人材開発とは?仕事内容や主な手法、人材育成との違いを解説

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人材開発とは、教育や訓練を施して従業員の能力を最大化させ、パフォーマンスの向上を図る取り組みです。一人ひとりのパフォーマンスが上がれば、組織全体の業績もアップし、経営戦略の実現に近づけるでしょう。

ただ一口に人材開発といっても、人材育成との違いや目的などが抽象的で分かりにくく、人材開発の導入方法が分からない経営者や人事担当者は少なくありません。

今回の記事では、人材開発の意味や目的から具体的な仕事内容・手法までをわかりやすく解説しています。

さらに人材開発の課題や成功事例もご紹介しているので、ぜひ最後まで読んで人材開発の基本的な知識を押さえ、人材開発に着手してみてはいかがでしょうか。

人材開発とは?

冒頭でお伝えした通り、人材開発とは従業員の能力アップをはかり、パフォーマンスの向上を目指す活動を指します。まずは、人材開発の具体的な目的や、同義と思われがちな人材育成との違いを確認していきましょう。

人材開発の目的

人材開発の目的は、「企業の戦略実現に向け従業員のスキル・能力を引き出して仕事の質を高める」ことです。人材開発の対象は全従業員で、具体的な目的は次の4つです。

  • 経営戦略の達成
  • 早期戦力化の実現
  • 生産性の向上
  • 人材を定着させ離職率を下げる

人材開発は、経営戦略の達成をベースに行われます。たとえば、新たな事業に参入するのが経営戦略であれば、「新規事業に必要なスキルを習得させるために研修を実施する」などの人材開発をして経営戦略の達成に導くことが可能です。

また会社が熱心に人材開発に取り組めば、従業員に「能力を伸ばせる環境だ」「自分の成長のために会社がサポートしてくれている」と感じてもらえます。その結果、従業員の中で会社に貢献したいという意欲が沸き、人材の定着につながるでしょう。

人材育成との違い

人材開発と人材育成の大きな違いは、「対象となる従業員」と「目的」の2点です。

人材育成の対象は新入社員、若手、管理職など、ポジションによって区切られるのに対し、人材開発は全従業員を対象にしています。

また、人材育成の目的は「必要なスキルを習得させるための取り組み」であるのに対し、人材開発は「能力を開発してパフォーマンスの向上を図り、経営戦略の達成」が目的です。

個人のパフォーマンスを最大化するには、従業員一人ひとりの特性や課題、キャリア志向などを理解して、適切な方法で伸ばさなくてはなりません。

人材開発と人材育成は似た言葉ですが、上記で説明した通り、対象とする従業員や目的が大きく異なり、人材開発は抽象度が高い取り組みと言えるでしょう。人材育成について更に詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

人材育成とは何か?考え方や大切なこと、主な手法をわかりやすく解説

人材開発が求められる理由

人材開発が注目されている要因として、次の2つが挙げられます。

  • 仕事の価値観が変化したため
  • 短期間でパフォーマンスを最大化しなければならないから

従来は終身雇用制度を前提とした年功序列が一般的でしたが、終身雇用制度の崩壊にともない、長期勤続による昇給や昇格よりも成果主義が広がりました。そのため、効率良く人材開発を行い、短期間の研修や訓練で従業員の能力を引き上げ、パフォーマンスを向上させる必要性が生じたのです。

人材開発部の仕事内容や役割

事業を継続する上で、人材開発により従業員の戦力化を図り、経営に貢献できる人材を育てることが会社の課題となっています。

人材開発部を設置する会社も増えていますが、人材開発部は具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。ここからは、人材開発部の仕事内容・役割を3つ確認していきましょう。

経営戦略に沿った人材開発計画の作成

1つ目は、経営戦略をベースにした人材開発の立案です。事業活動そのものも、会社の存続に欠かせませんが、経営戦略を達成できる人材を開発することも、会社にとって重要な活動です。

