福利厚生とは何かわかりやすく解説!種類や導入メリットも簡単に紹介

制度設計

従業員の満足度向上や、ブランディング強化の一環として、新しい福利厚生の導入や既存の制度を見直そうとしている経営者や人事担当者は多いのではないでしょうか。

福利厚生と一口に言っても、手当としてお金を支払うものもあれば、レクリエーションの実施や社員食堂の提供する方法など、施策の種類はさまざまです。せっかく福利厚生を設けても、利用されなかったり従業員のニーズを満たしていなかったりすると、かえって損失を生むリスクを高めるので、正しい理解が必要です。

本記事では福利厚生の目的や種類など概要をお伝えしつつ、福利厚生を導入するメリット・デメリットをご紹介します。効果的に制度を導入するためにも、経営者と人事担当者は福利厚生の基本的な知識を理解しましょう。

福利厚生とは

福利厚生とは、「従業員とその家族の生活向上などを目的に、企業が提供する施策・サービス」のことです。近年では、独自の福利厚生を設けて注目を集める企業も増えています。なぜ企業は費用と時間を投じて、福利厚生を充実させるのでしょうか。まずは、福利厚生の目的や対象者をみていきましょう。

福利厚生の必要性や目的

福利厚生の目的は、従業員や家族の生活を豊かにし、健康的に暮らせるよう支援することです。終身雇用制度が崩壊の一途をたどり、人材の流動化や労働力人口の減少により、企業の人手不足は深刻化しています。

また働き方改革などの影響で、仕事に対する価値観が変わり、多様性に富んだ働き方が重視されるようになりました。社会情勢の変化により優秀な人材を確保し、定着させるために福利厚生の必要性が高まっているのです。

福利厚生の対象者

福利厚生は、従業員とその家族、派遣社員やパートなどの非正規雇用の従業員が対象です。正社員と非正規社員の間で、利用できる福利厚生に差を設けている企業もありますが、合理的な理由のない待遇差は「パートタイム・有期雇用労働法」で禁止されています。

福利厚生の種類

福利厚生は、法定福利厚生と法定外福利厚生の2種類です。ここからは、法定福利厚生と法定外福利厚生の概要や具体的な項目について、解説します。

法定福利厚生とは

法定福利厚生とは、「法律によりすべての企業に実施が義務付けられている福利厚生」を指します。代表的な法定福利厚生は次の6種類です。

  • 健康保険料:保険料の半分を企業が負担

従業員とその家族が、怪我、病気、出産、死亡したときに、生活の安定を図るために給付や手当金を支給する社会保険制度の1つです。

  • 介護保険料:保険料の半分を企業が負担

介護が必要な人に、費用の一部を給付するなど支援を行う制度を言います。介護保険の加入年齢は40歳です。

  • 厚生年金保険料:保険料の企業を会社が負担

厚生年金保険の加入者が加齢、障害、死亡により働けなくなったときに、本人や家族に対し保険給付を実施する制度を指します。

  • 雇用保険料:原則3分の2を企業が負担

従業員の「生活の安定と就職促進」を目的とし、従業員が失業、教育訓練を受けるとき、育児休業や介護休業を取得する際に手当を給付する保険です。

  • 労災保険料:企業が全額負担

仕事中に業務が原因で怪我や病気、死亡したときに、従業員や家族の生活を補償するために給付を行う公的保険制度です。また、通勤中の事故についても、要件を満たしていれば通勤災害として補償を受けられます。

  • 子ども・子育て拠出金:企業が全額負担

以前は児童手当拠出金と呼ばれており、国や自治体が行う子育て支援の施策に充てるための税金です。

法定外福利厚生とは

法定外福利厚生とは、「企業が独自に設けた福利厚生制度」を指し、実施は任意です。つまり、法定外福利厚生を導入していなくても、法律上は問題ありません。次の章で、一般的な法定外福利厚生の詳細について解説します。

