リスキリングとは?DX人材の育成に必要な理由と導入ポイントを解説

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リスキリングとは、働くうえで将来的に必要となるスキルを知識を習得するために従業員を再教育することを指します。DXに適応できる人材の確保が求められている近年では、特に注目を集めている取り組みの1つです。

リスキリングを導入しても、リスキリングとリカレント教育の区別ができていなかったり、導入の手順に抜け漏れがあったりすると、思うように結果が伴わないリスクが高まります。

本記事では、リスキリングとリカレントの違いや導入する手順、実施時のポイント、実際の事例など最低限知っておくべき事をまとめました。

リスキリングとは

経済産業省は、リスキリング(Re-skilling)を、次のような言葉で説明しています。

「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」

引用元:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―

2020年に開催されたダボス会議で「リスキル革命」が提唱され、人々の関心を集めました。リスキリングの特徴は、「仕事で価値を生み出すために必要となるスキルを学ぶ点です。

なぜ今リスキリングが重要とされているのか

リスキリングに取り組んでいる代表的な大企業として、Amazonやウォルマートが挙げられます。日本では富士通株式会社や株式会社日立製作所、キヤノン株式会社でもリスキリングに注力していますが、なぜリスキリングが近年重要視されているのでしょうか?主な理由を以下で確認していきましょう。

DXの推進に不可欠だから

DX化が進む中、デジタル人材の不足が深刻になりつつあります。自社が必要とする知識・スキルを持つ人材の採用は困難になりました。エンジニア部門をはじめ、営業や人事といったさまざまな部署でも、DXへの適応が必要です。

「新たな人材を採用する」のではなく、「新たなスキルを在籍している従業員に習得してもらう」ことが急務となり、リスキリングが注目されています。

働き方が変化しているから

新型コロナウイルスの影響やデジタル化、働き方改革の推進で働き方の価値観は大きく変わりました。業務の遂行方法やビジネスモデル、就業形態の他にも、新しい職業の登場など変化の流れは勢いを増しています。

今までの働き方や価値観、サービスは通用しなくなり、新時代に適応する力を持つ人材が必要となったことも、リスキリングが重要性を高めました。

リスキリングとリカレント教育の違い

リカレント教育とは、社会人になったあとで教育を受けて学び直し、「仕事、教育、仕事」のサイクルを回すことです。リカレント教育が離職を想定しているのに対し、リスキリングは働き続けながら学習していく点で大きく異なります。

また、リカレント教育と同一視されやすいのが「生涯学習」です。キャリアに必要なスキル・知識を習得するのがリカレント教育の目的ですが、生涯学習の学びは仕事に限定されず、生きがいを得るための学びも含まれます。

企業がリスキリングを導入することのメリット

リスキリングで人材戦略を描くことで、従業員のスキルを新たに開発することが可能です。実際に企業がリスキリングを行うメリットは、主に次の4つです。

  • 業務の効率化を測れる
  • 事業の新しいアイディアが生まれる
  • 採用コスト・教育コストを削減できる
  • 企業文化を守りながら成長できる

以下で詳細を解説します。

業務の効率化を測れる

新たに獲得したスキルの活用により従来の作業工数が短縮され、業務効率化につながります。短い時間でクオリティの高い業務が実現されることで、時間外や休日勤務の発生率が下がり、働きやすい職場環境の形成に役立つでしょう。

事業の新しいアイディアが生まれる

リスキリングで最新の知識やスキルを習得することで、時代のニーズに沿ったアイディアの創出を促します。情報化社会では変化のペースが速く、スピード感のある対応が企業に求められます。

リスキリングを通して得た新しいアイディアを業務遂行や商品開発に取り入れ、柔軟に変化することが企業に求められるでしょう。

採用コスト・教育コストを削減できる

リスキリングの導入を通して従業員にスキルを習得させれば、スキルを保有している人材を新規で採用するよりもコストを抑制できます。労働力人口の減少が進む近年では、採用による人材の確保が難しくなりました。

リスキリングを用いて従業員を戦略化することが企業の成長に必要不可欠です。

企業文化を守りながら成長できる

リスキリングのメリットとして、成長にあたって社風や企業文化を継承できる点が挙げられます。新規事業の立ち上げや事業拡大を検討する際に、新たな従業員を採用し充足をはかると、今まで形成してきた企業文化やノウハウの存続が難しいケースもあるでしょう。

