障害者雇用とは?企業の義務や罰則、メリット、助成金まで解説

制度設計

一億総活躍社会では、障害のあるなしに関わらず、誰もが能力を発揮して働くことを目標としています。障害者雇用は法律で定められた義務であり、企業が障害者雇用に積極的に取り組むことが求められています。

この記事では、障害者雇用を促進するにあたって、法律面での基礎知識や障害者雇用のメリットについて解説します。また障害者雇用で申請できる助成金も紹介しています。障害者雇用を進める際の参考にしてください。

障害者雇用とは

障害者雇用とは、企業や事業主が障害のある人を「障害者雇用枠」で雇用することをいいます。これは「障害者の雇用の促進に関する法律」を基にしたものであり、障害のある人の雇用を促進するために、政府は障害者の雇用について一定のルールを設けています。

障害の種類や有無にかかわらず、それぞれの希望やスキルに合った仕事で活躍できるような社会を作ることが、障害者雇用の目的です。

障害者雇用枠の対象

障害者雇用の対象となるのは、身体障害者・知的障害者・精神障害者です。それぞれ、以下の手帳を有しており、症状が安定していること、また就労可能な状態である人が対象となります。

  • 身体障害者手帳
  • 療育手帳
  • 精神障害者保健福祉手帳

障害者雇用促進法とは

障害者雇用促進法とは、正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、障害者の雇用機会の拡大・安定を目的とした法律をいいます。

障害者雇用促進法は、民間企業への障害者雇用の義務や障害者雇用納付金など制度の基盤となるとともに、障害者に対する差別の禁止や合理的配慮の提供義務、障害者の範囲の明確化などを定めています。

企業に対する障害者の雇用義務と法定雇用率

一定数以上の従業員を雇用する企業では、法律で定める以上の割合で障害者を雇用する義務が障害者雇用促進法にて定められています。対象となるのは、従業員43.5人以上の事業主です。民間企業、国・地方公共団体等・都道府県などの教育委員会という3つの区分で、障害者を雇用する割合である法定雇用率が以下の通り定められています。

区分※従業員43.5人以上法定雇用率
民間企業2.3%
国・地方公共団体等2.6%
都道府県などの教育委員会2.5%
参考: 令和3年3月1日から障害者の法定雇用率が引き上げになります|厚生労働省

企業が雇用するべき障害者の数を求めるには、以下の通り計算します。

法定雇用障害者数=企業全体の常時雇用する労働者の総数×法定雇用率

※週の労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者は0.5でカウントします。

たとえば、従業員が(健常者・障害者含む)正社員50人、短時間労働者10人の民間企業の場合、障害者雇用の法定雇用率は2.3%です。計算式に当てはめた場合、

「50人+5人(0.5で計算)×2.3%=55×0.023=1.265」

となり、小数点以下を切り捨て、「1人以上」の障害者の雇用義務があることになります。

なお、雇用率を計算する場合、障害の種類や程度によってカウントの方法が以下のように変わります。

雇用状況の実態について

厚生労働省が発表した「 令和3年 障害者雇用状況の集計結果 」によれば、民間企業に雇用されている障害者の数は597,786人で前年より3.4%増加し、過去最高数値を記録しました。一方で法定雇用率達成企業の割合は47%と、対前年比で1.6%増加しており、企業によって障害者雇用のバラツキがあることがうかがえます。

法定雇用率未達成の企業のうち、63.9%は不足数が0.5人や1人と、あと少しで達成できる状況ですが、障害者を一人も雇用していない企業も約3万社以上あります。

障害者雇用促進法に違反した場合のペナルティ

障害者の法定雇用率の対象となる企業は、毎年1回、6月にハローワークに障害者の雇用状況を報告します。このとき、障害者の実雇用率が法定雇用率を満たしていないとき、ペナルティが課される恐れがあります。

ペナルティの種類は、ハローワークからの行政指導が入るほか、企業名の公表、障害者雇用納付金の徴収があります。

障害者雇用納付金制度とは

障害者雇用納付金とは、法定雇用率が未達成の企業のうち、常用労働者100人以上の企業から障害者雇用納付金を徴収し、その納付金を元として、法定雇用率を達成している企業に対して、調整金・報奨金を支給する制度です。以下に、目的や内容を詳しくご紹介します。

