現在、人事として仕事をしている人の中には、自分なら採用する側の立場を理解しているので、転職しやすいのではないかと思う人もいるのではないでしょうか。確かに、人事経験者は転職がしやすい傾向です。
ただし、転職を成功させるためにはポイントを押さえておかなければなりません。本記事では、人事経験者が転職しやすい理由と転職成功のためのポイントを解説します。
キャリアアップにつながるスキルも紹介するので、転職を考えている人事担当者の人はぜひ参考にしてみてください。
Contents
人事経験者は転職しやすい?
結論から言うと、人事経験者は転職しやすい職種です。ただ、人事と言ってもさまざまな業務があります。従って、応募先が求める経験やスキルがなければ採用は難しくなるため、どのような経験があるかが重要です。
たとえば、入社して3年未満であれば、スカウトメールの送信や企業説明会の日程調整など補助的な仕事を任されるケースが一般的です。この程度の経験では人事経験があるとは理解されにくく、転職は厳しくなります。
勤務経験が5年以上で役職についている人など、人事の仕事内容も把握し採用に携わった経験があれば次の職場で生かしやすくなるため、経験者としてアピール可能です。
さらに、管理職など評価制度や採用計画、予算管理など部署の決定権を持つ人材は経営的な目線で人事の仕事をとらえることができるため、転職に有利になります。
単に、人事部に所属していた年数などではなく、どのような職務経験があるかを整理して自分の価値を認識することが必要です。
人事経験者が転職しやすい理由
人事経験者が転職しやすい理由は、人事業務を通じて得られるスキルはどの企業においても需要が高いからです。
そのため、業界や規模の大きさを問わず、人事の仕事は企業にとって必要不可欠なため、恒常的に募集されています。人事経験者が転職しやすい理由は以下のようなものです。
会社の成長に重要なスキルを保有しているから
企業が成長していく過程で人材の採用や人事教育、労務管理は必要になります。
たとえば、新規事業を始めるときや新店舗をオープンする場合などは人材募集が必要ですし、規模が大きくなれば制度の見直しもしなければなりません。
人事経験者はこのようなスキルがあることから活躍が期待されています。
- 採用に関わる業務
- 人事教育・研修
- 労務管理
- 就業規則や社内制度の管理
上記4つはどの企業においても必要な業務であるため、実務経験者ほど転職しやすくなります。
コミュニケーション能力が高いから
人事は社内の調整役として従業員と話をすることや、採用活動で応募者や求人メディアの担当者と話すなど、社内、社外を問わず人と話す機会が多い職種です。
特に、社内の調整などは事前の根回しが必要な場面も多く、自然にコミュニケーションスキルが身に付きます。
採用活動に関しても、慣れてくると相手にわかりやすく話す力やヒアリング力が必要です。
このようなコミュニケーションスキルは、誰もが身につけているわけではないため、転職において大きな強みとなります。
法務知識を保有しているから
人事は就業規則など、会社の規定を作る部署でもあります。そのためには日頃から法改正や採用に関わる制度などに敏感でなければなりません。企業にとってコンプライアンスは重要なので、人事のような管理部門の人材は法務知識が必須と言ってもよいでしょう。
たとえば、最低賃金や労働基準法の改正などがあった際には、迅速に就業規則の見直しが必要になる場合があります。このような業務は、法務知識がある人材しか対応できないため、法務知識がある人事経験者は企業から必要とされているのです。
人事経験を活かした転職の方向性
人事経験者が転職を考える際には、大きく2つの方向性で考えるとよいでしょう。ひとつは人事担当として他企業へ転職する方法、もうひとつは経験を活かして他の職業へ転職する方法です。
どちらを選択するかは、自身の今後のキャリアプランによって決めるとよいでしょう。それぞれの例を紹介します。
人事経験を活かしたスライド転職
人事の仕事は企業の大きさによってスキルやスケールが異なります。
たとえば、現在、中小企業に勤めているが大企業の人事を経験して人事としての専門性を高めたい人などは、これまでの経験を生かすとよいでしょう。
また、現在の会社では、決定権や業務範囲が少ないなどの不満がある人にとっても、別の企業へ人事として転職することでスキルアップが可能です。人事の採用は経験が必須条件になっていることも多いため、即戦力として活躍できる可能性があります。
他職種へのチャレンジ転職
