専門職であり、企業の根幹である「人」と対峙する人事職は、未経験からのチャレンジは難しいイメージを抱かれがちです。
しかしながら、業界や求人内容によっては、未経験からの転職を歓迎しているものもあります。未経験から人事への転職を成功させるには、人事の仕事への理解を深め、自らのスキルや経験と関連させながらアピールすることが重要です。
この記事では、未経験から人事の転職を考えている人向けに、転職を成功させるコツや役立つ資格、参考になる志望動機例を紹介します。
Contents
未経験から人事への転職は可能?
結論からいえば、未経験から人事の転職は可能です。ただし、求人によっては人事の経験が求められるものもあり、応募前に仕事内容をしっかりと確認する必要があります。
人事未経験者を歓迎している求人には、以下のような傾向があります。
- 事業会社の人事経験ではなく、人事コンサルタントとしての幅広い経験を必要としている
- 営業や販売といった現場経験を活かした人事業務を想定
- コミュニケーション能力など人事経験以外のスキルを重視
それぞれの傾向について、簡単に紹介していきます。
人事コンサルタントの業務経験を求めている
人事コンサルタントのように、企業の人事をクライアントとする仕事は、幅広い業界の採用・人事労務事情に精通している為、企業の人事担当として求められる可能性があります。
また、人事システムや求人広告のような人事業務で必要とされるサービスについての知識もあるため、企業内人事として制度の見直しや新システムの導入の際に活かせる経歴と言えます。
営業や販売の現場の業務経験を求めている
営業や販売のように、人事とはまったく関連のない経験を持つ人を採用する企業では、その企業の事業や現場を知る人を欲しがっていると考えられます。
現場の従業員が活躍できるよう、職場環境を整えるには、各職種の仕事内容やサービスの仕組みへの理解が不可欠です。人事業務が未経験でも、関連する事業を行う会社の人事求人に応募する際には、前職での現場の経験がアピールポイントとなるでしょう。
コミュニケーション能力などのスキルを求めている
人事の仕事は、部署や立場を超えた従業員とのやりとりが発生します。従業員が何を必要としているのかを汲み取り、会社の方向性に合わせ職場環境や制度を整えるのが人事の役割です。
そのため、人事が未経験であっても、コミュニケーションスキルや交渉能力を買われ採用される可能性があります。
知っておくべき人事の転職事情
昨今の人事の転職市場は、求人数が増加する見込みです。以下に、人事の転職事情について解説します。
人事の求人数は増加傾向
厚生労働省の発表によれば、令和4年9月の就職市場全体の有効求人倍率は1.34倍と、前月に比べて0.02ポイント上昇しました。コロナ禍で一時期求人倍率が落ち込んだものの、就職市場全体としてはゆっくりとした回復傾向にあります。
職種別で見ても、人事を含む企画・管理系の求人倍率も2021年5月以降は右肩上がりとなっています。
こうした動きを受け、各企業では人員強化の流れが見込まれます。採用を強化するためにも、人事の人員募集をかける企業があり、人事の求人数は全体として増加するでしょう。
また、IT通信・メディアといった有効求人倍率が高い業界では、ただ採用を強化するだけではなく、従業員の成果を最大化させるような戦略人事を行える人材を求めています。こうした企業では、従業員エンゲージメントの向上や、成果につながる人事制度構築ができる人事が求められます。
人事未経験から転職しやすい業界
採用市場ではエンジニアの需要が増加しており、エンジニアの実務経験がある人材や、転職エージェントの経験を持った人材は、人事業務経験自体は未経験でも人事として転職できる可能性が高いといえます。
また、スタートアップのような「企業理念」「ビジョン」を重視する企業の場合は、社風との相性が重視されます。企業が創出する価値に強く共感するという点で、採用につながる可能性もあります。
ほかには、人事部が複数のメンバーで構成されている、中規模以上の企業でも人事未経験者の活躍の道が開かれているといえるでしょう。組織内の業務を複数で分担できるため、人事未経験者でも従事しやすい業務を担当できます。
人事の仕事についておさらい