社内を良く知る人物をリスキリングし、企業文化を守ることは、自社の独自性を担保した事業成長を可能にします。

リスキリングのデメリット

DX時代の対応に効果的である一方、スキルを身に付けたことにより人材が他へ流出したり、コスト面での負荷がデメリットとして挙げられます。

スキル習得による転職の可能性

必要な知識やスキルの習得は従業員自身の成長を促し、商品開発や売り上げに貢献が可能となります。経験を積むことで選択肢が広がることで、待遇や活躍の場が多い企業を求め、転職へ意識が傾く可能性も出てくるでしょう。

能力を持った従業員が他社へ移るリスクを下げるためにも、従業員の声を聞き、処遇の見直しや適切な配置転換なども視野に入れ、従業員のモチベーションを高める施策を講じましょう。

継続的な実施にコストがかかる

スキルを得るには研修の実施やアフターフォローなど、時間と費用が発生します。一回きりの研修では効果が得られにくく、継続したリスキリングの実施に向けて予算の確保と仕組み作りが必要です。

また、従業員が意欲的に学習に取り組めるよう、モチベーション管理にもコストがかかります。時間と費用の見込みを算出し、綿密な計画を立てリスキリングを実行しましょう。

リスキリングを導入する5つのステップ

正しい手順に従いリスキリングを導入することが、期待している効果を得るポイントです。ここでは具体的な導入手順を解説します。

①何を学ぶか?を決める

1つ目は、リスキリングでどのようなスキルを習得させたいのか明確にしましょう。事業の成長に必要なスキルを洗い出し、業績や個人の保有スキルをもとにして決定します。人事管理システムを使えば、従業員のスキルや知識の習熟度などが容易に視覚化でき、分析に役立つでしょう。

②対象とする従業員や部署を決める

次に、どの人材・部署を戦略化するか絞り込みます。経営戦略をベースに人材戦略を描くことが欠かせません。また、現在従業員が持っているスキルと、今後必要になってくるスキルにどれくらい乖離があるかを確認することも重要です。

対象者や対象部署を選定したら、面談などを行い、「どのようなスキルを習得して欲しいか」「なぜ新しいスキルが必要か」を事前に説明し、リスキリングについて理解してもらいましょう。

③教育プログラムを決める

教育プログラムとして代表的なものは、研修、eラーニング、社会人大学、セミナーなどが挙げられます。プログラムは複数用意しておき、従業員が自身にあったコンテンツを選択し、学習しやすい環境を作りましょう。

教材はWebのものや紙媒体の教科書を活用する方法があります。予算や従業員の使いやすさを加味して決定してください。

④自社で行うか外部リソースを使うか決める

リスキリングを実施する方法には、大きく分けて内製化とアウトソーシングの2つがあります。自社で行うメリットは主に、費用の削減、アフターフォローのしやすさ、講師を努める従業員の育成につながる点です。その反面で、講師担当者の負担が増え、講師の能力に差が出てしまうことがデメリットとして挙げられます。

アウトソーシングのメリットは、講師の知識や指導力が高いことや、外部ならではの目線で学びが得られる点です。ただし、費用は高額になりやすく、自社に指導のノウハウが蓄積されないので留意しましょう。

⑤リスキリングの実施と実践での活用

最後はリスキリングを実際に行い、現場で活かします。このときに重要となるのが、成果を測定することと、従業員に対しフィードバックを行うことです。やりっぱなしでは費用対効果が分かりません。

また、リスキリングの効果が実感できなければ、従業員のモチベーション低下につながるおそれがあります。PDCAを回す意識を持ってリスキリングに取り組みましょう。

リスキリングを実施する上でのポイント

リスキリングの手順を押さえたら導入時のポイントを理解して、リスキリングを成功へ近づけましょう。ポイントは主に、下記の2つです。

継続的に取り組める環境を作る
社員の声を取り入れる

以下で詳しく確認していきましょう。

継続的に取り組める環境を作る

従業員や組織が継続してリスキリングに取り組むことが、スキルの習得につながります。学習を持続するためには、リスキリングの目的や効果を全社員が理解しなければなりません。

また、社内で学習のサポート体制を整え、成功の精度を高めることがポイントです。経営者や人事担当者がリスキリングの認知度アップに役立つ情報発信をし、業務量の調整やフォローなどを通し、リスキリングが続けられる仕組みを作りましょう。

