HRBPとは?従来の人事と違いや役割、導入するメリットを紹介

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HRBP(HRビジネスパートナー)は比較的新しい人事用語であり、日本での認知度はあまり高くないのが現状です。そのためHRBPがどのようなポジションか分からず、導入に踏み切れない経営者や人事担当者も多いでしょう。正しく理解した上で導入をしないと中途半端になってしまい、HRBPの担当者が疲弊し失敗に終わるリスクが高いです。

今回は、HRBPを導入したい人に向け、HRBPの意味、4つの役割、従来の人事や労務との違いを解説します。

人事体制を見直し、攻めの人事を取り入れたい経営者や人事担当者の方はぜひ最後まで読んで導入のヒントに役立てて下さい。

HRBP(HRビジネスパートナー)とは?

HRBPとは人事機能の1つで、事業と人材の両面を経営者のパートナーとして支援するものです。メイン業務は事業のトラブルの解決ですが、他にも採用、研修、人事評価制度の設計といった仕事を行います。人事担当者を指す場合や人事コンサルタントを言うこともあり、定義は会社ごとで変わります。

HRBPが求められている背景

なぜ、従来の人事ではなくパートナーという立ち位置が求められるようになったのでしょうか?それには二つの背景があります。

一つは急速な社会環境の変化です。

新型コロナウイルスの登場や働き方改革によって、仕事の価値観をはじめとする社会環境は大きく変化しました。会社は急な変化に対応せねばならず、対応が遅れると事業の存続を脅かす危険性もあるでしょう。人事が常に先手を打ってトラブルへの対策を打ち出し、事業をサポートする必要性が出てきたため、HRBPに注目が集まっています。

二つ目は人材獲得競争の激化です。

デジタル化が進み、AI、ビッグデータ解析といったデジタル人材が求められる時代に突入しました。会社の人事は素早くDX(デジタルトランスフォーメーション)に適応し、自社が求める人材を他社よりも先に採用しなければなりません。従来の事務処理だけの人事機能では優秀な人材の確保が難しくなっています。そのため事業のトラブルや課題を解決し、事業をサポートするHRビジネスパートナーの機能が必要とされるようになりました。

戦略人事とは?

HRBPの役割を説明する前に、戦略人事とHRBPの関わりを確認していきましょう。戦略人事とは、「人を重要な経営資源と認識し、経営戦略に結び付けながら活用する人事」のことです。数年前から日本でも注目されるようになりましたが、アメリカではすでに多くの企業が認識している用語です。

少子化・高齢化により人手不足が深刻となる昨今、事業戦略を立てて成功を目指すために戦略人事の重要性が高まりました。そして、人事側から事業戦略を支援するHRBPに関心が集まっています。つまりHRBPの成功が、戦略人事の実現に大きな影響を及ぼすと言えるでしょう。

ウルリッチが提唱したHRBPモデルの4つの役割

HRBPは、デイビッド・ウルリッチ(ミシガン大学)が提唱したフレームワークとして有名です。 ウルリッチは著書である「MBAの人材戦略」の中でHRBPの4つの役割を定義しました。

1.戦略実現パートナー

1つ目は戦略を実現するパートナーとしての役割です。HRBPは経営者が立案した経営・事業戦略に沿って人事戦略を練り、組織を設計する責務を負います。つまり、事業戦略と人事戦略が上手く紐づくように工夫し、成功事例を部署や事業で情報共有できるよう「横のつながり」を強くする役割が該当します。

2.管理のエキスパート

人事制度などの労務に関わる取り組みの管理と運営も、HRBPの重要な役割の1つです。人財と組織をまとめ、業務効率化を図る部門として活動します。たとえば、経営者層や管理者層が確認できるように従業員が描くキャリア、能力、評価など個人の情報をデータに集約・整理して経営戦略の役に立つよう仕組み化する役割を担っています。

3.従業員のチャンピオン

従業員のチャンピオンとは、従業員の意欲向上を目的として、何をすべきか考え組織を設計することです。たとえば、メンタル、キャリア開発などを支援する範囲は多岐にわたります。HRBPとして人事担当者は従業員の声に耳を傾け、意見を拾い上げる力が求められるでしょう。

4.変革エージェント

4つ目は変革者としての役割です。戦略的に人事を行っていくために、自社の求める人材を育成し組織を変革します。従業員の意欲や組織の活力を引き出して人材育成するだけでなく、スカウトして新しい人材を獲得するのも、変革エージェントの役割です。

