ビジネスの現場では、マネジメントやリーダーシップという言葉を耳にする機会が多く混同されがちですが、両者は定義、求められるスキル、目的などに明確な違いがあります。
従業員のマネジメント力・リーダー力を高めたくても、違いが分からないため、何から手を付けて良いか分からないと悩む経営者や人事担当者も多いのではないでしょうか。効率良く人材育成するためにも、2つの概要を正しく理解することが必要です。
今回の記事では、マネジメントとリーダーシップの違いを知りたい人向けに、それぞれの定義、役割、目的などの基本的な項目を分かりやすく解説しました。従業員のマネジメント力・リーダーシップ力を向上させ、組織を活性化するヒントにしてください。
Contents
マネジメントとリーダーシップそれぞれの定義
まずはマネジメントとリーダーシップを有名な経営学者であるピーター・ドラッカーがどのように定義したのかを紹介します。
マネジメントとは
マネジメントとは、自書で「組織が成果を上げるための道具、機能、機関である」と定義しました。具体的には企業が成果を上げて経営目的を達成するために、人材や資産を管理することがマネジメントです。ドラッカーが言う成果とは、顧客の創造を意味します。
ドラッカーは「マネジメント – 基本と原則」の中で、マネジメントの持つ3つの役割を、以下のように述べています。
- マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する
- 仕事を通じて働く人たちを生かす
- 自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する
引用元:ピータ―・F・ドラッカー「マネジメント – 基本と原則」ダイヤモンド社 2001年 p.9
つまり、マネジメントの役割は、管理によって目的を果たし、自己実現の場として機能し、社会貢献に寄与することです。マネジメントの定義、目的、役割といった概要をさらに知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。
リーダーシップとは
リーダーシップとは、組織の目標を実現するためにチームに方向性を示し、導く力を指します。ドラッカーは著書「プロフェッショナルの条件」でリーダーシップを次のように定義しました。
- リーダーシップとは、仕事である
- リーダーシップとは、責任である
- リーダーシップとは、信頼である
ドラッカーは、リーダーシップとは生まれながらに手にしている資質ではなく、目標を管理・優先順位の決定を通して組織を統制する「仕事」として現れると説いています。
また、リーダーシップは組織内のポジションではなく、仕事の成果や業務に責任を持ち、活動する力であり、自身を信頼し従ってくれるチームのメンバーがいる人こそリーダーであるとも解説しました。
マネジメントとリーダーシップの違い
マネジメントは、目標達成して成果を出すための方法を考え、組織や個人を管理する力です。リーダーシップは、目標達成に向けて方向性を示し、チームを引っ張る行動力を指します。
マネジメントとリーダーシップの違いは大きく分けて、次の3つが挙げられます。
- 必要なスキル
- 目的
- 求められる資質と人間性
以下で詳細を確認していきましょう。
求められるスキルの違い
1つ目の違いは、目的や役割を果たすために要求されるスキルの違いです。マネジメントでは、計画策定力、論理的思考力、管理スキルなどが求められます。
一方、リーダーシップでは、目標設定力、企業の理念を正しく汲み取って現場を動かすための理解力に加え、人間的な魅力も必要です。
目的の違い
マネージャーとリーダーシップは目的が違う点で、大きく意味合いが異なります。前述した通り、マネジメントは目標達成によって成果を上げることです。長期的な目標を細分化して短期間に落とし込み、戦略的に計画の立案・管理により、その目的を実現します。
リーダーシップの目的は管理ではなく、メンバーがどこに向かうべきかを示し、チームを統制することです。
必要な資質や人間性の違い