人事の仕事を継続せず、人事経験を活かして他職種にキャリアチェンジする人も多くいます。代表的な例としては、人事制度の構築や社内制度の改革経験などをもとに人事コンサルティング会社へ転職するなどです。
他にも、採用業務が得意な人であれば人材会社のキャリアコンサルタントや、求人サイトの運営会社などは経験が活かせるでしょう。
また、法務業務に精通している人なら、資格を取得して社会保険労務士やDCプランナーや年金アドバイザーとして独立する道もあります。
人事のキャリアパスをおさらい
人事は専門性が高い職種であるがゆえに、人事関連以外の職種では経験を活かしにくく、他職種への転職は難しい傾向があります。
そのため、専門性を高めながら人事のスペシャリストを目指すのか、人事以外の管理業務も幅広く経験し管理部門のスペシャリストを目指すかのどちらかです。
例としては、人事のスペシャリストは人事部長、管理部門のスペシャリストはバックオフィス全体を管理する管理本部長をイメージするとわかりやすいでしょう。将来的にチャレンジ転職するには、幅広い知識が身に付く管理部門のスペシャリストのほうが転職しやすい環境です。
また、中小企業では人事が採用から労務管理、制度構築まで担うことが多いため、中小企業へのスライド転職の場合は、広範囲で業務ができる人のほうが好まれます。人事のスペシャリストを目指す場合は、法務や人事制度の構築に特化すれば、将来的に転職を考えた際にも採用されやすい傾向です。
近年、働き方改革などをきっかけに人事制度を見直す企業が増えていますが、社内に人事制度がわかる人材は多くありません。従って、社会保険労務士などの専門知識がある人に依頼するケースが多い傾向です。
つまり、法務や人事制度に精通していれば人事経験者としての価値が高まり、スライド転職でもチャレンジ転職でも有利になります。法務や人事制度に自信がない人は、経験を積んで知識を蓄えれば転職の選択肢が広がるので、ぜひ身に付けましょう。
人事経験者が転職を成功させる為に考えたいポイント
人事経験者が転職する際は、経験だけではアピールになりません。重要なのは企業が必要としている職務ができる人材かどうかです。そのためにはポイントをおさえて企業を選ぶ必要があります。
成功するためのポイントは以下の3つです。
自身が従事してきた業務を考え方向性を決める
まず、自分は人事として何ができるのかを考える必要があります。具体的には、人事のメイン業務である採用、教育・研修、労務管理、人事制度のうちどれができるのかをまとめてみましょう。
何をメインで経験してきたかによって、進むべき方向とアピールすべきポイントが変わってきます。具体的な転職先の選び方や選考を突破する方法はこちらの記事で詳しく紹介していますので参考にしてください。
大手企業か中小企業か検討する
人事業務は企業の規模によっても担当範囲が異なります。
大企業は人数が多いこともあり、採用担当部署や教育担当部署などのように担当が細かく分けられているケースがほとんどです。多くの業務は経験できないかわりに、ひとつの部門に特化して深い知識が得られるメリットがあります。
一方、中小企業は人事業務全般を人事部として行っていることがほとんどのため、全般的な知識の習得が可能です。その分、特定業務のプロフェッショナルという点では大企業に劣ります。
従って、それぞれの特性を理解した上で選択することが重要です。特定業務のスペシャリストを目指すなら大企業、オールラウンダーを目指すなら中小企業を選ぶとよいでしょう。
大手企業の人事に転職するためのコツはこちらの記事で詳しく紹介していますので参考にしてください。
市場のニーズも調査しておく
人事の中でもニーズが高い業務とそうでない業務があります。
たとえば、近年であれば賃上げの動きや働き方改革へ対応するため、労務管理や人事制度の知識がある人材のニーズが増加しているなどです。
また、少子高齢化で労働人口が減少する中で、従業員の定着率向上を目的とした教育に力を入れている企業も多く、人事教育の経験がある人材も求められています。
このように、時世や企業によって求められる人材も変化するため、市場のニーズを把握しておくこともポイントです。転職サイトなどで求人を検索して、必要な経験やスキルを見ればニーズを把握できます。
人事経験者の転職でキャリアアップに繋がるスキルや経験
人事経験者が転職する際はスキルや経験によって大きな差別化が可能です。次に、キャリアアップにつながるスキルや経験を紹介します。
人事企画の構築実績
人事企画とは、経営側の視点で課題解決や経営方針、収益アップのための人員配置や組織の構築などを指します。管理職以上の役職者が任されることが多い業務で、どちらかというと組織作りの要素が多い仕事です。
