考える主な理由とは

社員が管理職になりたくないと考える主な理由は、「責任の重さ」や「業務量が増えること」です。また、管理監督者になることで労働基準法の労働時間の適用から外れ、残業代が支給されないことも大きな懸念となっています。以下は、株式会社ビズヒッツによる「管理職になりたくない理由に関する意識調査」の結果になります。

順位理由
1位責任が重い
2位割りに合わないと感じる
3位仕事・残業が増える
4位人間関係で悩みそう
5位管理職に向いていない
6位残業代が出ない
7位今の仕事を続けたい
管理職になりたくない理由に関する意識調査を元に作成

「責任が重い」「仕事や残業が増える」「残業代が出ない」という理由について、以下に詳しくみてみましょう。

責任が重い

管理職になれば、チームや部門の成績が個人の評価となります。自分だけが努力して頑張ればよかった一般社員のときとは異なり、部下の業績に気を配り、適切な指導法を考えなければなりません。また、会社の経営方針をかみ砕き、現場を導くのも管理職の役割です。役職によって裁量や責任の大きさに違いはあるものの、現在の仕事よりもプレッシャーが大きくなることを懸念する社員は少なくありません。

仕事や残業が増える

業務範囲が広がることで、仕事量そのものが増えることへの懸念もあります。これまでの仕事とは異なり、明確な業務の終わりが見えないというのも、マネジメント業務の特徴です。ときには、プロジェクトの改善案を探すために残業をする必要があるかもしれません。現在の仕事よりも、さらに大変になることを懸念し、管理職への昇進を拒むことは珍しい理由ではないでしょう。

残業代が出ない(年収が減る)

管理職への昇進を懸念する理由の大きなものが、年収の減少です。管理職のなかでも、勤務時間の自由や経営者と同じ立場など、大きな裁量が認められている管理監督者は、労働基準法の休日・労働時間の適用をうけません。本来であれば、大きな年収と大きな裁量を得ている一方で、時間外労働や休日労働への残業代が支払われないことになります。

しかしながら、多くの企業で、労働の実態は一般社員と変わらず拘束されるにも関わらず、残業代だけが削減される「名ばかり管理職」の問題があります。そうした背景から、年収減少を懸念し、管理職への昇進を拒む人がいます。

管理職になると残業代が出ないのはなぜ?管理監督者との違いから解説

女性社員が管理職になりたくないと考える理由

女性社員が管理職になりたくない理由も、多くの点で男性と共通しています。前述と同様、「管理職になりたくない理由に関する意識調査」の結果を元に女性が管理職になりたくない理由を紹介します。

順位理由
1位責任が重い
2位仕事・残業が増える
3位管理職に向いていない
4位割りに合わないと感じる
5位人間関係で悩みそう
6位残業代が出ない
7位今の仕事内容を続けたい

女性社員の回答でほかに多いのが、「管理職に向いていない」というもの。マネジメントスキルや評価スキルなど、管理職に求められるスキルに自信がない、管理職向けのスキルを身に着けるよりも現場でのスキルを磨きたいといった心理が考えられます。

また、「人間関係に悩みそう」という理由から、管理職の悩みをわざわざ背負いたくないという心理も働いているでしょう。女性管理職における現状については以下の記事も参考にしてください。

女性管理職の現状と増やすメリットは?企業が行うべき取り組みを解説

管理職になりたくない社員が多いことが会社に与える悪影響とは

管理職になりたくない、昇進に積極的でない社員が増えてしまうと、職場の雰囲気に影響を与えます。昇進をしなくてもいいと考えている社員は、定型業務を行うだけで満足してしまうかもしれません。キャリアに対する考え方は人それぞれだったとしても、ときには、挑戦や競争は、社員のモチベーションを向上させるために必要です。

また、管理職が憧れのロールモデルでないということは、管理職に対する尊敬の低下につながるかもしれません。組織規模によっては、管理職と部下の信頼関係が、組織成長の鍵になることもあるでしょう。社員の「管理職になりたくない」という気持ちは、中長期的にみれば、次世代の管理職育成の壁となる可能性があります。

管理職になりたくない社員がいる際に行うべき対処法

管理職を打診したのに難色をしめされた、管理職になりたくないという声が若手社員の間から聞こえてくる。自社でこのようなケースがある場合、どんな対処法が考えられるでしょうか。キャリアプランは人それぞれとはいえ、将来の管理職を育てることは、組織を強くするためには不可欠です。以下に、会社として行える対応策を見てみましょう。

