人事制度を改革しようと思っても、どのタイミングが適切か判断に迷ったり、人事制度の改革手順が分からなかったりと、疑問を抱える人事担当者・経営者の方も多いでしょう。
人事制度は正しく設計して運用しなければ期待している効果が得られず、作った時間と見合わない結果に終わってしまうかもしれません。
本記事では、人事制度の改革を考えている人事担当者向けに、人事制度の概要や、人事制度を成功させるポイントをまとめました。
あわせて人事制度改革の失敗例や成功例もご紹介しているので、ぜひ最後まで読んで、人事制度の改革を行う際の参考にしてみてください。
Contents
人事制度とは?
人事制度とは、「人材を適切に管理し統制するための制度」を言います。会社にとって最も重要な経営資産は従業員です。人事制度を活用して従業員を正しく管理することにより、モチベーションの向上、業務成績の改善・上昇、離職率の低下といったメリットが得られます。
人事制度は、以下の3つで構成されています。
- 等級制度
- 評価制度
- 報酬制度
なお、人事制度に関する詳細は、こちらの記事を参考にしてみてください。
人事制度を見直すべきタイミング
人事制度は人材を管理する重要な役割を担っています。人事制度を策定・運用したら、タイミングを見計らってブラッシュアップをしましょう。
本章では、人事制度を見直すべきタイミングを大きく2つに分けて解説します。
会社の規模が大きくなった時
1つ目は、事業が大きくなり、従業員が増えたタイミングです。経営が順調に進み従業員が増えると、従来使っていた人事制度では適切に人員を評価できない可能性があります。
従業員が少ない内は、一人ひとりにしっかり時間を取って評価できますが、従業員が増えたら効率良く評価できる制度に設計し直しましょう。
人事制度が古いままだと、正しい評価ができず従業員からの納得感は得られません。不信感は生産性を下げたり、チームワークを悪化させたりする原因となるため、事業規模が大きくなった段階で人事制度の改革をおすすめします。
環境が変化した時
会社や社会など環境が変化した場合も、人事制度の見直しを検討しましょう。近年では働き方改革や新型コロナウイルス、ITテクノロジーの発展など、社内外問わず環境が大きく変わりました。環境が変わると、個々の従業員が持つ仕事の価値観にも変化が現れます。
従業員や社会の価値観と乖離した人事制度は、運用しても実態になじまず、弊害が生じるリスクが高いです。
会社や社会の環境が変化したときは、企業方針を含めて人事制度の見直しをし、柔軟に環境の変化に対応しましょう。
人事制度を改革する7つの手順
会社の実態にマッチした人事制度を作らなければ、期待している効果が得にくいです。効果的な人事制度を作るために、本章では7つの手順をご紹介します。
1.経営理念の再確認
1つ目の手順は、経営理念を再確認することです。人事制度は、経営理念を実現する人材を育成・管理するために作ります。経営理念なくして、人事制度は成り立ちません。経営理念が今の会社に適したものか再度確認し、人事制度の基準にしましょう。
2.現状の把握と基本設計
次に、部署や組織の現状を知り、課題を洗い出して優先順位を付け、人事制度の骨組みとなる基本設計を行います。
現状を把握するには従業員へのアンケート、聞き取り調査、データ分析などが有効です。課題解決のために必要な人事制度を作るために、内部調査を実施しましょう。
3.等級制度の見直し
手順の3つ目は等級制度の見直しです。等級制度は人事制度を構成する要素の1つで、代表的な等級制度には職務資格制度、職務等級制度、役割等級制度などがあります。
自社の経営方針や課題、従業員に求める能力などを勘案して、どの等級制度を採用するか検討しましょう。
4.評価制度の見直し
等級制度を見直したら、評価制度の見直しへ移ります。評価制度には、業績評価、能力評価、情意評価などがあります。
従来は年功序列型の評価が一般的でしたが、終身雇用制度の崩壊とともに機能しなくなっています。成果や行動、勤務態度などが反映されるように工夫し、モチベーションを維持・向上できる設計にするのがポイントです。
5.報酬制度の見直し
手順の5つ目は、報酬制度の見直しです。代表的な報酬制度には、職能資格制度、職務等級制度、成果主義制度があります。報酬制度は等級や評価に応じて、従業員の給与や賞与、退職金などを決定する仕組みです。
報酬制度も評価制度と同じく、従来は勤続年数にもとづく年功序列型でしたが、近年では年功序列型は機能しにくくなりました。成果主義を取り入れる会社が増えているものの、競争意識が強くなりすぎる恐れもあるので、自社の社風にあった制度になるよう見直してください。
6.シミュレーションの実施