組織改革を行う前と後で、業務の効率化や生産性の向上など、会社の成長に関する実績があれば強みになります。単に生産性が向上した事実をアピールするのではなく、実際の数値や具体的な改善策などを交えてアピールすると効果的です。
調整・交渉スキル
たとえば、採用活動では求職者はもちろん、配属先や求人媒体の営業担当者と調整や交渉を行う場面が多くあります。また、企業説明会などで自社の魅力を伝えることや、プレゼンすることもあるでしょう。
このような経験はどのような職種においても必要なスキルであり、経験があれば強みになります。苦労したことやどのようにして困難を乗り越え、結果はどうだったのかなどをアピールできるよう、これまでの経験をまとめておくとよいでしょう。
横断的な人事業務経験
転職する上においては、経験豊富な人のほうが価値は高くなります。採用業務に特化したスペシャリストよりも、採用業務と労務管理のスペシャリストのほうが重宝されるため、できるだけ多くの業務を経験して自分の価値を高めましょう。
マネジメント経験
人事に限らず転職においては、マネジメント経験があるとキャリアアップしやすくなります。特に人事においては、評価制度や人事考課の仕組みなどを構築する場面も出てくるため、部下の評価経験があれば大きな強みになるでしょう。
人事業務以外の管理部門の経験
中小企業やスタートアップ企業など、人数が多くない企業では人事以外の業務を兼任することも少なくありません。
そのため、総務や経理など他のバックオフィス業務の経験は強みになります。特に、人事と総務をひとつの部署で行っている企業は多く、中でも総務の経験は有利です。
人事は資格があると転職しやすい?
人事の仕事に資格は不要です。転職においては経験が重視されるため、資格保有者が必ずしも有利になるとは限りません。
しかし、資格は知識の証明になるためアピール材料になります。人事担当者向けの「人事総務検定」や「ビジネスキャリア検定」などは実務にも役立つので取得しておいても損はありません。
以下にそれぞれの資格を紹介します。
人事総務検定
人事総務検定は、一般社団法人人事総務スキルアップ検定協会が実施しており、人事総務の実務や法律知識を体系的かつ実践的に学べる検定です。1級〜3級まで3種類あります。
試験は年2回実施され、3級から段階ごとに受験しなければなりません。
種類 | 対象 | 内容 |
---|---|---|
1級 | 課長 | 人事・総務の業務を組織全体の視点から理解し、戦略的に遂行できるレベル人事総務の重要な手続きや、人事総務の予防的・戦略的知識の習得 |
2級 | 主任 | 人事・総務の業務を自己責任で遂行でき、他のスタッフを指導できるレベル実務対応能力や労務管理、就業規則などについて深く学習 |
3級 | 担当者 | 人事・総務の基本的な業務を理解し、実行できるレベル人事総務の重要な手続きや、人事総務の予防的・戦略的知識の習得 |
ビジネスキャリア検定
ビジネスキャリア検定とは、特定の職種に必要な専門知識のスキルがどれほど備わっているかを評価するための検定です。事務系職種(人事、総務、経理、営業等)向けの公的資格試験で、BASIC〜3級まで4種類あります。
試験は年1回で、どの級からでも受検が可能です。
種類 | 対象 | 内容 |
---|---|---|
1級 | 部長 | 企業全体の課題に対し、専門分野の知識や応用力を活用して資源を統合し、調整する能力の習得 |
2級 | 課長 | チームの中心メンバーとして創意工夫し、自主的な判断・改善・提案をしながら業務を遂行する能力の習得 |
3級 | 係長 | 担当者として上司の指示・助言を踏まえ、自ら問題意識を持ち業務を確実に遂行する能力の習得 |
BASIC | 新入社員 | 人事業務をこなすための基礎知識を身に付け、職場での円滑なコミュニケーションを図る能力の習得 |
まとめ
人事経験者はあらゆる企業の成長に必要な採用、教育・研修、労務管理、人事制度スキルを身に付けている人が多いため、転職しやすい職種です。特定分野の知識を深めて専門分野のスペシャリストとして転職する道や、これまでの経験を活かした人材関連の他職種へ転職する道など選択肢は豊富にあります。
ただし、経験値や保有スキルによって転職の難易度が異なる点は注意が必要です。経験が必ずしも転職に有利になるとは限らず、自分がどの分野をメインで経験してきたかを踏まえて、方向性を決めなければ成功することは難しいでしょう。
経験が浅い人は経験を積みながら、有効な資格を取得してスキルアップすることでさらに転職しやすくなります。まずは、本記事を参考に自分のスキルを整理して、強みを把握することが重要です。