法定外福利厚生の主な提供内容と導入費用目安

法定外福利厚生のジャンルは大きく分けて、以下の通りです。

  • 通勤
  • 住宅
  • 健康・医療
  • 育児・介護支援
  • 慶弔・災害
  • 自己啓発
  • 文化・体育・レクリエーション
  • 財産形成

どのような法定外福利厚生を行うかは企業の自由となっています。ここからは、上記8つの法定外福利厚生の概要と、導入費用の目安を確認していきましょう。

※なお、ここから紹介する実際の費用目安は全て「​​福利厚生費調査結果報告2019年度」を参考にしています。

通勤関連

いわゆる通勤手当は法定外福利厚生に該当し、会社に支給義務はありません。通勤手当として、定期券代や通勤距離に応じた手当(ガソリン代など)を支給するケースが多いです。

古いデータですが、2014年に労働政策研究・研修機構の「企業の諸手当等の人事処遇制度に関する調査」によると、民間企業2万社のうち、常用雇用の従業員向けに通勤手当制度を設けている企業は全体の84.6%でした。このことからも、ほとんどの企業が福利厚生の一環として、通勤手当制度を設けていることが分かります。

一般社団法人日本経済団体連合会の「福利厚生費調査結果報告2019年度」によると、従業員に支給する1か月あたりの通勤手当額は8,699円でした。

なお通勤距離や通勤手段によって課税区分が異なり、非課税限度額分を通勤手当として支給するのが一般的です。

住宅関連

従業員が住む家に関する福利厚生で、家賃の補助や住居の貸し出しなどを行います。家賃は生活費の中でも大きな割合を占める固定費の1つです。

  • 借り上げ社宅の提供
  • 住宅ローン補助
  • 住宅手当(家賃補助)の支給
  • 持家援助

こちらは従業員1人に対し、企業が負担している住宅関連の福利厚生費は1か月あたり11,639円となっています。導入目安は1人につき月額10,000~20,000円ほどみておくと良いでしょう。

健康・医療関連

健康を維持することは、休職や退職のリスクを減らし、仕事とプライベートを充実させるのに役立ちます。健康増進や体調管理のサポートとして、代表的な福利厚生をみていきましょう。

  • 人間ドックの費用補助
  • インフルエンザの予防接種の費用補助
  • 医療施設の設置
  • スポーツジムの費用補助
  • 運動インセンティブの付与

福利厚生として認定されるためには、国税庁の定める要件を満たしていなければなりません。詳細は国税庁のサイトにて確認してください。同じ調査によると従業員1人あたりの「医療・健康」に関する福利厚生費は月額で3,187円でした。導入費用は定期健診代として10,000円が目安です。

育児・介護支援関連

人手不足が社会問題となりつつある近年では、育児や介護をしながら仕事が続けられる環境作りは、従業員を確保するための課題と言えるでしょう。代表的な福利厚生として、以下のようなものが挙げられます。

  • 社内託児所の設置
  • ベビーシッター費の補助
  • 認可外保育園の費用補助

同じ調査によると育児関連の法定外福利費は428円、介護は27円となっていました。導入費用の目安は、1人あたり月額500円ほどです。

慶弔・災害関連

入院や結婚などイレギュラーな出来事が起こったときは、何かと出費がかさみます。「慶弔見舞金」を支給し従業員の金銭的な負担を軽減できれば、従業員満足度を高められるでしょう。

  • 結婚祝い金
  • 出産祝い金
  • 見舞金
  • 香典
  • 弔慰金
  • 花輪
  • 災害見舞金
  • 就任・昇進祝い金

同調査によると法定外福利厚生費は1人につき516円です。ただし月額換算なので、導入目安として、1回につき10,000〜50,000円を想定しておきましょう。

自己啓発

業務に関連する能力だけではなく、仕事に直結しない自己研鑽をサポートする企業も出てきました。海外研修や他社との交流会を実施する他にも、下記に挙げる福利厚生があります。