人事制度が完成に近づいたら、シミュレーションを行います。例えば、従業員に仮の等級を設定して新制度にもとづいた給与と従来の給与を比較したり、評価制度をあてはめて現状のものと新制度のもので結果が乖離していないかなどをチェックしましょう。
納得できるまで試行錯誤を繰り返し、従業員から不満の生まれない制度を作ることが、人事制度を正しく機能させる上で重要なポイントです。
またシミュレーションの段階で、従業員に新しい人事制度の説明会を行いましょう。いきなり運用を開始すると、現場の従業員が経営層や人事担当者に対し、不信感を抱く要因になります。
7.運用開始
シミュレーションで最終調整を終えたら、いよいよ本格的に運用をスタートします。運用開始時も、従業員へ説明すると新しい人事制度が受け入れてもらいやすくなります。
導入当初からトラブルなく軌道に乗る確率は低いので、問題が出てきたら早急に解決策を練って対応しましょう。改良を重ねることで、自社だけの人事制度が完成します。
人事制度の改革で失敗してしまう理由
ここまで、人事制度を改革する手順を7つに分け解説しました。順序通りに人事制度を策定しても、内容や社内環境によって上手く機能しないことがあります。
本章では人事制度の改革に失敗する要因として、代表的なものを3つピックアップしました。
要求が細かぎる
1つ目の失敗要因は、精密に作りすぎる点です。会社を良くしたいあまり、要求や評価方法・評価内容などを細かくしすぎると、評価する管理職の負担が増え、要求される側も疲弊して運用に支障をきたします。
人事制度の要求が細かすぎず適切な量であるか、評価する管理職の意見も反映させて人事制度を見直すことが、改革を成功させるポイントです。
改革スピードが遅い
改革スピードを早めることは、人事制度の改革を成功させる重要な要素の1つです。人事制度をはじめ、「会社のルール」を1から設計するには膨大な時間を要します。
改革が必要と感じてから、着手し完成するまでに半年~数年かかることも珍しくありません。本当に改革しなければならない段階で着手しても、運用までに時間がかかりすぎると、その間に人事制度に不満を持った従業員が辞めてしまうこともあり得ます。
スピード感を持って人事制度を改革し、状況が悪化してから人事制度を見直すということがないよう、改革のタイミングには十分配慮しましょう。
人事制度への興味が希薄
従業員が人事制度に関心を持っていないと、いくら中身が良くても期待している効果が得にくいです。人事制度を作った人だけではなく、周囲の従業員や経営層の協力や理解があって制度は正しく機能します。
「勝手に人事部や経営層が決めた制度」と従業員に思われないよう、アンケート調査を実施し意見を反映させ、運用前に説明会を行うなど、従業員一人ひとりに当事者意識を持たせるよう、配慮しましょう。
ただし、従業員の意見ばかり取り入れると会社の運営に沿った人事制度にならないので、意見に左右されないよう割り切ることも大切です。
人事制度を改革する際の5つのポイント
人事制度が失敗する理由を押さえたら、ここからは人事制度を改革して上手く運用するためのポイントを5つピックアップしました。
1.自社の状況・社員の望みに合っているか
人事制度の改革を成功させるには、制度そのものが会社に適した内容であることが重要です。お金と時間をかけて人事制度を作っても、中身が会社の状況や従業員の希望に合っているものでなければ、受け入れてもらえません。
人事制度を新しくするときは、他社の成功例をそのまま真似するのではなく、自社の風土や従業員の望みなどを叶えられる内容にしましょう。
2.「曖昧さ」を排除しているか
人事制度を設計する時は、曖昧な箇所がないようにしましょう。曖昧な人事制度は従業員に不満と不信感を与える大きな要因です。
例えば評価基準が曖昧だと、評価する人によって結果が変動する恐れがあり、正しい評価ができず従業員に納得感を与えられません。何を根拠にして評価しているのか文章にし、具体的な能力や行動、成果に紐づけて人事制度を設計しましょう。
曖昧さを排除し、公平さをもたせて納得感のある人事制度を作ることが、人事制度をうまく運用するポイントです。
3.クラウドシステムによる人材の可視化
クラウドシステムを使って人材を可視化することも、人事制度の改革を成功へと近づけます。
クラウドシステムは履歴書、勤務状況、スキル、コミュニケーション力、人事考課、配属履歴、研修の受講履歴、メンタルヘルスといったデータを可視化してくれます。
これらのデータを活用することで、従業員の適切な業務配置を行うことができ、人事制度の機能を発揮しやすい環境整備が可能となります。
4.プロフェッショナル人材の採用を考慮
人事制度の改革により人材を育成することも重要ですが、必要であればプロフェッショナル人材の採用も検討しましょう。
