職場で起きやすいハラスメントの種類と対応策を解説【事例付き】

労務

職場のハラスメントは、いまや企業にとって重大な経営課題です。ハラスメントを放置することは、職場環境の悪化を引き起こすだけでなく、生産性の低下や企業イメージの低下など、さまざまな悪影響をもたらします。

ここでは、企業が対応に取り組むべきハラスメントについて解説するとともに、ハラスメントを防止するために必要な措置と、発生したときの対応のポイントについて紹介します。

ハラスメントの定義とは

ハラスメントとは、「嫌がらせ」や「いじめ」を意味する言葉です。現代ではハラスメントといえば、さまざまな要因をもとに、身体的・精神的に相手を傷つける行為を指します。嫌がらせの範囲に留まらず、相手の人権を損なう深刻な行為として捉えられています。

性別、人種、職業、セクシャリティ、身体的特徴など、さまざまな要因を理由とするハラスメントが存在します。行為によって業務に支障をきたすハラスメントに対しては、政府は職場が防止対策を講じるべきものとして、法律面での整備を進めています。

ハラスメントは、ただの「嫌がらせ」や「個人的な諍い」といった言葉で片付けられるものではなく、企業として予防や再発防止に取り組むべき経営課題と見なされます。

ハラスメントが企業に及ぼす影響

職場でハラスメントが発生すると、労働環境の悪化や生産性に影響を及ぼすだけでなく、企業イメージの低下、離職者の増加など、悪循環につながる恐れがあります。具体的には以下の通りです。

  • 労働環境や人間関係の悪化
  • 生産性の低下
  • 企業イメージの低下
  • 離職者の増加
  • 訴訟リスクの増加

近年では、ハラスメントが働く人々に及ぼす影響を鑑み、相談窓口の設置やハラスメントに関する研修の実施など、さまざまな対策を講じることが企業に義務付けられています。しかしながら、ハラスメントが発生した際、相談窓口など適切な運用には、一定の知識を持った人材が求められることに留意しなければなりません。

たとえば、セクシャル・ハラスメントがあったという訴えに対して、加害者のみに聞き取りを行い、「セクハラは言い過ぎ。勘違いです」と相談窓口が断言してしまうのは、適切な対応とはいえず、職場のセクハラを容認することにつながります。

ハラスメントの相談に対して、企業は「思い込みで判断しない」「事実確認を迅速に行う」といった点を踏まえ、対応しなければなりません。形だけの対策では、ハラスメントの防止・再発予防にはならず、企業に及ぼす悪影響を排除できるとはいえないでしょう。

職場でハラスメントが起きる原因

職場でハラスメントが起きる背景には、さまざまな要因があります。主な原因は以下の通りです。

  • コミュニケーション不足
  • 長時間労働、過重業務といった大きなプッシャー
  • ハラスメントに対する理解不足
  • マネジメント体制の不備といった組織的な問題
  • ハラスメントを軽視する組織的な悪文化

このように、コミュニケーション不足、過重労働など多大なプレッシャー、ハラスメントなどへの理解不足など、個人の問題・組織の問題の両面が複雑に絡み合います。

たとえば、ひと昔前では「当たり前の企業文化」と捉える風潮が強かった「飲みニュケーション」や「喫煙室でのコミュニケーション」は、現代では、「アルコール・ハラスメント」や「スモーク・ハラスメント」につながる可能性があります。これには、飲酒の強要やタバコの健康被害など、悪影響が世間で認知されるにつれ、旧来のコミュニケーション手段がもたらす弊害を、ハラスメントであると認識するようになった価値観の変化が関係しています。

こうした価値観の変容に対して、対応できない社員のマネジメントが、パワハラやセクハラを引き起こすきっかけになります。職場には、男性・女性、若年者・高齢者、時短勤務・正社員など、異なる立場の人々が共に働いています。ハラスメントをなくすには、相手の気持ちや立場を想像するコミュニケーションで信頼関係を作りつつ、ハラスメントへの理解を深めることが大切です。

一概に要因を特定するのではなく、ケース別に判断し、防止策につなげましょう。

職場で起きやすいハラスメントの種類

職場でのハラスメント防止のため、政府は以下の3種類について、企業に対策義務を設定しています。

  • パワー・ハラスメント
  • セクシャル・ハラスメント
  • 妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(マタニティ・ハラスメント)

ここでは上記の職場で置きやすいハラスメントと、モラル・ハラスメントを加えた4つのハラスメントについて解説します。

パワーハラスメント(パワハラ)