社員の声を取り入れる

リスキリングを急に導入されても、従業員は戸惑い、不満へ発展するおそれがあります。混乱を避けるために、リスキリング導入前には従業員の意見を聞き取ってください。たとえば業務での課題や改善点を調べれば、適切な教育プログラムの構成に効果的です。

また、導入する際は説明会やミーティングをして、理解する機会を用意しましょう。その際はリスキリングによってどのようなスキルが得られるか、自身のキャリアにプラスとなる点が何かなどを話すと、納得感が高まります。

リスキリングを導入した企業事例

リスキリングの導入を検討している企業に向け、本章からは現在リスキリングに取り組んでいる企業を3社ピックアップしました。ぜひ、自社で実践する際のヒントに役立ててください。

富士通株式会社

富士通株式会社は2020年度の第一四半期決算報告にて、下記のような項目を掲げ、DX推進の施策に取り組んでいます。

「①データドリブン経営強化」
データの徹底活用に向けたプロセス/システム刷新(One ERP)

「②DX人材への進化&生産性の向上」
社員13万人がDX人材となる(デザイン思考、アジャイル等)
オフィスのあり方や働き方の見直し(Work Life Shift)

「③全員参加型、エコシステム型のDX推進」
全社・部門の変革テーマを15名のDX Officerが横串で解く
お客様と従業員の「VOICE」を収集し経営判断、施策実行

引用元:富士通株式会社 2020年度経営方針説明

リスキリングを用い新時代に適応できるDX人材を育成し、DX専門の子会社を設立するなど、DX発展に大きく貢献している企業です。

株式会社日立製作所

2つ目は、株式会社日立製作所が発表した人材戦略について解説します。日立は、「社会価値の創出を牽引する人財戦略 ESG説明会」で、人材の確保、育成、最適配置に必要な施策として「デジタル人財の強化」を挙げました。具体的な方針は以下の2つです。

Lumadaを支えるデジタル人財を、2021年度に 3万人規模に拡充
スペシャリスト育成とベーシックな教育拡充の両輪で強化


引用元:「社会価値の創出を牽引する人財戦略 ESG説明会」


人材育成に向け、プロフェッショナル育成プログラムと、ベーシック育成プログラムの2段階で育成施策を打ち出しました。さらに目標を達成するために、日立アカデミーと協力してオリジナルの教育プログラムを用意しています。

キヤノン株式会社

キヤノン株式会社は事業領域を拡大にあたり、リスキリングを取り入れ人材育成に注力している企業です。

2018年には、研修施設「CIST(Canon Institute ofSoftware Technology)」を設立し、デジタル関連教育を拡充し、成長性の高い事業領域に人的リソースを移すために、研修と社内公募を合体させた「研修型キャリアマッチング制度」を実施するなど、幅広い人材のリスキリング(職業の能力の再開発・再教育)と社内転職を推進しています。

引用元:Canon「サステナビリティ」

キャノンは教育体系を「階層別研修」「選択研修」「自己啓発」で構成され、従業員1人が研修に費やした時間は平均して約19時間という結果でした。

日本におけるリスキリングの課題

リスキリングの課題として、海外と比較し日本の企業ではスキルマップやスキルデータベースの信頼が十分に得られていないことや、一定層が抵抗を感じている点が挙げられます。

企業内外の求人情報や求められる人材像をベースに必要なスキルを見つけ、常にデータを収集・更新していく姿勢がリスキリングには必要です。蓄積されたデータをどのように活用するか社内で検討し、仕組み化していきましょう。

新しい価値を創出し続けるリスキリングは、企業と人材が生き残るために欠かせない取り組みです。従業員にリスキリングによって得られる効果(得られるスキルと、今後の可能性)を提示し、意欲的に取り組める状況を作りましょう。

リスキリングで何を学ぶべき?人気スキル5選とおすすめサービス

リスキリングに関するまとめ

リスキリングはDX時代に対応する人材育成に有効な手段です。リスキリングとリカレント教育の違いを理解し、正しく導入できれば、企業の発展に大きなプラスとなるでしょう。教育プログラムの実施には内製化とアウトソーシングの2種類があります。どちらか1つを選ぶ必要はなく、自社と外部機関を適宜使い分けることもおすすめです。

まずは自社の現状と、今後の求めるスキルを明確にしてリスキリング導入の計画を練ってみてはいかがでしょうか。