自社がどのような人材を求めているのか、人材を確保するためにどうやって人材開発を行うのかを洗い出して計画を立てます。立案にあたっては、経営者と話し合いをしてトップの方針を理解することが重要です。人材開発部は、経営戦略を達成できる人材を育てるために、経営者の意向に沿った人材開発計画を立てなければなりません。

計画に沿った施策の立案と実行

人材開発計画にもとづき、プランを練って研修などを実行するのも、人材開発部の仕事です。施策の立案の際には管理職や現場の従業員の声を汲み取りましょう。現場のニーズに合致した施策でなければ、人材開発を実施しても効果は得られにくいです。

人材開発部は経営者の意向を計画に反映させ、具体的な施策を講じる際は現場の声に耳を傾け、トップとボトムの認識や目指す方向性などが乖離しないよう調整する役割を担います。

社員のスキルや意欲の向上

人材開発部の役割として、従業員一人ひとりが成功体験を重ね、成長の実感を通してスキルと意欲が向上するよう働きかけることが挙げられます。

人材開発でセミナーや研修、教育を施す際は、「従業員が満足できている内容になっているか?」を意識するのが重要です。

採用をはじめ、新入社員研修や管理職研修といった教育の場面で、従業員のポテンシャルを最大限に引き出せるものを取り入れ、やりがいや充実感が得られる施策を行い、組織の活性化を図りましょう。

人材開発の4つの手法

従業員の能力を引き出す方法は、次の4つです。

  • 1.OJT
  • 2.Off-JT
  • 3.自己啓発
  • 4.コーチング

それぞれの特徴、メリット・デメリットなど詳細を確認していきましょう。

1.OJT

OJTとは、業務に従事しながら先輩や上司が教育し、業務の知識、スキル、ビジネスマナーなどを習得させる方法です。メリットとして、社内で行うため教育コストが抑えられ、実務にすぐ活かせるノウハウを学べることが挙げられます。また、人間関係を構築してコミュニケーションが活発になる効果も期待できます。

ただし指導者の業務負担が増える点や、教える人によって教育の質に差が出る可能性があるので、会社側は指導者の業務量を調節したり指導スキルを向上させるマネジメント研修を行うなど対策を講じましょう。

2.Off-JT

Off-JTとは、業務から離れた研修やセミナーを受講し、知識やスキルを習得する教育方法です。社内外で一定数の従業員を集め、一斉に実施するのが一般的です。メリットとして、専門家による指導で体系的に知識・スキルを学べ、教育内容にムラが出ないことが挙げられます。高い専門性を持った講師を呼ぶため、コストが高額になりがちな点はデメリットと言えるでしょう。

また実務に活かせない講義内容だった場合、効果が得られないというリスクもあります。Off-JTを実施する際は、事前のヒアリングを入念に行い、現場の課題を解決できる内容を選定するのがポイントです。

3.自己啓発

自主的な学習を促すために、会社がサポートする教育方法を自己啓発と呼びます。たとえば、eラーニングの導入、資格取得の受講料援助、書籍の購入費の支給などです。

メリットは自らの意思で取り組むため主体性を育てやすく、セミナーのように時間も指定されていないので好きな時間に学習できる点です。一方、従業員が自主的に学習を行わず、学習に意欲的な従業員とそうでない従業員との間に能力の差が生じてしまうリスクもあります。

経営層や人事は自己啓発を促すメッセージを従業員に発信し続け、従業員全員がメリットや重要性を理解できるよう工夫しましょう。自己啓発を人事評価に結びつけると動機付けでき、行動を促しやすくなります。

4.コーチング

コーチングとは、相手の言葉を聴き、質問、観察、提案を行って相手に気付きを与えて行動を引き出し、目標を達成させるコミュニケーション方法です。従業員自身が考えて行動できるように促すのを目的としており、本人が問題点に気付けるよう、上司は効果的な質問や提案を投げかけなければなりません。