パワー・ハラスメント(パワハラ)とは、職場での優位性を利用して、身体的・精神的に相手を傷つける行為を指します。「厳しい指導」や「愛の鞭」といった言葉で、マネジメント上の行為であると言い訳されるケースもありますが、業務上必要な指導の範囲を超えて、仕事が手につかなくなるといった相手の就業環境を害する行為は、パワハラと見なされます。

パワハラの類型

「大声で怒鳴る」「物をなげつける」といった職場での行為は、パワハラとしてイメージされやすいものでしょう。一般的に想像されるパワハラのほか、政府はパワハラの6つの類型を定めています。

  • 精神的な攻撃

暴力は伴いませんが、「同僚の目の前で叱責される」「他の職員も含めたメールで罵倒される」「必要以上に長時間拘束され執拗に叱る」といった、言葉や態度で相手の精神を傷つける行為が含まれます。

  • 身体的な攻撃

叩く、蹴る、殴るといった暴行が当てはまります。

  • 過大な要求

業務上必要とされる範囲を超えて、過大な量の仕事を押し付けたり、仕事のやり方を教えずに能力以上の業務を任せるといった行為が該当します。

  • 過小な要求

本来の役職に見合った仕事を与えないといった嫌がらせや、仕事を与えずに放置するといった対応が含まれます。

  • 人間関係からの切り離し

仕事で必要な情報を共有しない、職場で無視をするといった行為が含まれます。

  • 個の侵害

交際相手について執拗に質問するといった、プライバシーを侵害する行為が含まれます。

これらは、あくまでも類型であり、上記の事例に当てはまらないからといってパワハラではないとはいえません。パワハラ該当するかどうかは、個別の事例に照らし合わせて判断されます。

パワハラに該当する事例

パワハラに該当する事例として、以下のものを見てみましょう。

「新入社員のAさんは、取引先との商談日程を間違えて上司のスケジュールを抑えてしまいました。その結果、商談は破断に。後日、上司はいらついた様子で「これだからゆとりは」とAさんに対する嫌味を繰り返したほか、チームが全員そろう朝会でAさんを名指しし、商談がうまくいかなかったのはAのせいだと罵倒しました。」

仕事上のミスが発生した場合、マネジメントを行う上司には、ミスを繰り返さないよう指導する必要があります。しかしながら、上記の事例では、スケジューリングのミスの再発防止といった観点ではなく、Aさんの年齢という全く関係ない要因を挙げて叱責しています。また、叱責の頻度や大勢の前で罵倒するといった対応には配慮がなく、業務上適切な範囲とは認められません。

このように、指示の関連性や妥当性、言い方、指示のやり方が度を超えたものでないかといった点を基準にパワハラかどうかが判断されます。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)

セクシャル・ハラスメント(セクハラ)は、「性的嫌がらせ」と訳されるハラスメントで、職場での「性的な言動」により、相手の就業環境を害する行為を指します。セクハラといわれると男性から女性への行為が多数を占めるイメージがありますが、同性同士や女性から男性といった行為でも、定義に該当する場合にはセクハラとみなされます。

セクハラの類型

セクハラの類型には、「対価型」と「環境型」の2種類があります。対価型とは、性的な言動をうけたハラスメントの被害者の拒否や抵抗により、解雇・口角・減給などの直接的な不利益を与えるセクハラをいいます。

一方、環境型セクハラでは性的な言動に関係して直接的な不利益は発生しないものの、職場環境が不快になり、看過できないほどの支障が生じるハラスメントをいいます。

セクハラの判断では、被害の受けた従業員の主観が重視されると同時に、「労働者の意に反する性的な言動であったかどうか」や「就業環境を害されたかどうか」の判断では、一定の客観性や平均的な労働者の感じ方が基準となります。

セクハラに該当する事例

職場のセクハラは、性的な言動とあわせて、被害者が直接的な不利益を被っているかや、業務での支障が出ているかといった点で判断されます。たとえば、以下のような事例は対価型セクハラと見なされます。

「上司から二人きりで食事をする誘いがあり、断ったところ翌日から話しかけてもらえなくなった。状況は改善せず、評価面談で勤務態度に事実とは異なる評価を下され、降格が決定した。」

また、直接的な性的な言動はないものの、オフィスには女性社員1名のみ。他の男性社員は風俗の話など卑猥な会話を日常的に続けており、聞くに堪えない内容で精神的な苦痛を被ったというケースは、環境型セクハラとみなされます。

