一般的に、社会労務士(社労士)は難しい国家資格だといわれています。では、実際のところ、司法書士や行政書士など他の国家資格と比べても、難易度が高いのでしょうか?
今回は社労士試験の合格率の推移と共に、他の資格試験と比べた際の難易度を解説します。また、効率的に学習するための方法についても紹介。社労士資格に興味を持っている人は、試験を受験するかどうか検討する際の参考にしてください。
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社労士の難易度と合格率
人事労務系の資格のなかで、社会保険労務士(社労士)の資格は難易度が高いことが知られています。
2021年10月に発表された第53回社会保険労務士試験の合格率は7.9%でした。受験者数37,306人のうち、合格したのは2,937人です。100人のうち7〜8名しか合格しない試験であることを考えると、狭き門といえます。
ここ数年は合格率は6%台が多かったため、直近の社労士試験の合格率はむしろ高いほうに入ります。年度によっては2016年の4.4%、2015年の2.6%と大きく下がる場合もあります。
年度 | 合格率 | 受験者数 | 合格者数 |
2021年 | 7.9% | 37,306人 | 2,937人 |
2020年 | 6.4% | 34,845人 | 2,237人 |
2019年 | 6.6% | 38,428人 | 2,525人 |
2018年 | 6.3% | 38,427人 | 2,413人 |
2017年 | 6.8% | 38,685人 | 2,613人 |
2016年 | 4.4% | 39,972 人 | 1,770人 |
2015年 | 2.6% | 40,712人 | 1,051人 |
2014年 | 9.3% | 44,546人 | 4,156人 |
参考:合格者等の推移(過去10年)・第53回社会保険労務士試験合格者の年齢別・職業別・男女別構成|厚生労働省
社労士試験の難易度が高い理由に、「受験科目の多さ」と「合格基準点の細かさ」があげられます。
社労士試験は、選択式と択一式の2種類で構成されています。社労士試験は10分野を対象とし、受験科目は選択式で8科目、択一式で7科目あります。つまり、受験勉強で学ばなければならない内容が広範囲に渡ります。
そのうえで試験に合格するには、選択式と択一式の各科目での合格基準点をクリアしつつ、それぞれの種類の総得点で合格基準点を上回らなければなりません。つまり、総得点で合格基準点を上回っていても、どれか一科目基準点をクリアできないものがあれば不合格になってしまうのです。どの科目もまんべんなく勉強し、広範囲にわたる法律に精通しなければならないのが社労士試験の難しさの理由といえます。
社労士の難易度は高い?その他の有名資格と比較
社労士以外にも、申請手続き代行など法律業務を行うことが認められた資格があります。
そのなかの司法書士、宅地建物取引士(宅建)、行政書士、中小企業診断士と比較してみると、司法書士 > 社労士 > 行政書士 > 宅建 > 中小企業診断士の順番で合格の難易度が難しくなっていくのがわかります。
試験名 | 必要勉強時間 | 合格率 |
司法書士試験 | 3000時間 | 4%前後 |
社労士試験 | 800~1000時間 | 6%~7% |
行政書士試験 | 600時間 | 10%前後 |
宅建試験 | 300~400時間 | 15%~17% |
中小企業診断士試験 | 1000時間 | 20%~30%台 |
勉強時間からみても、社労士は司法書士よりも下ですが、行政書士や宅建と比較すると倍近く勉強しなければいけません。また、同じぐらいの勉強時間の中小企業診断士試験と比較して、難易度が高くなっています。
司法書士との難易度比較
司法書士試験は、合格率4%台と社労士試験よりも難易度が高くなっています。試験は午前と午後に択一式を実施し、さらに記述式の試験があります。択一式だけで、憲法や会社法、不動産登記法など11科目もあるため、勉強する内容が多いことが難易度を上げる要因となっています。
ただ司法書士試験は司法試験とは異なり、受験資格が限定されません。そのため、「試しに」という感覚で受験する人もおり、受験者の傾向が合格率に反映されていることも考えられます。
宅建との難易度比較
宅建の合格率は15%〜17%。難易度でいえば社労士よりも易しく、また必要な勉強時間は300時間〜400時間と少なくなっています。