マネージャーとリーダーとでは、求められる資質・人間性も異なります。たとえば、マネージャーは組織目標とチームや従業員個人をつなぐのが仕事です。従業員を企業理念やビジョンの実現に向け、巻き込んでいける資質を持っている人が適しています。
一方リーダーは、メンバーが目的に向かって努力できるよう士気を高めたり、自らが挑戦・創造して部下に行動力を発揮できる人間性を持ってなくてはなりません。
資質は先天的な性質を意味しますが、スキルは研修や自己研鑽によって後天的に習得が可能です。スキルの習得法については、後で詳しく解説します。
マネージャーとリーダーに必要なスキル
マネジメントとリーダーシップの定義や役割が異なるように、マネージャーとリーダーに求められるスキルにも違いがあります。
ここからは、両者に求められるスキル、マネージャーに求められるスキル、リーダーに求められるスキルの3つに分類し、詳細を解説します。
両者に共通して必要なスキル
マネージャーとリーダーの両方に求められるスキルとして、次のようなものがあります。
- 意志力
- 決断力
- 行動力
- 事務処理能力
- 指導力
- コミュニケーション力
マネージャー、リーダーとしての判断に迫られる場面も多く、決断力も欠かせません。目標を達成しようと思う強い意志力がなければ、最後まで目的を完遂できないでしょう。また、マネージャーもリーダーも、メンバーと密接に関わらなければ目的が果たせないので、コミュニケーション力や指導力は必須です。
マネージャーに特に必要なスキル
マネージャーは特に、下記のスキル習得を目指すことが求められています。
- 計画策定力
- 論理的思考力
- コーチング力
目標達成のため俯瞰して現状を捉え、分析、管理し組織を維持するのがマネージャーの役割です。具体的には、必要なタスクを洗い出してリスト化し、計画の立案、進捗管理などが挙げられます。計画を立てる力、論理的に考える力を発揮して、状況を的確に管理しなければなりません。
さらに近年ではコーチング型マネジメントといって、マネジメントとコーチングを組み合わせた手法が話題です。指示命令するマネジメントではなく、従業員に気付かせるコーチング力を活かして、自発的な成長を促します。コーチング力を習得することで、マネジメントの幅が広がり、従業員の特性に合ったマネジメントの実践が可能です。
マネージャーに求められるスキルの他に、マネジメント能力向上に興味のある人は、こちらの記事も参考にしてみてください。
リーダーに特に必要なスキル
次に、リーダーがどのようなスキルを身に付けるべきか、確認していきましょう。
- 目標設定
- 先見性
- 人間的魅力
リーダーは設定した目標に向かってメンバーを牽引する役割を担っています。目標設定が適切でないと、達成が困難になる恐れがあるため、リーダーにとって目標設定力は重要なスキルの1つです。
また、トレンドを取り入れ、業界や社会情勢の変化に対応した目標を設定することが事業運営では必要とされるため、先見性も求められるでしょう。
マネジメントとリーダーシップスキルの習得法
スキルは後天的なものなので、効果的な手法を用いれば習得が可能です。本章では、スキルの習得として、代表的な方法を3つピックアップしました。
- 社内外の講座・研修に参加する
- コーチングを受ける
- 自己研鑽をする
以下で、各習得法の特徴を詳しくみていきましょう。
講座や研修を活用する
1つ目は、スキル習得に役立つ講座や研修を受ける方法です。役職や階層別の研修と併用することで、マネージャーやリーダーに必要なスキルを網羅的に学べます。
ただし、従業員にとって業務外の講座や研修は負担になりがちなので、開始時期やスパンを短めに設定するといった配慮をしましょう。
近年では新型コロナウイルスの影響で、大勢を集めての講座や研修の実施より、Webを利用した講座・研修の利用が活発になっています。たとえばeラーニングを導入すれば、好きな時間を選べるので従業員の負担を減らせ、会社側も日程調整や会場、講師の手配をしなくて済むので効率が良くおすすめです。
コーチングを受ける
コーチングとは、クライアント(ここでは従業員)が悩みに気付いて解決策を見つけられるよう、コーチがクライアントに質問を投げかけて話を聴く人材育成の手法です。