妊娠・出産・育児休業等ハラスメント

妊娠・出産・育児休業等ハラスメントは、別名「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」や「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)」と呼ばれます。職場での上司や同僚の言動により、妊娠や出産をした女性従業員や、育児休業を申請・取得した従業員の就業環境が脅かされることを指します。

妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの類型

妊娠・出産・育児休業等ハラスメントは「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2つに分けられます。

制度等の利用への嫌がらせ型では、労働法に定められた妊娠・出産での休業制度(産前産後休業・育児休業)の利用を阻害したり、利用を非難する言動をなげかけるなど、就業環境を阻害する行為が含まれます。

状態のへの嫌がらせ型では、妊娠報告に嫌味を言う、出産や妊娠について不快な言動を行うといったことにより、就業環境を害する行為が当てはまります。

妊娠・出産・育児休業等ハラスメントに該当する事例

男性社員が配偶者の妊娠を理由に育児休業を申請したところ、「事例がない」といって申請をみとめないのは、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントに該当します。産前産後休業や育児休業は、労働法で定められた労働者の権利であり、会社が制度の未整備を理由に断ることはできません。

また、妊娠や出産を理由に降格させたり、本人の意に反して異動させたりする行為も、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントとみなされます。ただし、定期的な妊娠健診日をスタッフの不足を理由に変更をお願いするなど、業務分担・安全配慮などの観点から客観的にみて業務上必要と思われる指示は、ハラスメントには該当しません。

モラルハラスメント(モラハラ)

モラル・ハラスメント(モラハラ)とは、「モラル=道理・倫理」に反する嫌がらせという意味です。モラハラの特徴として、直接的な暴力行為は行わないという点が挙げられます。パワハラに共通する点がみられますが、職場内での優位性を背景としないのが大きな違いです。

モラハラの類型

パワハラと同様に、「精神的な攻撃」「個の侵害」「過大な要求」「過小な要求」「人間関係の切り離し」といった行為がモラハラとみなされます。

モラハラでは、無視や仲間外れといったいわゆる「職場内いじめ」を行ったり、監視を強めプライベートまで束縛しようとする行為が当てはまります。

モラハラに該当する事例

モラハラはパワハラと似た行為が含まれますが、加害者と被害者の間に職場内の権力の差がないことが大きな違いです。「同僚の陰口を言い、本人の仕事の足を引っ張る」「チームメイトの交友関係にまで口を出し、コントロールしようとする」といった行為がモラハラに該当します。

その他のハラスメント

上記で紹介した以外にも、職場で発生するハラスメントがあります。

  • アルコール・ハラスメント

飲み会の場で飲酒を強要することや、一気飲みを強要すること

  • リストラハラスメント

企業が早期退職を従業員に執拗に進めること。または早期退職を断った従業員に、降格など不利益な対応を行うこと

  • リモートハラスメント

リモートワークの環境下で発生。ウェブカメラを通じて知り得た、相手のプライベートな部分に言及すること。

  • テクノロジーハラスメント

IT器機の知識不足を理由に、使い方が分からない人を侮辱したり、わざと使い方を教えないといった対応をすること。

職場のハラスメントを未然に防ぐ為の対策

職場のハラスメント予防にむけて、政府はガイドラインを整備しています。予防対策として企業が行える、3つのポイントを紹介します。

方針の明確化と周知

予防にむけて重要となるのが、企業の「ハラスメントを許さない」という姿勢です。トップメッセージとして打ち出すほか、就業規則などに、ハラスメントの定義と処罰について記載します。このように、「何をしたらどうなるのか」というルールを明確にし、社員に周知することで、ハラスメントを抑制する効果が期待できます。

相談窓口の設置

ハラスメントの相談窓口は、予防と実際に発生したハラスメントに対応する上で必要です。相談窓口では、相談内容を口外しないといった守秘義務や、客観的事実に基づき対応するといった適切な運営が求められます。

社内アンケートの実施

ハラスメントが職場で発生しているかどうか、実態把握のため調査を行います。アンケートは実施して終わりではなく、結果を集計し、気になる点があれば改善につなげましょう。

職場でハラスメントが起きた際の対応

職場でのハラスメントをなくすためには、予防だけではなく、実際に発生したハラスメントに適切に対応し、再発防止に取り組むことが重要です。以下に、ハラスメントに対応する上で重要となる3つの点をみてみましょう。

事実関係の確認

ハラスメントの相談をうけたら、速やかに事実確認ができる体制を整えましょう。相談者の内容をもとに、関係者にヒアリングするのはもちろん、相談者に対応する担当者が、適切に受け答えできるかどうかも重要なポイントです。