給付金制度の目的

障害者を雇用する場合、企業は雇用した障害者が働きやすいよう、環境を整えることが必要になります。バリアフリー化や介助者の配置というコストが発生する場合もおおく、障害者を雇用する企業とそうでない企業との経済負担差をなくすため導入されているものです。

法定雇用率が未達成の企業は、納付金を支払ったからといって、障害者雇用の義務が免除されるわけではないという点に注意しましょう。

障害者雇用納付金制度の内容

障害者雇用納付金制度では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が、法定雇用率未達成の企業から納付金を徴収し、各企業へと支給します。

障害者雇用納付金(罰金)

未達成の企業から徴収される障害者雇用納付金は、法定人数に対してその企業で不足している障害者の数1人あたり月50,000円です。

障害者雇用調整金

障害者雇用調整金は、法定雇用率を達成している事業主に支給されます。支給される額は、常用労働者100人以上の企業で、法定雇用障害者数を越えた人数分×月額27,000円となっています。

報奨金

報奨金は、常用労働者100人以下の企業を対象に支給されます。支給条件は、障害者を常用労働者の4%または6人のうち、多い数を超えて雇用している場合です。超過人数分×月額21,000円が報奨金として支給されます。

特例給付金

特例給付金とは、短時間であれば就労可能な障害者の雇用を促進するために設置された制度で2020年よりはじまりました。具体的には、週10時間以上20時間未満の障害者を雇用している企業に対して、従業員の数に応じた給付金が支給されます。

支給額は、調整金・奨励金のおよそ1/4となっており、週20時間以上の障害者雇用数を上限歳、週20時間以上勤務の法定雇用率の対象となる障害者を一人も雇用していない場合には、たとえ短時間勤務の障害者を雇用していたとしても対象外となります。

  • 常用労働者100人超:7,000円/月×週10時間以上20時間未満の雇用障害者数
  • 常用労働者100人以下:5,000円/月×週10時間以上20時間未満の雇用障害者数

障害者雇用を行う企業のメリット

障害者雇用を促進することは、企業の社会的責任を果たすだけではなく、既存の業務を誰もができる体制に見直すことで、最適化や効率化を勧めるといった効果が期待できます。以下に、障害者雇用を行う企業のメリットを解説します。

業務の最適化や効率化につながる

障害者を雇用する際、企業は障害の特性や職務能力にあわせ職場を整備することが求められます。こうした業務の見直しは、社内全体の業務効率化や最適化を進めるチャンスとなります。

たとえば、ウェブサイトの情報の定期更新やリストの抽出・作成などの業務は、障害のある方が取り組みやすい業務といわれます。業務を切り出し、フローを整備することで、誰にとっても取り組みやすい体制を整え、長期的視野でみて生産性の向上が期待できます。

社会的責任(CSR)を果たせる

障害者雇用は、障害のある方の自立・生活を支援する意味を持つため、社会貢献につながります。近年、企業経営には利益の追求だけでなく、事業や経営活動を通じて社会課題を解決するCSRが重視されています。

企業のCSR活動は、投資家などステークホルダーにとっても企業価値を判断するための重要な指標の一つです。障害者雇用を通じて、企業の社会的責任を果たすことにつながります。

多様性のある企業文化を作れる

「多様性の尊重」「ダイバーシティ」という言葉に代表されるように、企業の雇用においても多様化が進んでいます。障害者と共に働くことで、互いの違いを認識し、得意な点や不得意な点を踏まえたうえで、働きやすい環境や制度を作っていくことができます。

様々な助成金を受け取れる

障害者雇用を行う企業は、一定の条件を満たせばさまざまな助成金を受け取れます。試験的に障害者を受け入れた際に申請できる「トライアル雇用助成金」や、一定人数以上の障害者を雇用した際、施設の整備のために支給される「障害者雇用安定助成金」などがあります。

企業が障害者を雇用すると受けられる助成金や支援金

障害者雇用を促進する企業が申請できる助成金、支援金について、以下に詳しく説明します。

トライアル雇用助成金

トライアル雇用助成金とは、原則3カ月の試用期間を経て継続的な障害者の雇用につながることを目的とした制度です。企業は、トライアル雇用助成金を利用すれば、求職者の能力や適性を見極めたうえで継続雇用に切り替えることができます。