近年では3ピラーモデルという概念も

HRBPは3ピラーモデル(3つの柱)を構成する要素の1つでもあり、他にCoEとHRSSの3つで成り立ちます。CoEとは採用、能力開発、人事評価制度、研修など、各分野の専門家を1箇所に集約し、横断的な組織として活動することです。HRSSはHRシェアードサービスやHRオペレーションと呼ばれており、福利厚生や給与計算といった人事業務を担っています。

近年生まれた概念である3ピラーモデルは、デイビッド・ウルリッチが提唱したHRBPモデルの4つの役割が基になっています。

HRBPと従来の人事の違い

HRBPと人事、労務はよく似ていますが、役割や目的は大きく異なっています。それぞれの相違を理解した上で正しくHRBPを導入しましょう。

人事との違い

HRBPと人事の大きな違いは、コミットメントの有無です。HRBPは経営戦略を支援するパートナーのため、目標達成について一定の責任を要求されます。またHRBPが行う提案は業績アップを達成しなければならず、従業員をまとめるだけでは役割を果たしているとは言えません。HRBPは業績アップのために従業員が納得できないような提案をしつつも、必ずフォローに入って現場に寄り添う二面性が求められます。

労務との違い

HRBPと労務の違いは役割です。労務は、職場の環境を整備し、従業員が働きやすい職場を実現する役割を担っています。たとえば勤怠、給与、社会保険手続きといった面を管理して、生産性向上を図らなくてはなりません。HRBPも労務管理を行うことはありますが、経営戦略を達成する手段という点で、労務とは異なっています。

HRBPとCHROの違い

CHRO(Chief Human resource Officer)とは最高人事責任者のことです。HRBPは戦略的に事業の運営と現場の従業員をつなぐ人事の専門家を言います。

一方、CHROは経営者の立場であり人事機能の最高責任者、つまり「経営者レベルで人事を行う権限」を持つ人を指します。日本では取締役人事部長や執行役員人事部長と呼ばれることもあります。

HRBPの仕事内容や役割

ここからは、HRBPの持つ仕事内容と役割を3つに分け解説します。

経営課題や事業戦略に沿って人事戦略を立てける

戦略人事では人材マネジメントと経営目標の達成には強固につながっていると考えています。HRBPは、経営層のパートナーであり、組織を作るための戦略を立て、事業の成長と発展をサポートしなければなりません。そのため、どのような人材を活用すれば組織を強くできるのか見極め、会社の課題や目指すべき方向性を正しく理解する必要があります。

経営者層と現場のかけ橋

HRBPは、経営者のビジネスパートナーとして現場の従業員をつなぐ役割を持っています。掲げている経営目標を現場に落とし込み、人事戦略が正常に機能するように働きかけます。組織変革の際には、重要性を従業員が理解し足並みが揃うようにまとめることも、HRBPの仕事の1つです。

現場の意見を拾い上げ、経営者層に伝達する

たとえ経営目標と人事戦略を連動させても、現場の従業員の実情と乖離していれば実現させるのは困難です。たとえば大手企業であれば、各部門の重要人物と信頼関係を構築して、常に現場の意見を収集し、必要に応じて従業員代表として経営者層にリアルな声を伝える役割を担います。

HRBPになるために必要なスキル

HRBPには、俯瞰して経営戦略を理解し、現場の従業員と経営者層をつなぐコミュニケーション力などが必要です。HRBPの役割を果たすには、人事に関する知識や経験に加え、さまざまなスキルが求められるでしょう。本章では、HRBPになるために必要なスキルの内、特に重要なものを3つ取り上げました。

経営者としての目線やビジネス感覚

1つ目は経営者としてのスキルです。HRBPは経営者層と同じ目線で戦略を立案するため、社会情勢や最先端の情報をいち早くキャッチし、会社全体の状況を見渡す力が求められます。

また、経営者層のパートナーとして経営者たちの相談に乗ることもあるでしょう。競合の動向を把握し、自身の発言が経営に大きな影響を与えると理解した上で、ときに経営者に厳しい発言をしなければならないこともあります。

課題分析能力

会社の課題が何かを見つけ出し、どのような策を練るべきか分析をして解決方法を導くことが、人事戦略の立案には欠かせません。課題分析能力を習得するには、批判的思考(クリティカル・シンキング)といった思考法の学習が有効です。

コミュニケーション能力

HRBPは経営者層と従業員のかけ橋です。経営者たちのパートナーであると同時に、従業員と信頼関係を構築していくスキルが求められます。また組織改革の際は、社内で飛び交うリアルな声を聞きながら調整していかなくてはならないでしょう。経営者と現場それぞれと交渉するなど、高度なコミュニケーション能力を身に付ける必要があります。