  • 資格取得に要する費用や学費の補助
  • eラーニングの提供
  • 書籍代の補助
  • レッスン費の補助
  • セミナー・講演会の開催

厚生労働省が行った令和元年度「能力開発基本調査」で、企業が自己啓発支援として支出した費用の平均は従業員1人につき3,000円でした。

文化・体育・レクリエーション

従業員同士が活発なコミュニケーションを取ることでチームワークが強化され、円滑な業務遂行に役立ちます。

  • 社員旅行
  • ランチ・飲み会の費用補助
  • 運動会の開催
  • 懇親会の費用補助
  • 宿泊施設の提供や利用料の割引
  • 部活動費の補助
  • マッサージルームの設置費用

部活動の補助としては、ユニフォーム代の支給、グラウンドや体育館などの施設利用費の補助などが挙げられます。「福利厚生費調査結果報告2019年度」で、企業が負担した「文化・体育・レクリエーション」の費用は従業員1人あたり月額2,069 円です。どのような制度を導入するかにより金額は変動しますが、導入目安は月額で数千円前後ほどでしょう。

財産形成関連

従業員が退職してから安定した生活を営めるように、貯蓄の支援をします。近年、資産形成に対する関心は高まっており、財産形成の制度構築は自社の強みとなるでしょう。

  • 財形貯蓄制度
  • 社内預金制度
  • 持ち株制度
  • 確定拠出年金など個人年金の補助

こちらは同調査だと、財産形成の福利厚生費として、従業員1人に対し1,010円を負担しています。制度を導入するときは、月額1,500円前後を目安にしてください。

福利厚生を導入することで得られるメリット

オリジナルの福利厚生を取り入れることで、他社との差別化や従業員のリフレッシュにつながります。福利厚生を導入する具体的なメリットを5つ、確認していきましょう。

従業員満足度の向上

就活や転職のときに、給与に加えて福利厚生をチェックしている人は少なくありません。福利厚生で快適に働くことができれば、企業に対する満足度は上がり、企業に貢献したいという意欲の醸成につながります。

採用力の向上

福利厚生の質の高さは、「働きやすい環境が整っている」ことを意味します。優秀な人材を採用・自社に定着させるために、求める人材が好む福利厚生を導入しアピールすることで、採用活動を効果的に進めやすくなるでしょう。

生産性の向上

リフレッシュや健康管理などの施策を講じて、心身の健康を保つことは、業務の質を向上させるのに役立ちます。疲れが溜まった状態で仕事を行っても、業務の効率が落ちるでしょう。前述した通り、従業員満足度が上がるため、仕事への意欲の高まりが生産性の向上を促します。

企業の信頼性の向上

福利厚生が整っていることは「働きやすく、従業員を大切にしている会社」という証明になります。従来は仕事の成果や顧客満足度などを重んじ、従業員の福利厚生に取り組む企業は多くありませんでした。

しかし、働き方改革や従業員が持つ仕事の価値観が変化したことで、福利厚生に注力する企業が増加しています。多彩な福利厚生の提供には、経営基盤の安定が必要不可欠です。福利厚生の充実は、従業員を大切にし、経営が安定しているという社会的な信頼につながります。

法人税の節約

福利厚生の費用は要件を満たせば経費として計上可能になるので、法人税を抑える効果が期待できます。要件は主に「全ての従業員を対象にしていること」「労働に対する対価(賃金)でないこと」「社会通念上、妥当な金額であること」の3つです。金額の詳細は、国税庁のホームページで確認してください。

福利厚生を導入するデメリット

独自の福利厚生を設ければ、他社との差別化になり、採用活動でアピールしたり従業員満足度を上げたりする効果が期待できます。その一方で、コスト面での負担増加などのデメリットも考慮しなくてはなりません。次に、新しい福利厚生を実施する上で発生する3つのデメリットを確認していきましょう。

費用負担が大きい

制度の導入と運用には、時間や資金、労力などのコストが必要です。潤沢な資金がない企業は、独自の法定外福利厚生を充実させるのは難しいかもしれません。福利厚生は導入そのものよりも、維持していく費用が大きくなります。後々の負担と費用対効果を考え、導入にあたっては慎重に検討しましょう。

