継続的な社内研修の実施は従業員のスキルアップを促し、企業の存続に必要な取り組みの1つです。社内研修の企画・運営担当者には、「社内研修の概要を把握したい」「社内研修の具体的な進め方を知りたい」と考えている方も多いでしょう。
社内研修にはメリットに加えてデメリットが存在し、研修の種類も複数に及びます。自社にマッチした社内研修をするには、人事や社内研修の企画・運営担当者が、社内研修の基礎知識をつかまなくてはなりません。
この記事では、社内研修の概要から具体的な進め方、階層別のテーマを例示しています。意味ある社内研修にする為のコツも紹介するので、社内研修を検討している方はぜひ最後まで読み、参考にしてみてください。
Contents
社内研修とは
社内研修とは、社内の従業員が講師となって他の従業員に研修を行うことです。なぜコストを投資して、企業は社内研修に取り組むべきなのでしょうか。本章では社内研修を企業が行う目的と、必要性が高まった背景を解説します。
社内研修の目的や必要性
社内研修の目的は、専門的なスキル・知識の習得です。長期にわたって継続実施される社内教育と異なり、社内研修は比較的短いスパンで特定の能力を身に付けられるのが特徴です。
社内研修が重視されるようになった理由として、グローバル化やITテクノロジーの進歩といった外部環境の変化が挙げられます。近年は会社を取り巻く環境の変化が速く、従業員のスキルを磨いて企業の競争力を高めなければなりません。社内研修は短期間でスキル・知識を身に付けられるので、社会情勢や経済の変化にも柔軟に対応しやすく、実施の必要性が高まっています。
社内研修と外部研修の違い
社内研修は自社の従業員が講師を担当するのに対し、外部研修は外部の講師が研修を行うものです。外部研修には講師を派遣してもらうほか、社外の勉強会やセミナーに参加する方法があります。社内研修の効果を最大化するために、次の章で社内研修のメリットとデメリットを理解しておきましょう。
社内研修のメリット・デメリット
適切な社内研修の実施は、従業員の即戦力化を促します。社内研修を成功させるために、講師面や費用面といった視点で社内研修のメリット・デメリットを解説します。
社内研修のメリット
社内研修のメリットは大きく分けて、次の4つです。
- 会社の育成方針や組織の風土にあった講師を社内から選べる
- 研修カリキュラムを自由に構築できる
- 社内に研修ノウハウが蓄積される
- 金銭的な費用負担が少ない
社内をよく知る従業員であれば、社内の事情や従業員の個性、知識レベルを考慮した講義が行えます。試行錯誤しながら研修の開催回数を増やすことで、研修に関するノウハウが蓄積され、研修のクオリティを高められるでしょう。
社内研修のデメリット
社内研修を内製化する上で発生するデメリットを、下記にまとめました。
- 講師の能力にムラが生じやすい
- 講師の業務負荷が増える
従業員はプロの講師ではないので、担当する従業員によって研修のレベルに差が出てしまい、研修の効果が不均一となる可能性があります。社内研修を行う際は、講師に選定した従業員へ研修を行い、講師のレベルを一定以上に引き上げましょう。また、必要であれば研修の準備期間中は業務量を調整するなど、講師担当者へのフォローをしてください。
社内研修の種類
社内研修は主に、Off-JT、OJT、e-ラーニングの3つに分類できます。それぞれの特徴や利点を詳しく説明します。
Off-JT
OFF-JT(Off the Job Training)とは、業務をはなれて研修やグループワークへの参加を通して従業員を教育する方法です。一度に多数の従業員を教育でき、教育担当者の負担量を減らせます。
また実務では学べない発見や知識を得られるといったメリットもあります。ただし、OFF-JTの実施にあたり多数の従業員が業務を中断しなければならず、日程調整や費用面でのコストが生じるといった点に注意が必要です。
OJT
OJT(On the Job Training)とは業務を遂行しながら実践的なスキル・知識を学ぶ研修を指します。実務に必要なスキル・知識を素早く習得できる点はOJTの大きなメリットと言えるでしょう。
一般的なケースでは1人の教育担当者が1人の対象従業員を教育するため、研修に多くの時間をかける傾向にあります。教育担当者の負担が大きくなりすぎないよう、OJT担当者の業務量を調整するなど配慮が欠かせません。