メリットは、自ら考えて行動し、成功体験を積むことで労働意欲の向上につながり、従業員の潜在的な能力を発揮させる効果が期待できる点です。

デメリットは、正解がないため必ずしも効果が出るとは限らず、育成が難しい点にあります。また一斉に大勢の従業員を対象にできないので、他の方法より効率が悪く、上司の負担も増えてしまうことです。

人材開発における課題

人材開発を効果的に実践できればパフォーマンス向上により、会社が得られるメリットは大きいです。メリットがあるにもかかわらず、効果的に人材開発を行えていない会社は少なくありません。ここからは、人材開発を行う上での課題を詳しくみていきましょう。

リソース不足

1つ目の課題は、指導する人材が足りていないことです。厚生労働省が発表した資料によれば、人材育成の課題として最も多かった回答は「指導者が不足している」で全体の58.1%にのぼりました。

引用:厚生労働省「令和元年度能力開発基本調査」

指導者の時間を捻出するために、無駄な業務がないか洗い出しをし、業務量を調整しましょう。またシステムなどのツールを導入して業務効率化を進めたり、アウトソーシングを活用して指導者の負担を軽減するのも効果的です。

指導する側のスキル不足

人材開発で効果を得るには、指導者が必要なスキルを習得していることが前提となります。たとえば、「コミュニケーション能力」や「指導者としてのマインド」が不足している上司は適切な教育ができず、部下から信頼もされず、人材開発が適切に行えません。

指導者の能力を伸ばすことは、指導される側の成長を速めることにつながります。指導者のスキルが不足していれば適宜研修を実施し、効率の良い人材開発ができるよう配慮するのが大切です。

人材開発を行っている企業の成功事例

次に、人材開発の事例として、博報堂とキヤノンの2社を紹介します。各企業が行った取り組みの内容や特徴を確認していきましょう。

博報堂

博報堂は、1895年に創業した日本の広告代理店です。博報堂が行っている代表的な取り組みを、以下にピックアップしました。

  • 研修プログラムの整備
  • タテ・ヨコ・ナナメの場の推進
  • 成長機会の提供
  • オンラインセミナーの拡充

博報堂は従業員自らが変化をつくり、「仕掛けていく存在」になれるよう、さまざまなプログラムを用意しています。人材開発の一環として、2005年に企業内大学「博報堂大学」を設置しました。

「クリエイティビティ=従業員が当たり前に持つべき資質」とし、クリエイティビティに火をつけ発露させることが、博報堂が掲げる人材開発の目的です。

従業員が自主的に自分自身を見直せる機会を設け、個の能力を引き出せる仕組みを作り、大きな影響を与えました。

キヤノン

2つ目の事例は、カメラをはじめ映像機器やプリンタ事業を手がけるキヤノンです。キヤノンの取り組みは、以下の通りです。

キヤノンは1930年頃にOJTを実施、1950年頃は研修所を設置して従業員に検定や研修の場を提供しました。また1990年頃には研修だけではなく、組織改革を行い、2000年に入ると人事制度の改革、役職者のコーチング研修など、多様な研修プログラムを構築し、時代に適合した人材開発に打ち込んでいます。

キヤノンの人材開発の大きな特徴は、研修を担当する講師のうち8割が自社従業員という、「講師の内製化」です。内製化のメリットは、社内事例の共有がスムーズに行え、従業員のニーズにも対応しやすく、研修終了後も受講生のメンターとして講師がフォローできる点です。

講師に対し、専用の支援サイトを創設し、Web図書館の利用といったサポートをしています。また社内講師養成プログラムも確立されており、講師や講師を目指す従業員双方がスキルアップできる環境が整っています。

人材開発に関するまとめ

人材開発の目的は、経営戦略の達成を見据えて従業員の能力を高めることです。人材開発部は経営者と従業員が同じ方向に成長できるよう人材開発計画を立案しなければなりません。そのため両者のニーズを正しく理解し、具体的な施策を実践する重要な役割を担っています。

人材開発を進める上で課題を洗い出し、リソースの確保やシステムの導入といった対策を講じ、戦略的に人材開発を進めましょう。