近年はAI、IoTといった最先端のテクノロジーが誕生しており、問題解決のためのアナリティクスに関する知識や、ビジネスモデルの変革が可能な「プロフェッショナル人材」が重要視されています。
人事制度を見直して人材を0から育てることも大切ですが、プロフェッショナル人材を採用することも企業の発展には有効な手段です。人事制度の改革に加え、いかに会社として魅力のある企業に成長するかが、人材を確保する上で重要なポイントになります。
5.HRテックによるAI機能を活用も考慮
HRテックとは、人的資源の調査、分析、管理をAI機能で実施し、業務パフォーマンスを向上させることです。
人材管理など人に関する業務は、煩雑で時間がかかりやすい側面があります。そのため、人事担当者が手作業で調査や管理を行うと、効率が悪くミスの発生率が高くなるなど、業務負担を増やす要因になります。
HRテックを導入して業務効率化をはかり、人事担当者の業務が軽減できれば、その分人事制度の運用や調整に時間を捻出でき、人事制度の効果が得られやすくなるでしょう。
近年トレンドの人事制度と導入事例
近年トレンドとなっている人事制度は、以下の3つです。
- ノーレイティング
- 360度評価
- バリュー評価
導入事例もあわせてご紹介するので、自社の人事制度を改革する前に読んで参考にしてください。
ノーレイティング
ノーレイティングとは、「従業員のランクを付けない」人事制度を指します。ランク付けすると、従業員は評価を気にするあまり、失敗を恐れてチャレンジしなくなるケースがあります。しかしノーレイティングはランクを付けずに、目標設定やフィードバックを重点的に行うため、従業員は積極的に行動でき、パフォーマンス向上や主体性を育むことができます。
ここからは、ノーレイティングを導入して成功させたAdobe Systemsの事例を解説します。
Adobe Systemsはコンピューターソフトウェアの会社で、PDFの編集ソフトやPhotoshdopといった製品を作っています。2012年に「チェックイン」と呼ばれるノーレイティングを導入しました。
この制度は「継続的なフィードバック」をベースにしています。人事制度を改革したことで、従業員からは「マネージャーにしっかりと働きを見てもらえている」「トラブルなど困ったときにはサポートしてもらえる」という感想が上がっています。この制度を導入したことで、評価への納得感が増し離職率の低下につながりました。
360度評価(多面評価)
通常の評価と異なり、上司、同僚、後輩や部下など多角的に1人を評価する方法を360度評価と呼びます。あらゆる視点で評価することで、客観性や公平性が生まれ、納得感のある評価につながるため、導入する企業が増えています。
360度評価を導入した代表的な企業としてはアイリスオーヤマが挙げられます。
アイリスオーヤマ株式会社は2003年に360度評価を導入しました。人事制度を改革した目的は大きく分けて、①本人が評価に納得できること、②フィードバックから自身の強み・弱みを発見して成長につなげることの2点です。
評価するのは上司、同僚、部下から各5人ずつ、計15人前後で、評価した人の匿名性が担保されているので、公正な意見が言える仕組みになっています。
アイリスオーヤマ株式会社の社内調査によると、評価の満足度・納得度は5点満点中「4.2」で、従業員からは人事制度を肯定する声が多く上がりました。このことから、アイリスオーヤマ株式会社は人事制度の導入を成功させた企業の1つと言えるでしょう。
バリュー評価
バリューとは、企業の価値観を理解して行動した人を高く評価する制度で、行動評価と呼ぶこともあります。自ら考えて行動する人材を育てるのに適している制度で、近年ではバリュー評価を導入する企業も多いです。
バリュー評価で成功した企業として、ヤフーの事例をご紹介します。
ヤフー株式会社は「課題解決」「爆速」「フォーカス」「ワイルド」という4つのバリューによって従業員を評価するバリュー制度を導入し、成功をおさめました。従業員にバリューカードを配布して、ヤフーの価値観を浸透させる環境を整備しています。
特にフィードバックの活性化にこだわっていて、すべての評価コメントを公開することで、本人が改善に向かってアクションを起こしやすくする工夫をしています。
人事制度の改革に関するまとめ
人事制度を見直し、上手く運用して軌道に乗せるには、正しい手順で設計することに加えて失敗例や成功例を参考に、自社独自の制度を作りあげていくことが大切です。
経営理念や社風を再確認し、社外の環境や従業員の要望を上手く取り入れて、適切な運用を心がけましょう。
人事制度が上手く機能すれば、人材育成や会社の発展に大きく寄与します。より良い組織を作るために、この記事をきっかけにして人事制度を見直してはいかがでしょうか。