e-ラーニング
eラーニングとは、電子機器を使ってインターネット上で学習することです。メリットとして、時間や場所を問わず自身の空いた時間に受講できる便利さが挙げられます。同じ教材を使用するため、従業員全員が均等なレベルの研修を受けられるのも、魅力の1つです。
しかし、講師陣と直接的なコミュニケーションが取れず、個々の疑問を解消しにくいというデメリットがあります。また学習者のモチベーション管理がしづらいので、Off-JTやOJTと組み合わせて実施するとより効果が得やすいでしょう。
社内研修における階層別の主なテーマ
効果的な研修の実施には、研修対象者に合ったテーマ選びも重要です。ここからは、新入社員、中堅社員、管理職の3階層別に、おすすめのテーマを絞ってご紹介します
新入社員向け
新入社員には土台となる基本的なスキルをはじめ、思考方法に関するテーマで研修をするのがおすすめです。たとえば、以下のようなテーマが挙げられます。
- 会社理解(理念・ビジョンの浸透)
- ビジネスマナー研修
- ロジカルシンキング研修
新入社員はビジネス経験がなく、社会人のマインドに切り替わっていない人も少なくありません。ロジカルシンキングや会社理解といった研修を通して、実務以外のスキル・知識が習得できる機会を設けましょう。
中堅社員向け
チームをまとめて部下の指導を行う中堅社員には、リーダーシップやマネジメントスキルなど、業務以外の力を養う必要があります。部下として上司をサポートし、組織目標の達成に向けて立ち回ることも、中堅社員の重要な役割の1つです。中堅社員には、以下のようなテーマで研修を行うと良いでしょう。
- チームビルディング研修
- リーダーシップ研修
- フォロワーシップ研修
- ファシリテーション研修
チーム全体の生産性向上を促すスキルが身に付く研修をおすすめします。
管理職向け
管理職は将来的に経営に関わることが期待されているポジションです。新入社員と中堅社員を自社で活躍できる人材に育てる役割を担っています。管理職向けにおすすめの研修テーマを下記にまとめました。
- リスクマネジメント研修
- コーチング研修
- 戦略策定研修
- 組織デザイン研修
- メンタルヘルス研修
- ハラスメント研修
育成に関するテーマだけではなく、部下の労務管理についても熟知しなければなりません。従業員が快適に働けるような職場づくりをするために、メンタルヘルスやハラスメントといったテーマも押さえておきましょう。
社内研修の進め方
計画を立てて手順通りに研修を進めることが、効率良く成果を得るためのポイントです。次に、社内研修を行うステップを6つに分けて解説します。
現状の課題を洗い出す
はじめに、会社の現状を知り課題を見つけましょう。企業の経営方針や求める人物像と、現場の実態に乖離がないかヒアリングやアンケートを活用して調べてください。会社が必要とするスキルの基準を満たしていない従業員がいないか、従業員が持つ悩みは何か、課題の傾向などを洗い出し、実施すべき研修テーマの目星をつけます。
ゴールを決める
次に研修で何を達成するか、ゴールを設定しましょう。ゴールは研修成果を測定する指針となり、次回の社内研修に向けた改善点の発見に役立ちます。
何のために社内研修を行うか、理由や目標が明確になっていれば、従業員もゴールに向けて努力しやすいです。
研修プログラムを設計する
研修プログラムの大枠を決めましょう。主に決定すべき点は以下の通りです。
- 研修のテーマ
- 開催時期・開催頻度
- 研修方法(eラーニングやセミナーなど)
- 研修形式(講義かグループワーク形式かなど)
- 研修対象者の絞り込み
大まかな枠組みを整えたら、研修の細かい部分を設計していきます。たとえば、研修の開催場所や担当講師、周知方法、準備期間の設定、配布物や教材の選定、フォローアップの方法や研修後のアンケート作成などです。
講師を選定する
人前に立ち、聴き手が理解できるような言葉を選んで説明できる講師を選びましょう。もし、適任者がいなければ候補者を絞って、講師向けの研修を行い、スキルを習得してもらいます。
研修参加者の性質や課題を理解し、適宜グループワークを行ったりフィードバックしたり、臨機応変に工夫ができる人物が適しているでしょう。