コーチは外部の専門家に依頼することもできますが、自社のマネージャーやリーダーがコーチになって部下にコーチングを行えば、コストを抑えた人材育成が可能になります。部下とのコミュニケーションが活発になり、人間関係を構築できる点もメリットと言えるでしょう。
自己研鑽する
スキルの習得法として簡単に始められるのが自己研鑽です。コストが少なく場所の準備や講師が必要ないので、従業員と会社双方の負担を減らせます。特に書籍による知識のインプットは時間と場所を選ばず手軽にできる点が大きな魅力と言えるでしょう。
読書は誰でも簡単にできる自己研鑽ですが、書店・インターネットサイトではあらゆるマネジメント、リーダーシップに関する書籍を扱っているため、何を買うか迷う人も多いと思います。
次の章から、マネジメントとリーダーシップを学べるベストセラーのうち、3つに厳選してご紹介します。
マネジメントやリーダーシップを学べる書籍
自己研鑽の本を探している人には、マネジメント、リーダーシップの基本を学べる本として下記の3つがおすすめです。
- マネジメント【エッセンシャル版】- 基本と原則
- 完訳 7つの習慣 人格主義の回復
- リーダーシップ論
この3作は、マネジメントやリーダーシップを語る際に頻出する本なので、読んだことがない人はぜひ参考にしてみてください。
マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則/ピーター・F・ドラッカー
マネジメントの父として知られるドラッカーの代表作で2001年にダイヤモンド社より出版されました。「マジメント‐課題、責任、実践」の抄録を訳して初心者向けにまとめたもので、マネジメントの入門書として役立ちます。
マネジメントの使命、マネジメントの方法をはじめ、マネジメントの技能、組織、戦略を網羅しており、組織で仕事をしている人が目的意識を持つきっかけになる1冊です。
完訳 7つの習慣 人格主義の回復/スティーブン・R・コヴィー
7つの習慣とは成功者を観察して共通点を集約した作品で、自己啓発やリーダーシップをトレーニングする教材として用いられています。7つの習慣の項目を以下にまとめました。
- 第1の習慣 主体的である
- 第2の習慣 終わりを思い描くことから始める
- 第3の習慣 最優先事項を優先する
- 第4の習慣 Win-Winを考える
- 第5の習慣 まず理解に徹し、そして理解される
- 第6の習慣 シナジーを作り出す
- 第7の習慣 刃を研ぐ
本著で「自立を目指し、他者を理解して相互依存の状態を作り出し、肉体・精神・知的側面を磨いて成功を引き寄せる習慣を身につける重要性」を解説しています。
500ページを超え、内容が複雑に感じる人には、イラスト入りで分かりやすく要約されているので「13歳から分かる!7つの習慣 自分を変えるレッスン」もおすすめです。
リーダーシップ論/ジョン P. コッター
1988年に発表された作品で、変革的リーダーシップ理論を学べる1冊です。コッターは著作の中で、リーダーシップとマネジメントの違いや、変革を実現する8段階に大別し解説しています。
- 第1段階 緊急課題であるという認識の徹底
- 第2段階 強力な推進チームの結成
- 第3段階 ビジョンの策定
- 第4段階 ビジョンの伝達
- 第5段階 社員のビジョン実現へのサポート
- 第6段階 短期的成果をあげる計画策定・実行
- 第7段階 改善成果の定着と更なる変革の実現
- 第8段階 新しいアプローチを根付かせる
このほかにも、優秀なリーダーが持つ12の行動パターンを提示しているので、自身がどの行動を改善するべきかヒントを得られるでしょう。
マネジメントとリーダーシップの違いに関するまとめ
今回の記事では、マネジメントとリーダーシップの基本的な違いや、必要とされるスキル、スキルの習得方法をご紹介しました。
マネジメントやリーダーシップはよく似ていますが、本質は全く異なります。経営者や人事担当者は、両者の定義や違いを正しく理解することで、適切に従業員のスキル習得が促進でき、組織を効率良く運営するのに役立てられるでしょう。
本で知識をインプットしたら積極的に実践で活用し、マネジメント・リーダーシップを発揮してアプトプットすることがポイントです。