HRBPの導入に向いている企業

HRBPは組織の力をアップさせてくれますが、導入が向いていない企業もあるため注意しましょう。ここからは、HRBPが適している企業の特徴を2つご紹介します。自社の企業風土を確かめた上で、導入を検討してください。

ワンマン経営ではない企業

人事戦略を立案し、経営者のパートナーという立ち位置なのがHRBPです。つまり経営者のあるべき姿勢として、パートナーであるHRBPの言葉を受け留めることが前提になります。ワンマン企業ではHRBPが意見を言っても耳を貸さず、HRBPの役割が果たせなくなるでしょう。HRBPの導入は、意見を傾聴してくれる企業が向いています。

もしワンマン企業であっても、経営者自身が戦略人事に熱心である場合、HRBPと協力関係を築ける可能性が高いです。経営者層の人たちが、HRBPを受容できる環境を整えられるのであれば、導入を検討してみましょう。

戦略人事への理解や知見がある企業

2つ目は、戦略人事の重要性を会社全体が理解している企業です。HRBPを導入し上手く機能させるには、組織が「戦略人事の知見を持っている」「戦略人事に理解がある」ことが求められます。

たとえ導入しても、戦略人事への理解がなければHRBPの担当者は人事の仕事をやるに留まり、戦略の立案など本来の業務を行いにくくなります。また、現場から理解を得られなければ「HRBPの必要性が分からない」「なぜHRBPが経営者の立場で発言するのか納得がいかない」というように、軋轢を生むでしょう。経営者層に加え、人事や現場の従業員がHRBPの持つ役割と重要性を理解できるよう、意識改革をするのが重要です。

HRBPを導入する際のポイント

HRBPの概要を理解した上で導入を決めたら、次に成功させる2つのポイントを確認していきましょう。

役割の明確化

HRBPの役割を本人が理解できるように明確化することがポイントです。HRBPが「ただの相談役」「人事業務を行う人」にならないよう、何をするべきか本人の業務内容や役割を会社側が明確に決め、説明してください。

特に労務や人事部門の従業員をHRBPをアサインするときは、専門的な知識を習得させるなど会社がフォローし、丸投げしないよう注意しましょう。

他部署との連携

2つ目のポイントは、周辺の部署や機能との連携を図る点です。HRBPは経営課題を分析し、解決に向けて経営者層や現場にコンサルティングや助言を行います。HRBPは他部署と連携し良好な関係を築くことで、効果を最大限に引き出せるよう環境の整備をしましょう。

HRBPの導入事例

冒頭で説明した通り、HRBPは日本で普及し始めたばかりの考え方で、導入事例はそれほど多くありません。本章ではHRBPを取り入れた大手企業を2つピックアップし、ご紹介します。

カゴメ株式会社

飲食メーカーとして誰しも一度は耳にしたことがあるカゴメは、HRBPの導入を成功させた企業の1つです。カゴメはHRBPの他にも、年功序列の廃止、職務等級制度への転換、役員評価制度の導入、副業の解禁などを行いました。

人事改革のために問題解決力が秀でており現場の経験も豊富な3人をHRBPに抜擢し、キャリアコンサルタントとして活動をスタート。HRBPはHRメンバーや各事業本部の上長よりも強い意思決定権が委譲され、導入を成功に導きました。

ディー・エヌ・エー

2つ目の事例は、インターネットやAI事業を運営するディー・エヌ・エーです。スクラム開発や組織の目標を達成するには戦力的に人事を行わなければならないとし、HRBPのチームを導入。コンサルタントとしてアドバイスをし、現場の声を経営者層に届ける役割を負っています。

中途半端にHRBPを導入して失敗しないよう、「HRBPスクラム」というチームを組織し、戦略人事を実行し、導入を成功させました。

HRBPに関するまとめ

HRBPはまだ日本では馴染みのない概念かもしれません。導入事例も少ないため、期待している結果が出ない恐れもあり、導入を踏みとどまる企業も多いでしょう。しかし、今回お伝えしたカゴメやディー・エヌ・エーのように、成功させている企業があるのも事実です。

HRBPを導入する際は、役職名が変わっただけで業務内容は従来通りになってしまわないよう、担当者に対して役割を明確に伝えましょう。

HRBPには経営者目線を持ち、現場の意見を聞き入れる力が必要です。新しい取り組みを導入するためには会社側が時間をかけて従業員を育てなければなりません。従業員自ら主体的に能力を磨いていけるよう環境を整えることから始めてみてはいかがでしょうか。