管理職を憧れの存在にする

かつては、組織の中で昇進を続け、より高い職位を目指すことが「勝ち組」のキャリアとされていました。しかし、現代のように価値観や働き方が多様化した時代では、ワークライフバランスや自分なりのキャリアを考える人も多く、管理職になることが普遍的な目標ではなくなっています。

それを踏まえつつ、管理職に対するネガティブなイメージを払拭することが重要です。指導力に優れた管理職や、強いリーダーシップを発揮できる管理職を表彰する制度を設ければ、従業員にロールモデルを示すことができます。また、子育てを経て昇進した女性社員や、成果と能力を評価され20代で管理職となった社員など、さまざまなタイプの管理職像は、従来とは異なる管理職の在り方を示してくれるでしょう。

管理職になりたいと思える環境を作る

管理職のネガティブなイメージの元凶として、「管理職=残業代が出ない」というものがあります。この考え方は、一部は正解で一部は誤りです。労働基準法の一部適用を受けない管理職とは、管理監督者と呼ばれ、経営者と一体の立場やそれ相応の報酬を得ていることなど、いくつかの条件に合致しなければなりません。

「役職が就く=管理監督者となる」図式ではないことを、日頃から社内で周知するとともに、ほかの管理職の実態が「名ばかり管理職」とならないよう注意が必要です。昇給など、労働条件を改善することで、一般社員が管理職を目指す環境を整えることができます。

管理職になる為の研修やフォローアップ体制を作る

管理職に向いていないと、自信を失っている社員に対しては、管理職になるための研修を設定しましょう。マネジメントスキルやコーチングスキルを磨く研修は、管理職だけではなく、一般社員にも役立つスキルです。研修を通じて、実務とは異なるスキルを磨けると共に、マネジメントに興味を抱くきっかけにもなります。

理解しておくべき管理職にならないことのデメリット

昇進するかしないかは、あくまでも個人の選択です。しかし、管理職にならないと選択することは、キャリアの可能性を狭めることにもつながります。

具体的に管理職にならないことで、どのようなデメリットが想定されるのか解説していきましょう。

マネジメント能力を身につける機会を失う

管理職にならず、一般社員として現場でキャリアを積むことは、専門スキルを磨くプランです。しかし、部下の育成に関わらない、チームや部門の業績に責任を持たないということは、業務を通じてマネジメントスキルを身に着ける機会を失ってしまうことを意味します。

マネジメント能力のスキルには、コーチングやロジカルシンキングなど、業務の幅を広げるのに役立つものがあります。管理職となり、マネジメントを経験するからこそ、身につけられる社会人スキルがあることを踏まえた上で、昇進の選択をするべきでしょう。

権限のない仕事を続けることになる

専門スキルを磨くキャリアが限定的である場合、管理職にならないと、いつまでも仕事の権限が広がらない可能性があります。同じ仕事を続けることになり、創意工夫が感じられず、仕事へのモチベーションが下がってしまうかもしれません。

キャリアの選択肢が限定的になる可能性がある

会社によっては、プロジェクトへの応募や人事異動の際に、一定以上の役職を対象としているケースがあります。管理職にならない選択をすることで、その後のキャリアが狭まってしまうかもしれません。また、管理職に昇進するための試験に年齢制限が設けられている場合もあり、20代・30代の内に、自身のキャリアプランを考えることが、納得のいくキャリア形成につながります。

年下上司ができる

昇進をしないで長年同じ会社に在籍すると、若手社員が昇進し、そのうち年上の上司ができることになります。なかには、年齢差を感じ、職場での人間関係が悪化してしまうケースも。現状の職場の居心地が良いからといって、その状態がずっと続くわけではないと可能性も考慮し、自身のキャリアを検討するべきです。

まとめ

管理職になりたくないと考える社員の背景には、管理職へのネガティブなイメージがあります。管理職の責任の重さや、労働条件について満足いかない点があり、「いまのままでよい」と考えてしまうのです。キャリアの選択は人それぞれですが、会社として組織の成長を目指す場合、管理職の労働条件を整えると共に、管理職がキャリアのロールモデルとなるような組織風土を構築することが重要です。

研修制度を構築する際に、若手でもマネジメントスキルを身に着ける研修に参加できるよう設計すれば、マネジメントをする立場への興味が芽生えるかもしれません。また新任管理職研修は、若手管理職の負担軽減につながります。会社として、管理職に求める役割を伝えるとともに、給与などの条件についても面談できちんと伝えることが大切です。