宅建は、不動産取引の専門家を示す資格です。不動産会社や建築会社など、宅建資格を持っていることで仕事の活躍の場が広がることもあり、受験者数は例年20万人と、社労士資格と比べ非常に多くの人が受験することがわかります。
出題科目が4科目と限定されているため、集中的に勉強できることが合格率に影響していると考えられます。
行政書士との難易度比較
行政書士試験の難易度は、10%前後と社労士と比較してやや易しく、また勉強時間も600時間と少なくなっています。
試験内容は法律に関連する法令科目と、政治や経済などの一般知識科目があります。法令科目でも基礎的な法律知識があれば解きやすく、一般常識も広く問われるため、社会に出てから法学について学ぶようになった方も受験しやすい内容になっています。
また、合格基準点も「法令」と「一般知識」という区分けで設定され、試験全体の合計300点のうち180点以上が合格基準点と明確です。社労士とは異なり、一つ一つの科目ごとの点数が問われないという点で、得意な科目を集中的に学習できます。
中小企業診断士との難易度比較
中小企業診断士の合格率は20%〜30%台と、社労士と比較して受かりやすい試験となっています。ただし、勉強には1000時間程度と、社労士試験と同じくらいの勉強量が求められます。
中小企業診断士は1次試験と2次試験があり、1次試験の7科目すべてで合格しないと2次試験には進めません。ただし、1次試験で合格した科目は3年間有効です。つまり3年の間に7科目合格すればよいということになります。2021年(令和3年度)に発表された1次試験の合格率は36.4%でした。
合格者の内訳は、民間企業勤務が最も多く、経営コンサルタントや税理士などの自営業者も含まれます。試験科目が「経済学」「財務・会計」「企業経営理論」と、経営と近い距離で仕事をしている人にとっては、普段の業務との関連性が高いものです。合格率の高さの理由には、こうした点があげられます。
社労士試験の内容と合格ライン
難易度の高い社労士試験の内容と、合格基準点についてみてみましょう。
社労士の試験内容
社労士は人事労務管理のエキスパートです。帳簿作成や申請書類の代行など、法律で決められた独占業務を行います。そのため、試験内容も90%が法令に関する出題です。社労士の試験内容は以下の10分野に渡ります。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
- 雇用保険法
- 労働保険徴収法
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
- 社会保険に関する一般常識
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
法令に関する出題のため、昨今の改正内容が反映されます。そのため過去問を説くだけではなく、最新情報を抑えたうえで勉強する必要があります。
試験は「選択式」と「択一式」のマークシート方式です。出題数が合計で110問あります。40問の選択式の試験時間が80分、70問の択一式の試験時間が210分となっており、解答するための知識と同時に、制限時間内にすべての問題を解くというスピードが求められます。
社労士の合格ライン
社労士試験の基本の合格ラインは、以下のように定められています。選択式、択一式の各科目の合格基準点を上回るとともに、合計した総得点の基準値を超えなくてはなりません。基本は、選択式で各科目3点以上(5点中)、かつ総得点が28点以上(40問中)であり、択一式で各科目4点以上(10点中)、かつ総得点が49点以上(70点中)です。
参考:社会保険労務士試験の合格基準の考え方について|厚生労働省
ただし、この合格ラインは毎年変動します。各科目の得点分布と総得点の平均点に連動して点数補正が行われるからです。
2021年度の第53回試験では、合格基準点は以下の通りになりました。選択式試験の「労働基準法に関する一般常識」と「国民年金法」の科目点、および選択式・択一式の総得点に補正が加えられています。
参考科目:第53回(令和3年度)社会保険労務士試験の合格基準について|厚生労働省
社労士合格までに必要な勉強時間
社労士試験の合格までに必要な勉強時間は、800〜1000時間といわれます。他の資格試験と比較しても、けして少ない勉強時間ではありません。
試験名 | 必要勉強時間 |
司法書士試験 | 3000時間 |
社労士試験 | 800~1000時間 |