研修の準備をする
準備量は研修の質に大きな影響をもたらします。講師が登壇に不慣れな場合は、しっかりとリハーサルを行ってください。タイムテーブルを作成し、研修で伝えたい内容が盛り込まれているかなど、内容の確認も必要です。
また、研修の告知の際は参加者が真剣に研修へ取り組めるよう、「研修の意図」「研修の効果」をあらかじめ示しましょう。
研修後のフォローアップ方法を決める
代表的なフォローアップの方法は、アンケートとレポートの2つです。アンケートは実施が容易で、どのくらい講義内容を理解したか、満足度や研修そのものの課題を見つけられます。
ただし、習熟度を把握するのが難しいため、アンケートとレポートを併用し、継続してフォローできる体制を構築することが大切です。
意味のある社内研修にする為のポイント
講師選びや資料作成などのポイントを押さえることが、社内研修の効果を最大化するのに役立ちます。本章では、社内研修を有意義なものにする3つのポイントをお伝えします。
講師を選定するポイント
講師を決めるポイントは2つあり、1つめは講師にふさわしい人物だと参加者が感じられるか、もう1つは参加者に寄り添える共感力を持っているかという点です。研修内容が充実していても、伝える講師の人柄・力量次第で研修の成果や満足度は変わってきます。
優秀な実績を残していたり、部署問わず信頼されていたりする従業員であれば、参加者の興味をひくことができ、真剣に傾聴してくれる確立が上がります。ただし、成功体験ばかりを語る講師では、参加者の共感は得られにくいです。講師には「参加者の持つ課題や悩みを講師も乗り越えて、成功をつかめた」など、参加者の立場に立って話す力も求められます。どのような講師なら、参加者が真剣に傾聴できるかを考えて、講師を選定すると良いでしょう。
研修資料の作成ポイント
研修資料は講義を最後まで集中して聴けるよう、見やすく飽きない工夫をしましょう。文字の大きさや使用する色と色の数、内容量や内容の濃さなど、本番前に複数人でチェックしておきます。
アニメーションや色は多用せず、シンプルなものを作成するよう心がけてください。もし資料作成が苦手であれば、インターネットで公開されている無料のテンプレートを活用すると良いでしょう。
研修後のフォローのポイント
社内研修は学んで得たスキル・知識を実務で活かすことが最も重要です。研修内容が定着するよう、スキルを発揮する場を設けましょう。
フォローアップ研修の実施も有効な手段です。社内研修の成果を上げるためにも、研修後のフォローはしっかり行い、能力発揮を促してください。
社内研修のコストと軽減方法
外部研修よりコストが低額とは言え、準備や講師の育成には時間とお金がかかります。外部の会場を使用するなら宿泊費、飲食費、交通費、会場利用料が発生し、資料の印刷代も必要です。
近場の会場や社内の会議室を利用すれば、交通費などのコストが削減できます。費用と時間的なコスト両方を削減したい場合は、eラーニングの活用もおすすめです。
オンライン研修を実施する企業も増えている
社会情勢の変化にともない、オンライン研修のニーズが高まりました。オンライン会議ツールや動画配信を使った研修方法が多くの企業で採用されています。オンライン研修は費用削減に効果があるだけではなく、教育のクオリティを均一に保ち、チャットで随時質問ができるなどのメリットがあります。
また、動画を使ったオンライン研修であれば、時間や場所を自由に選択して受講でき、繰り返し動画を観て学習することも可能です。ただし、従業員によってはモチベーションの維持が難しく、積極的に取り組めず、習熟度にムラが出る可能性もあります。従業員がオンライン研修へ前向きになれるよう、「なぜ研修をしているか」「研修でスキルアップすればどのようなキャリアが実現できるか」などを上司が発信し続けると良いでしょう。
社内研修に関するまとめ
社内研修は短期間で専門的なスキル・知識の習得ができ、企業の課題解決や人材の育成に効果的な施策と言えます。従業員の力を伸ばして企業の競争力を高めるためには、適切な社内研修を設計・運用することが重要です。今回の記事で解説した情報を参考にして、どのような研修が自社に適しているか検討するヒントに役立ててください。