人事の仕事といっても、担当する業務範囲は企業によって異なります。ここでは、一般的な人事の仕事内容とやりがい、年収について解説します。
人事の仕事内容
人事の仕事内容は、以下のものがあります。組織の人事労務領域をカバーしており、採用・育成・労務管理・人事評価制度など幅広い業務が含まれます。
- 採用
- 育成
- 人事評価
- 労務管理
- 人事制度
- 人事戦略
それぞれの仕事内容によって求められる知識や経験・スキルが異なるため、未経験から人事に応募する際には求人に記載されている仕事内容を確認することが大切です。
人事のやりがい
人事の大きなやりがいといえるのが、従業員のサポートです。個々の従業員が働きやすいよう、労務管理や就業規則などの環境を整えたり、持っているスキルを発揮できるよう配属や育成に力を入れたり、さまざまな場面で人事は組織を裏方から支えます。
経験やスキル、専門的な知識を活かし、従業員はもちろんのこと、組織の成果を最大化させるために貢献できるのが人事の魅力です。
人事の年収
人事の平均年収をみると、400万円台〜500万円台というのが一般的です。 平均年収478万円というデータ もあり、経験や年数によって年収アップが可能な職種と位置づけられています。
また、人事のなかでも、組織の評価制度の構築といった戦略人事の仕事を任されるポジションでは、より高い年収が見込めます。
人事への転職に向いている人の特徴・資質
仕事には向き不向きがあります。人事の仕事に挑戦する際に、自身の適性について考えてみましょう。
コミュニケーション力がある
組織のさまざまな人と関わる人事の仕事は、コミュニケーションスキルが不可欠です。わかりやすく説明する力や、他者の要望を汲み取る力などが求められます。
また、人事の仕事は、制度改革や賃金交渉など、ときに精神力が必要とされるタフな交渉を任されることもあります。関係者の要望をすり合わせながら、お互いに納得できるようなコミュニケーション力が必要です。
秘密主義である
人事の仕事は、さまざまな個人情報を扱います。家族構成や経歴のほか、休職理由など従業員のプライベートの情報に関与する立場にあります。業務上知り得た個人情報を、本人の許可なく第三者に話すことは許されません。
会社の機密情報の漏洩は大きなトラブルに発展する可能性があるため、秘密を厳守できることは人事にとって必要な資質です。
冷静な判断ができる
人と関わる仕事であることから、ときには個別の従業員との関係性を深めることもあるでしょう。
しかしながら、従業員を管理し働きやすい環境を整えるのが人事の仕事であるため、「好き・嫌い」のような感情で対応が分かれるようなことはあってはなりません。情に流されず、公平・平等を保って接することができるような、冷静な判断力が必要です。
調整力がある
関係部署との調整を図るのも人事の重要な仕事です。新しい制度を導入したり、システムを導入したりするときなど、こうした調整力が求められます。
なぜ制度を変えるのかという目的をかみ砕き、関係者の不安や疑問を解消しなければいけません。経営陣の方針に沿い、戦略を実現させる調整力が求められます。
未経験から人事へ転職する際に役立つ資格
未経験から人事へ転職する際に、特定の資格は求められません。しかしながら、関連する以下のような資格を取得していると、応募の際のアピールポイントとなります。
キャリアコンサルタント試験
キャリアコンサルタント試験とは、キャリアコンサルタントと名乗るための国家資格です。労働者の職業選択やキャリアへの助言を行うことを目的としており、コンサルティングを通じて能力や適性への気づきを労働者に与えます。従業員のキャリア開発や育成、教育・研修などに活かせる資格といえます。
メンタルヘルス・マネジメント検定
メンタルヘルス・マネジメント検定は、大阪商工会議所が実施する産業資格です。近年では、仕事でメンタルヘルスに不調を抱える人の割合が増えており、自社の従業員の健康を保つのも人事の重要な役割となります。心の健康管理を行ううえで、必要となる知識を身に着けられる資格です。
人事総務検定
人事総務検定とは、人事総務部で求められる知識や実務能力に関する民間資格です。人事の仕事について体系的に学べる資格であり、人事総務職でのキャリアアップを図ることができます。
未経験から人事への転職を成功させる5つのコツ
未経験から人事への転職を成功させるコツは以下の5つになります。