トライアル雇用助成金の対象となる求職者は、以下のいずれかの要件を満たしている必要があります。

  • 紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望している
  • 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
  • 紹介日の前日時点で、離職している期間が6ヶ月を超えている

※重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者の方は上記の要件を満たさなくても対象となります。

助成金は、対象労働者が精神障害者の場合には月額最大8万円を3カ月、その後は月額最大4万円が3カ月支給されます。それ以外のケースでは、月額最大4万円が3カ月となります。

特定求職者雇用開発助成金

特定求職者雇用開発助成金とは、高齢者や障害者など、就業の機会を得るのが難しい方々をハローワークの紹介により雇用した場合に支給される助成金です。

週の所定労働時間が30時間以上の、重度障害者等を除く身体・知的障害者を雇用した場合は、2年間で合計120万円が支給されます。重度障害者の場合には、3年間で合計240万円が支給されます。

また週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短期労働者でも、2年間で合計80万円の助成金が支給されます。

障害者介助等助成金

障害者介助等助成金は、障害者を雇用するとき定着を図るために職場支援員を配置した事業主や、療養・休職していた障害者が職場復帰のための必要な措置を講じた障害者に対して支給される助成金です。

従来は障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース)という制度で運用されていましたが、令和3年より変更があり、上記の措置については障害者介助等助成金という枠組みになりました。

障害者介助等助成金では、配置した介護者の要件や対象によって、かかった費用の3/4~2/3程度が支給されます。

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)は、有期雇用契約や短時間契約、派遣等、非正規で雇用されている労働者の、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して支給される助成金です。

障害者を有期雇用契約から正規雇用契約に転換した場合、もしくは無期雇用から正規雇用へ転換した場合に支給されます。支給額は、対象となる障害者によって異なります。最大で120万円、最低で45万円が1年間で支給されます。

助成金を申請するにあたって、事業主はキャリアアップ計画の作成・提出をハローワークに行う必要があります。また、助成金を申請できるのは、正社員等へ転換後、6カ月の賃金支払いが経過したあとになります。

企業が障害者を雇用する際の注意点

はじめて障害者を雇用する場合、どのような点に気を付けたらいいのか不安に思うこともあるでしょう。以下に、障害者雇用で企業が注意するべきポイントを紹介します。

障害者差別禁止と合理的な配慮

障害者雇用促進法では、企業に障害者差別の禁止と合理的な配慮を義務付けています。差別の禁止とは、障害があることを理由に採用対象から除外したり、雇用後に不当な待遇を押し付けたりするのを禁止するものです。

また、合理的配慮の具体例では、出勤しやすいよう満員電車を避けた時差出勤制度の導入や、音声読み上げソフト・手話通訳の導入といった障害に合わせたサポートの実施などがあります。知的障害のある人には、わかりやすいマニュアルを整備したり、その人に合わせた業務の切り出しも重要です。

既存社員の理解を得る

障害者を雇用するのは法律で定められた義務といっても、受け入れる側の無知・無理解が障害者雇用の定着を阻む要因になることがあります。そうならないためにも、事前に研修などを通じて社員の理解を深め、不安の払しょくを図るようにしましょう。

面接時の注意点

障害者雇用といっても、実際にどのような配慮が必要になるのかは、一人ひとり異なります。面接では、障害の特性や配慮を希望するポイントをヒアリングし、入社前にしっかりと把握しましょう。また、社内の協力を得るために現場上司や社員と情報を共有する場合には、必ず本人の了承を取ったうえで行います。

面接で本人に障害の状況などを質問する前に、「言いにくいことがあったらおっしゃてください」と付け加えたり、「どのような配慮や対応をすればよいか、準備しておきたい」と質問の意図を説明したりすると、求職者もリラックスして面接を受けることができるでしょう。

障害者雇用に関するまとめ

障害者の雇用は、法律で定められた企業の義務です。自社で雇用するべき人数を確認すると共に、法定雇用率が未達成の場合には障害者雇用を促進するための取り組みを行いましょう。障害の特性をカバーし、一人ひとりが就業できる環境を整備するのは、企業が社会的責任を果たす上で重要な点です。関連する助成金の活用を検討しつつ、雇用を進めましょう。