働き方改革の推進にともない、生産性の向上に関心が集まっています。その流れを受け、従業員エンゲージメントを高めて生産性向上につなげようとする企業が増えてきました。エンゲージメントは会社と従業員の関係を示す重要な指標の1つです。
本記事では、今注目されているエンゲージメントの意味や従業員満足度との違いを解説しつつ、それを測る「エンゲージメントサーベイ」について、実施方法や期待できる効果などを解説しています。正しい手順でエンゲージメントサーベイを行い、組織の活性化や業績アップに役立ててください。
Contents
エンゲージメントサーベイとは?
サーベイは「調査」を表す英語で、エンゲージメントサーベイとは「エンゲージメントを調査する」ことを指します。では、エンゲージメントとはどのような意味を持っているのでしょうか。以下で詳しく確認していきましょう。
そもそもエンゲージメントとは
エンゲージメントとは、「会社と従業員のがお互いに理解・信頼し、貢献したいと考えているか」を示す指標です。エンゲージメントに影響を及ぼす要素として、主に次の4つが挙げられます。
- 目標が魅力的であること:ビジョン、理念、経営戦略など
- 活動が魅力的であること:業務内容、商品や提供するサービスなど
- 組織が魅力的であること:企業のカルチャー、経営陣、人材など
- 待遇が魅力的であること:福利厚生、給与、働きやすい環境など
これらのエンゲージメントが低い状態だと、従業員のモチベーションが下がり作業効率の低下や周囲のモチベーションまでも低下させる危険があります。
そしてそのエンゲージメントを測定することをエンゲージメントサーベイと言います。
次に、エンゲージメントサーベイについて説明します。
エンゲージメントの調査が「エンゲージメントサーベイ」
エンゲージメントサーベイとは、エンゲージメントに関する現状や課題を数値化する調査です。もし「経営陣の理念が従業員に浸透しているのか」「退職率を改善するためのヒントを得たい」と考えているのであれば、エンゲージメントサーベイを検討してみましょう。
従業員満足度との違い
エンゲージメントと似た言葉に、「従業員満足度(Employee Saticefaction)」があります。従業員満足度とは、給与や休日数、福利厚生などに対する従業員の「満足度」のことです。
従業員満足度が高ければ、退職率の低下や定着率を上げることに役立つでしょう。しかし従業員満足度が高くても、「会社への貢献意欲」を向上させる効果はあまり期待できません。
従業員満足度が高かったとしても、会社が従業員の期待する給与や休日などを提供できなくなれば、会社との関係は変化してしまう可能性が高いです。
一方、エンゲージメントが高いということは会社と従業員が信頼し合い、強く結びついている状態です。信頼関係が構築されることにより、「従業員は会社に貢献したい」という意欲醸成につながると考えられます。
エンゲージメントサーベイを導入する目的
エンゲージメントが何かを前章でご紹介しました。次に、エンゲージメントを調査する理由を確認しましょう。
組織課題を可視化
エンゲージメントサーベイによりエンゲージメントを可視化することで、組織が抱える課題がどこにあるかを読み解くのに役立ちます。
エンゲージメントは、会社、従業員、上司や同僚などの信頼関係を表しています。エンゲージメントサーベイの実施により、「どの関係に、どのような課題がある」かの発見が可能です。
会社と従業員のギャップ把握
会社の課題と従業員が抱いている考えや要望を数値にすることで、会社が伝えたい事柄が従業員にどの程度伝わっているか、ギャップを浮き彫りにできます。
会社の理想とエンゲージメントが示す現実のギャップを解決する施策を打ち、再度エンゲージメントサーベイを行って効果を検証しながら継続的にPDCAを回していきましょう。
人事施策への活用
エンゲージメントサーベイでは、人事的な課題が明確になります。例えば、コミュニケーション不足、モチベーション低下、主体性の欠如といったものです。
エンゲージメントサーベイを実施することで、人事の課題が何か見つけ組織全体に共有が可能となり、評価制度の改革や組織開発に役立てられるでしょう。
参考文献:
エンゲージメントサーベイに期待できる効果
エンゲージメントサーベイの導入には、大きく分けて次の3つの効果が期待できます。
- 1.生産性向上
- 2.定着率をアップさせ退職を予防
- 3.リファラル採用の効果的な運用
以下で詳しく解説します。
1.従業員の生産性向上
エンゲージメントが高いということは、組織全体と従業員個人の要望や目的がマッチしていることを意味します。目的が合致している従業員は高い意欲を持って主体的に仕事に取り組めるため、その結果生産性向上につながると考えられます。
アメリカの大手世論調査会社であるギャラップ社が2017年に行った調査によると、エンゲージメントが高い人はエンゲージメントの低い人より生産性が約2割高いという結果が出ています。
アメリカの調査で少し古いものではありますが、エンゲージメントサーベイを行って人事施策を講じることで、生産性向上が期待できるでしょう。
2.退職率の抑制
エンゲージメントを高めることで退職率の低下させ、優秀な人材確保につながる可能性が高いと言えるでしょう。
アメリカの経営コンサルティング会社であるCEB社B(Corporate Executive Board)が発表したレポートによると、エンゲージメントの高い従業員は1年以内の退職率が1.2%だったのに対し、エンゲージメントが低い従業員では退職率が9.2%でした。
エンゲージメントの低い従業員の退職率は、高い従業員の7倍以上であることが分かります。
従業員のエンゲージメントを高めて、退職率の抑制につなげましょう。
参考文献:部下が突然辞めてショック!とならないための対処法から原因や前兆までを紹介
3.リファラル採用の活性化