- 1.人事を目指す理由を固める
- 2.志望動機を明確にする
- 3.人事の仕事内容や志望する会社への理解を深める
- 4.自分の強みをアピールする
- 5.人事に強い転職エージェントを利用する
1.人事を目指す理由を固める
なぜ人事の仕事を目指すのか、自身のなかにある理由を言語化しましょう。「組織の成長に貢献したい」「従業員の働きやすい環境づくりにやりがいを感じる」など、人事の仕事の面白さに注目して考えるといいでしょう。
2.志望動機を明確にする
次に、志望動機を明確にしましょう。志望動機とは、人事の仕事を目指す理由とは別に、応募する会社について魅力的に感じる部分や惹かれているポイントを説明したものです。
「なぜ弊社を選んだのですか?」という質問への回答になります。自身の経歴や興味を絡めつつ、貢献できるポイントにも触れましょう。
3.人事の仕事内容や志望する会社への理解を深める
応募する会社の事業や人事として求められる仕事内容について、理解を深めましょう。ウェブサイトと求人に掲載されている情報はもちろんのこと、人事の責任者や経営者のインタビュー記事を探してみるのもいいでしょう。
会社の方針や大事にしているポイントへの理解が深まり、就職先とのミスマッチを減らすことができます。
4.自分の強みをアピールする
未経験から人事を志望するにあたり、自身の強みを言語化しましょう。経歴やスキルを棚卸し、応募する求人の仕事内容を参考に、活かせるポイントを明確にします。アピールポイントに迷う場合には、「人事に必要なスキル・資質」の点から考えてみると、活かせる強みがまとまります。
5.人事に強い転職エージェントを利用する
転職には、転職サイトを利用する方法と転職エージェントを利用する方法があります。未経験から人事を目指す場合には、転職エージェントを利用するのがおすすめです。転職エージェントは扱う求人内容に精通しているため、「未経験可」と明確になっている求人だけではなく、応募者の経歴やスキルに合わせてマッチングする可能性の高い求人を紹介してくれます。
ほかにも、以下のようなメリットがあります。
- 要望に合う求人を紹介してもらえる
- 表には出ていない非公開求人が豊富にある
- 履歴書などの添削や、面接対策も依頼可能
- 企業側と面接日程の交渉を任せられる
- 給与面の調整でもエージェントが間に入ってくれる
また転職エージェントで働く人々のなかには人事出身の人もいます。未経験から人事を目指す上で、参考となるアドバイスをもらえるでしょう。
未経験から人事に転職する際の志望動機を作成するポイントや例
未経験から人事の転職を成功させるには、志望動機で「なぜ人事を目指すのか」「どんな部分に貢献できるのか」を明確にすることが大切です。以下に、志望動機を作成する上でのポイントと参考例を紹介します。
志望動機を作成する際に抑えるポイント
志望動機では以下の内容を抑えましょう。
- 人事の仕事で魅力に感じる部分
- 応募先企業の方針や戦略で共感する部分
- 人事の仕事の重要性への言及
まず必要なのが、人事の仕事の何に魅力を感じているかの記述です。過去の経験を交えながら具体的に記述しましょう。この部分が志望動機に含まれていることで、人事の仕事を正しく理解し、適性を有していることが面接官に伝わります。
また、応募先企業の経営戦略やビジョンへの共感も忘れてはいけません。人事は企業の「顔」となる立場にあります。そのため、組織や社風へのマッチング度合いも重要な選考基準となります。リサーチをする上で、その会社独自の制度や人事戦略に魅力を感じた場合には、忘れずに記載しておきましょう。
最後に、人事の仕事の重要性に触れましょう。人事の仕事が組織成長において、重要な役割を担っていることへの理解が伝われば、選考で評価されるでしょう。
参考になる志望動機例
人事未経験者のケースで、理想的な志望動機の例をご紹介します。
人事未経験者の志望動機:営業職の例
私は、食品メーカーの営業として3年間働いてきました。その間、過重業務でメンタル不調を抱え3カ月ほど休職を経験しました。その際、人事の方が必要な手続きを担当してくれたほか、産業医の紹介や復職のサポートなどを行ってくれました。とくに復帰にあたっては、こちらの体調を考慮しつつ、私の「働きたい」という想いを尊重してくれたのが嬉しかったです。休職から復職の経験を通じ、組織を支える役割の重要性を知りました。私も人事として、誰かの働く気持ちをサポートできればと思い、このたび人事の仕事に応募しました。