管理負担がかかる

一般的に福利厚生の施策を検討、導入する部署は人事や総務部です。企画や運営、管理に膨大な工数が発生し、業務の負担が増大します。人員が少ない企業では、リソースが確保できず、福利厚生の充実化が進まないケースもあるでしょう。

全ての従業員ニーズに答えるのは難しい

企業には、さまざまなライフスタイルや趣味嗜好を持つ従業員が集まっています。そのため、全従業員の要望を完璧に満たす制度の構築は容易ではありません。

アウトドア用の施設を設置したり、運動会を開催しても、インドアの従業員には喜ばれないことも考えられます。独自の福利厚生を設けるときは、内容が偏って利用者が限定されないよう、配慮しましょう。

福利厚生を効果的に導入するには?

福利厚生を上手く活用できれば、最小限のコストで大きなメリットを得られます。どのように導入すれば良いか、効果的な2つの方法をご紹介します。

自社で導入・運用する

自社で導入しやすい福利厚生は、通勤手当、住宅手当、家賃補助、家族手当、慶弔見舞金などです。これらは支給する対象者、条件、金額を明確に定めておけば、複雑な制度設計をしなくても比較的容易に導入できます。導入の際は、目的を決め、従業員にヒアリングをしましょう。

自社で導入・運用するメリットは、代行業者に払う資金を抑えられる点です。規模の大きい会社であれば、共済会を設立し、充実した福利厚生の提供も可能です。

外部サービスを利用する

2つ目の方法は、外部サービスを使って「カフェテリアプラン」や「パッケージプラン」などを導入するやり方です。

外部サービスを利用することで、自社では行えないような質の高いサービスを簡単に提供できます。また、選べるメニューも豊富でスピーディーに導入できる点も外部サービスを利用する魅力の1つです。

ただし、従業員が福利厚生サービスを利用しなくても一定の月額コストが発生する点や、サービス内容を吟味しないと従業員のニーズを満たせないこともあるので注意しましょう。

代表的な代行サービスとして、以下の2つをご紹介します。

株式会社リロクラブが提供するサービスで、14,800社が導入しています。カフェテリアプラン、ポイント型インセンティブ、育児支援サービスなど多彩な福利厚生プランを用意しており、健康支援や資産形成支援サービスも行っている企業です。

福利厚生に加えて定額制の教育研修支援やワクチン接種運営代行など、企業のサポートを行っている企業です。

企業における福利厚生の導入事例

最後に、独自の福利厚生を導入している企業の例を3つ紹介しましょう。

1つ目は株式会社バンダイの「出産子育て支援金制度」です。バンダイでは第一子・第二子が誕生したら30万円、第三子では300万円の祝い金が支給されます。また男性社員が子育てしやすい「妻出産休暇」や保育所の誘致などを行い、独自の方法でライフサポートをしている企業です。

次に、Chatwork株式会社の福利厚生をご紹介します。Chatworkではワークライフバランスや交流支援、スキルアップなどの福利厚生を運用しています。たとえば、実家へ帰省する費用として1回につき14,000円を支給する「ゴーホーム制度」や、従業員同士の親睦を深めるために飲み会代として1回4,000円を支給する制度があります。

3つ目に取り上げるのは、結婚に関する口コミサイトを運営している株式会社ウエディングパークの事例です。ウエディングパークは家賃補助として勤続5年以上の従業員に5万円を支払う「どこでも5」や、毎月の歩数に応じてインセンティブを付与する「歩いてQ」などを実施しています。

福利厚生に関するまとめ

福利厚生の導入により、従業員満足度の向上や、採用力の強化、生産性アップといったメリットが得られます。その一方で費用や管理コストの増大は避けられないため、資金や人員などのリソース状況次第では、福利厚生の充実化が困難な企業もあるでしょう。

制度を導入しても利用率が低かったり、ニーズを満たしていなかったりすると、従業員から不満が生じ、費用対効果も得られません。自社の体力や従業員の要望を聞き、導入可能か慎重に検討することが重要です。