行政書士試験 | 600時間 |
宅建試験 | 300~400時間 |
中小企業診断士試験 | 1000時間 |
たとえば、1年後の社労士試験合格を目標にしたとき、1日に約2.7時間の勉強時間が必要です。これは、365日休まず勉強したときのペースです。もし社会人で働きながら勉強するケースでは、1日にとれる勉強時間がもっと少なくなるかもしれません。家族がいれば、休日に思うような勉強時間が確保できないこともあるでしょう。
実際にスケジュールをたてる場合は、社労士を目指したタイミングから、毎年試験が実施される8月までの期間を踏まえて検討します。たとえば、3月に決意した場合、受験するのは翌年の8月。つまり、1年半の学習期間があります。その場合は週あたりのペースに比較的余裕が生まれますし、前半に主要な知識習得を目指し、後半で本格的な試験勉強に着手するというやり方もあります。
勉強には、独学でなく通信学校や専門学校を活用するのも一つの方法です。この場合、大きく変わるのは「勉強時間」でなく「受験までのスケジュール」と考えたほうがいいでしょう。
通信学校や専門学校は、受験のためのノウハウが充実しています。また受験までの期間にあわせて何をどう学習するべきかというテキストや問題集も揃っています。そのため、3月に目標を立て、その年に受験をしようと6カ月という短期集中コースにチャレンジすることも不可能ではありません。
一般的に言われる必要な勉強時間を基に、選択と集中を行い、1日や週にねん出可能な勉強時間をイメージしながら学習スケジュールを立てることが大切です。
社労士は独学でも合格可能?
社労士試験の勉強は、参考書も多く、独学で学ぶことは不可能ではありません。ただし、学習の習慣づけや、効率的に学ぶという点では、難しさがあります。
可能だが難易度は高い
独学が難しいといわれる理由の一つが、「勉強時間の捻出」です。学生や社会人は、他にやるべきことがあるため、「今日は勉強はいいや」とさぼってしまうこともあるでしょう。
そうならないためには、きちんとスケジューリングをしたり、勉強しやすい場所を整えたりといった強い意志と工夫が求められます。
また、「効率的な学習方法」へのノウハウが少ないというのも独学の難しさです。社会に出て人事労務の仕事を経験し、社労士を目指すといったケースの場合、まず躓くのは「何から手を付けたらいいのか」という点です。巷にはたくさんの参考書がありますが、どの本を手に取ればいいのかと悩んでしまうのです。
通信学校や専門学校の利用も検討
勉強のやり方やモチベーションの維持に不安がある人は、通信学校や専門学校の利用を検討してみましょう。社労士試験の合格を目指す人のために、勉強期間を考慮した学習プランが確立しており、初心者もスムーズに勉強を継続することができます。
近年は、オンラインを利用した通信講座を手軽に受けられるようになりました。自身の生活スタイルに適した学習方法を検討してみるといいでしょう。
社労士になった後のキャリアや年収
晴れて社労士試験に合格したあとは、全国社会保険労務士会連合会に名簿登録を行い、勤務地または居住地(開業した事務所の所在地)の都道府県社会保険労務士会に登録します。登録料、入会費を納め、年会費を払うことで社労士として仕事ができます。
社労士として活躍する場は、独立開業して事務所を構えるほか、社労士事務所に勤務するキャリアが一般的です。また、社労士資格を持ちつつ、企業の人事として働く方法もあります。
ただし、雇用されて働く社労士の割合は20%前後といわれています。多くの人が独立開業を目指し、事業に成功すれば高い年収も期待できます。社労士の平均年収は500万円~900万円ほどといわれます。独立して働く場合、1000万円を超えるケースもあります。
営業力や提案力を持ち、他社との競争で優位に立てる経営センスを持っている人であれば、年収を上げながらキャリアを積むこともできるでしょう。
社労士の難易度に関するまとめ
社労士になるには、6%〜7%の合格率の社労士試験を突破しなければなりません。他の資格試験と比較しても、簡単とはいいがたい難関資格です。社労士試験の合格を目指す場合は、必要な勉強時間といわれる800〜1000時間を踏まえた上で、効率的な学習スケジュールを立てる必要があります。
とくに、学生や社会人など本業があるケースでは、勉強時間を確保するのが難しいと感じるかもしれません。その場合は、通信講座などの学習ノウハウを活用するのも一つの方法です。