人事未経験者の志望動機:広告営業の例
人事に応募したのは、これまで培ってきた広告営業の経験を活かせると思ったからです。私は求人広告営業として4年間働いてきました。そのなかで、単純に広告枠を売るのではなく、人材を必要とする企業の要件を明確にし、応募者に届くような打ち出し方の提案を行ってきました。この経験は、御社が展開する採用手法を強化する上で貢献できると確信しています。
人事未経験者の志望動機:エンジニアの例
私はこれまで8年間、フロントサイドエンジニアとして働いてきました。リーダーとして部下のマネジメントに関わるなかで、人事と協力し研修体制を整えたり、従業員が定着するような評価制度の見直しにも関わりました。その中で気づいたのは、マネジメントの方法一つで部下の成果が変わるという点です。エンジニアとしての実務経験やスキルを活かしながら、御社のIT部門の人材強化と育成に力になれると思い、この度志望いたしました。
未経験から人事へ転職する際の流れ
未経験から人事へ転職する際の全体の流れを把握しておきましょう。大まかな流れは以下になります。
- 自己分析・情報収集
- 応募・書類選考
- 面接対策
- 面接
- 内定・転職
それぞれ概要を簡単に解説していきます。
自己分析・情報収集
まずは自己分析と情報収集からはじめます。自己分析では、自分の強みを整理するのに役立ちます。情報収集で得た企業情報と合わせて、アピールポイントを言語化できます。
応募・書類選考
気になる求人に応募します。応募の方法は、転職サイトの利用や転職エージェントに依頼するほか、企業ウェブサイトから応募する方法があります。応募の際は、先方の掲示する応募書類がすべて揃っているかを確認しましょう。書類選考に通過した場合、先方から面接日程の連絡があります。
複数企業に平行して応募する場合には、応募した企業名や求人内容を整理しておきましょう。
面接対策
面接前に、可能な限り面接対策を行いましょう。面接で聞かれる一般的な質問への答えをまとめるほか、応募する企業ごとに、志望動機を整理します。転職エージェントを利用する際は、企業ごとに面接対策に応じてもらえます。疑問点などがあれば、面接前にエージェントに確認できます。
面接
面接では、1次面接は人事、最終面接は経営陣というのが一般的です。面接回数は会社によって異なります。
内定・転職
内定後、年収や勤務条件などが記載された内定承諾書が交付されます。もし入社日程や年収面での調整が必要であれば、内定承諾前に交渉します。転職エージェントを利用している場合には、このタイミングで交渉を依頼できます。
転職開始から内定まで、順調にいっても2カ月〜3カ月はかかると見ておくといいでしょう。現職の有給消化や退職のタイミングも考慮しながら、転職時期の見当をつけましょう。
人事のキャリアパス
人事としてキャリアを積む場合、複数の領域を経験しつつ、特定の業務についての専門性を磨くスタイルが一般的です。
たとえば、採用業務であれば、一般的な新卒採用・中途採用の実務からはじまり、エンジニアやマネジメント層といった難易度の高い採用に関わります。シニアレベルになると、経営陣の方針にあわせ年間の採用予算や戦略を立てるといった上流工程を任されます。
ほかにも、労務管理での経験を積み、法律面での専門的な知識を磨きながら、労務管理システムの刷新や労務管理制度の構築に携わるケースや、給与計算のスペシャリストとしてグループ会社の給与計算業務を担当するといったキャリアの磨き方など、さまざまなステップが考えられます。
採用、教育、評価制度、労務管理など、それぞれの領域で求められる資質やスキルは異なります。はじめは担当できる領域を広げつつ、自分に合った業務が見つかれば、特化したキャリアを磨くことができるでしょう。
未経験から人事への転職に関するまとめ
人事への転職は未経験からも可能です。その際、これまでの経験やスキルを活かし、人事の仕事に貢献できるポイントをまとめましょう。また、人事の仕事内容について理解を深めつつ、人事の仕事の重要性を具体的なエピソードを持って語れるようになると、仕事への情熱が伝わります。