事実関係のヒアリングなしに、相談者の勝手な判断で行為を「ハラスメントではない」としてしまうのは大きな問題です。また、事実確認を行うにあたり、相談者のプライバシーが守られるよう注意する必要があります。関係者に聞き取りを行うにあたっては、事前に相談者の了承をとりましょう。職場で噂が広まらないよう、ヒアリングを行うことも重要です。

関係者への措置

事実確認が済み、ハラスメントと判断された場合は、就業規則など事前に定めた措置にのっとって関係者の処分を行います。このとき、ハラスメント行為を行った従業員に厳格な処分を下すと同時に、ハラスメントの被害を受けた従業員が引き続き就業できるよう、サポートすることも重要です。

配置転換などの希望がある場合には、真摯に話を聞き対応を検討しましょう。また、メンタル不調の症状が出ている場合には、産業医や病院にアクセスできる支援が重要です。

再発防止への措置

ハラスメントが発生した時だけでなく、継続的な取り組みが再発防止につながります。たとえば、行為者に対する再発防止研修の実施や、定期的なトップメッセージは、従業員のハラスメントへの理解を深めると共に、ハラスメント防止の啓蒙効果が期待できます。

また、職場環境の悪化がハラスメントの発生要因となることもあります。そのため、長時間労働の是正や勤怠管理の改善の取り組みが、ハラスメント再発防止策となります。

職場でのハラスメント事例

職場ではどのようなハラスメントが発生しているのでしょうか。ここでは、ハラスメントとして認められた事例と、逆に認められなかった事例を紹介します。

ハラスメントが認められた事例

上司の言動や態度について、行為の一部をパワーハラスメントとみとめた上、原告の適応障害とパワーハラスメントの因果関係を認めた事例があります。

事件の概要

機械の製造販売業の会社に勤めていた社員(原告)が、休職期間満了により自然退職の通知を受けたところ、上司のパワハラが原因で適応障害となり休職を余儀なくされたと訴えたもの。

会社に対し、就労が不可能になった期間の賃金支払いをもとめると同時に、上司に対してパワハラに基づく損害賠償を請求。

参考:【第25回】上司のパワーハラスメントが原因で休職したものとして地位の確認と損害賠償を請求した事件

判決では、パワハラの一部が認められ、賃金請求の全額支払いと、慰謝料の一部支払いが命じられました。

事件のポイント

この事件では、上司の原告に対する指示の仕方が、パワハラに該当するとみなされました。具体的には、大声で叱責したこと、また原告の業務について「あほでもわかる」「能力が劣っている」と、原告の人格を否定するような表現が用いられた点が、パワハラとされました。

ハラスメントが認められなかった事例

過重な業務により労災申請が認められていたケースで、上司である被告理事のパワーハラスメントが認められなかった事例があります。

事件の概要

社会福祉法人県民厚生会(被告法人)の経営するデイサービスセンターのセンター長であった原告が、上司である被告法人の常務理事(被告理事)からパワーハラスメントを受けて適応障害に陥ったとして、安全配慮義務違反及び不法行為に基づく損害賠償として慰謝料請求をした。

参考:【第30回】上司からパワーハラスメントを受けて適応障害に陥ったとして、慰謝料請求をした事案

静岡地裁は、原告の心理的負荷の大きさを認めつつも、被告理事の行為はいずれも職務遂行目的で行われ、内容も不当ではない=パワハラではないと判断しました。

事件のポイント

パワハラとは、職場において権力の優位性を利用し、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛をあたえ、職場環境を悪化させる行為と定義されます。パワハラにあたるかどうかは、事実関係はもとより、行為の目的や程度、行為のときの様態も焦点にあてられます。

本件では、原告の精神的苦痛は認められたものの、被告理事の行為は、業務遂行の目的の範囲であり、指示や指導内容が職務上不当とまではいえないことから、パワハラとは判断されませんでした。

職場でのハラスメントに関するまとめ

職場で起こるハラスメントには、さまざまな種類があります。なかでも、パワハラ、セクハラ、マタハラ(パタハラ)に関しては、企業が取り組むべき防止措置・対応措置が明確に定められており、企業は相談窓口の設置などを通じて、ハラスメント防止に取り組まなくてはいけません。

ハラスメントに対する理解を深めると共に、行為者への処罰を明確にし、ハラスメントと疑わしい事案があった際には適切に対応できるよう、体制を整えましょう。