リファラル採用とは、従業員の友人・知人を紹介してもらう採用手法です。エンゲージメントが高い従業員は会社の風土や経営理念を理解しており、会社に貢献したいという意欲が強いので、会社にマッチした人材を紹介してくれる可能性が高いと考えられます。
自社にマッチしている優秀な人材確保が厳しくなっている昨今では、リファラル採用が重要視されています。エンゲージメントを高めることでリファラル採用を効率の良い採用活動が可能となるでしょう。
エンゲージメントサーベイの実施方法
エンゲージメントサーベイには自社で実施する方法の他に、外部サービスを使って実施する方法の2通りがあります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを確認しましょう。
自社でオリジナルに作成
エンゲージメントサーベイの実施方法の1つ目は、自社で独自の質問設計を行い、調査票を作成して配布・回収し、分析する方法です。
メリットは①すべてを自社で準備するため組織風土に合った質問を設定可能で、②金銭的なコストを抑えられる点です。
しかしデメリットとして、①準備に時間や労力がかかり、②分析や課題の施策が不十分となり改善につながりにくい可能性があるので、自社で作成する際は注意しておきましょう。
外部サービスを利用する
外部サービスを使えば、蓄積されたノウハウによる質問設計、スピーディーな集計、結果の分析、施策の提示などを自社に変わって行ってくれます。
以下で、外部が提供するエンゲージメントサーベイをピックアップしました。
株式会社アトラエが提供するエンゲージメント解析ツールです。メールだけでなくslackやLINE WORKSなどでアンケートを実施でき、AIがデータ解析を行い向上ポイントを指摘してくれます。
株式会社ヒューマンキャピタルテクノロジーのエンゲージメント解析ツールです。全国就業実態調査から退職・休職の理由を解析し、質問を3つに絞り込むことで高回答率を実現しています。
このような外部サービスを使うメリットは、
- ①質問設計やアンケートの配布、集計といった工作数の削減
- ②会社によっては分析だけではなくコンサルティングなどの支援を受けられる
といった点が挙げられます。
ただし、一方で金銭的なコストがかかるといったデメリットもあります。
エンゲージメントサーベイを実施する4ステップ
エンゲージメントサーベイは、次に挙げる順番で実施します。
- 従業員に説明
- 質問を設計
- サーベイの実施
- 分析と課題発見
各ステップについて、下記で具体的に解説します。
1.実施目的を従業員に説明する
まず、エンゲージメントサーベイの目的を伝え、従業員の理解を促しましょう。「エンゲージメントサーベイをなぜ実施するのか」「結果はどのような形でフィードバックされるのか」を把握できていないと、従業員から正しい回答が引き出せないおそれがあります。
エンゲージメントサーベイを実施する際は事前に目的を周知し、必要に応じで事前の説明会を開催するのがおすすめです。
2.設問を決める
次のステップはエンゲージメントサーベイの設問の決定です。質問の具体例を下記にまとめました。
- 仕事で何を期待されているか、知っていますか
- 仕事を行うための環境がきちんと整っていますか
- 仕事で成果を出す機会しっかりと与えられていますか
- 上司や同僚とコミュニケーションが取れていますか
会社全体、上司についてなど、あらゆる方向から多角的に質問をして、会社の課題を明確にしていきます。
3.サーベイの実施
調査票を作成し、従業員にメールなどで配布してエンゲージメントサーベイを実施しましょう。クラウドサービスを利用すればスマホやパソコンで簡単に回答・集計ができるので、人事や総務のコスト削減に役立ちます。
4.結果分析と課題を洗い出す
ステップの4つ目は、アンケートの回収・集計です。従業員へのフィードバックを行う必要があるため、迅速にスコア化してください。
内容結果から組織課題を探って今後の方針を決め、具体的な施策を講じていきます。
エンゲージメントサーベイを実施する上での注意点
エンゲージメントサーベイを効果的なものにするために、次にご紹介する2つのポイントを押さえましょう。
匿名性を担保する
エンゲージメントサーベイ実施にあたり注意するポイントは、匿名性を担保することです。匿名性とは、エンゲージメントサーベイで回答した内容によって従業員が不利益とならないように、身元を隠すことを指します。
この匿名性が約束されていれば、「回答者を特定されるかもしれない」「回答によって人事評価が変わるのでは」という不安解消が可能です。
匿名性を担保し、さらに回答結果の扱いについて従業員に理解してもらうことで、歪んだ回答ではなく正確なものが得られるでしょう。
単発で終わらせず継続する
エンゲージメントサーベイを1回実施するだけでは、改善策の効果が出たのか分かりません。エンゲージメントサーベイは一定の期間ごとに実施し、講じた改善策の効果について検証を行いましょう。もし効果が得られなければ、別の策を実施し再び検証します。
エンゲージメントサーベイは繰り返し行うことが重要です。1回きりで終了するのではなく、継続していきましょう。
エンゲージメントサーベイに関するまとめ
社会情勢の変化によってさまざまな働き方を選択できるようになり、従業員一人ひとりの価値観も多様化しています。会社と従業員の関係性が変わっていき、近年ではエンゲージメントとエンゲージメントサーベイが注目されるようになりました。
エンゲージメントを高めていくには、まず自社の状況を調査によって明らかにすることが重要です。今回の記事ではエンゲージメントの意味や、エンゲージメントサーベイの効果と実施方法をご紹介しています。
エンゲージメントサーベイの結果を分析して課題を発見し、有意義に活用することで、人材の定着や生産性向上による業績アップが期待できます。退職率や業務効率に改善が必要であれば、エンゲージメントサーベイの実施を検討してみてはいかがでしょうか。