業務に必要なスキルを、実務を通じて取得できる「OJT教育」は、幅広く企業の間で取り入れられています。この記事では、OJT教育がもたらすメリットを解説すると共に、導入する上で注意するべき点について触れます。現在、OJTを実践しているものの思うような成果につながっていないと感じる企業や、今後OJTを検討している人事の方は、この記事で実践的な知識を押さえてください。
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OJT教育とは?
OJT教育とは「On-The-Job Training」の略称であり、職場の上司や先輩が、実務に必要なスキルを業務を通じて教えるスタイルの育成方法を指します。研修や座学のような「OFF-JT教育」と比較して、業務との関連性の高いスキルを部下や新入社員が身に着けられるほかに、指導役である社員のマネジメントスキルを伸ばす効果も期待できます。
また、育成対象となる社員の経験や特性に合わせた指導が可能です。研修のように、業務外に特別な時間を設定する必要がないため、教育コストを抑えて実施することができます。
OJTとOFF-JTの違い
OJTとOFF-JTの大きな違いは、教育が行われる「場所」にあります。OJTはあくまで「仕事を通じた教育」ですが、OFF-JTでは、職場を離れ、実務に関連した内容を学びます。会社での導入機会が多いOFF-JTには、新入社員のためのビジネスマナー講座や、管理職のためのハラスメント防止研修、情報リテラシー研修などがあります。
また、OJTとは異なり、大勢の人数に一斉に教育機会を提供することができます。パソコンやスマホなど端末を利用しながら決められたカリキュラムに沿って学ぶ「e-Learning」も、広義のOFF-JTに当てはまります。
近年注目されるOJDとは
新しい教育手法の動きに、「OJD」があります。OJDとは、「On the Job Development」の略称で、OJTと比較し、より個人のキャリアプランや能力に重点を置いた教育のことをいいます。
OJDでは、新入社員に限定せず、部長から課長、中堅社員に対してなど、職場の業務を通じて将来的に必要な能力を養います。OJTが、即戦力人材に求められるスキル習得に重きを置く傾向があるのに対して、OJDでは将来的に人材に求められる能力開発を主眼とします。そのため、職場のマネジメント人材やリーダーの育成を目的として行われるのが一般的です。
OJTを新人教育で導入する目的
OJTでは、主にマンツーマンで指導役が実務に必要な内容を教えます。そのため、新人も効率的に業務に必要なスキルを磨くことができます。以下に、OJTが新人教育で使われる目的をみてみましょう。
短期間での戦力化
OJTは、短期間での即戦力化に適した人材育成方法です。世の中には、数多くの職種があり、営業職といっても組織によって、求められる製品知識や営業スタイルが異なります。OJTでは、自社の職場の特定職種の知識「のみ」を教えることができます。数週間前は何もできなかった新人が、基本的な業務を一通りこなせるようになっている、というのがOJTの力の見せ所です。
もちろん、未経験の新人だけでなく、他企業で経験のある中途入社の社員が、組織での特定の業務フローを理解する場合にもOJTは適しています。
業務効率の向上
OJTで先輩から新人への教育が行われることは、業務の効率化にも役立ちます。
人が何かを教える際、口頭のみで指導するスタイルは効率的とはいえません。そのため、OJTの効果をより高めるためには、業務内容のマニュアル化や、業務フローの整理が必要です。このように知見が言語化されていれば、指導役の社員が異動や退職でいなくなったあとでも、他の社員が引き継ぐことができ、持続可能な教育体制が構築できます。
離職率の低下
OJTでは、昔ながらの「見て盗む」教育スタイルとは異なり、新人は業務で求められる立ち振る舞いや知識のほか、仕事に対する心構えなどを身に着けることができます。こうした、指導役からのフィードバックや、そもそも業務について質問できる立場の人がいるという点が、新人の不安解消に役立ちます。
入社間もない社員は、組織とのギャップを感じやすいものです。OJTで耳を傾けてくれる先輩の存在を通じて、育成対象者は「組織から大事にされている」「ちゃんと期待されている」と実感することができます。
OJT教育のメリットや効果
実務を通じて教育するという、OJTの特徴がもたらすメリットには、以下のものがあります。
実務的なノウハウを伝えられる
業務で使用するシステムの操作方法や、顧客との会話で求められる臨機応変な対応。こうしたスキルは、座学でただ学ぶのではなく、実務で経験することで、より早く吸収することが可能です。
OJTは、説明を受けて学んだ内容を、実践しフィードバックを得るまでのサイクルが短いため、短いスパンでスキルを上達させることができます。営業職や接客業など、体験から得るスキルが多い職種であれば、OJTの効果が期待できます。
個性に応じた教育ができる
職場で新人教育を行う際、必要となる知識や、伝わりやすい指導法は人によって異なります。OJTでは、教えられる側の個性に合わせたカスタマイズが基本です。
たとえば、「Aさんは負けん気が強いからチャレンジングな目標を与えてサポートしてみる」「Bさんは、まだ不安が強いようだから事前の説明とポジティブなフィードバックを厚めにする」というように、一人ひとりに合わせた教育を実施できます。
コストを抑えられる
大がかりな研修を行う際、場所の確保といった費用が発生します。外部講師を依頼したり、数日にわたる研修のため宿泊施設を用意したりするのも、すべて教育研修コストです。また、OFF-JTで現場を離れる社員のため、仕事を肩代わりする社員を用意するのも見えないコストといえるでしょう。
こうした教育研修のコストを抑え、実務で人材育成が可能な点が、OJTの強みといえます。
社内コミュニケーションが活性化する
OJTでは、おのずと新入社員が指導役の先輩に質問したり、指導役からフィードバックを行ったりと会話の機会が多くなります。こうした機会は、社内コミュニケーションの活性化につながります。
たとえ個人で完結する仕事でも、何気ない社員同士のつながりが、組織としての連帯感を高めます。日頃からコミュニケーションがあることが、職場での意見交換を生んだり、チームワークを強化したりと、ポジティブな効果を生み出すでしょう。
OJT教育のデメリットや注意点
OJTを導入するにあたっては、その教育スタイルならではのデメリットや注意点を理解した上で実施する必要があります。以下が主な注意点となります。
教育効果がOJT担当者に依存する
まずあげられるのが、教育効果のバラツキです。OJTではマンツーマンスタイルが主流のため、指導役のマネジメントスキルや知識によって、教育効果に差が出てしまいます。また、指導役と育成対象者の相性の問題もあります。
こうした効果の差を解消するためには、事前に指導役に対する研修を実施したり、OJT用のマニュアルを用意するといった準備が必要です。
体系的な知識が身につきづらい
実務的なノウハウを習得できる一方で、OJTでは覚える知識に偏りが出てしまう可能性があります。実務で頻繁に使用する知識ばかりを学んだり、断片的に学んだ結果、全体像がわからないという現象が起きてしまいます。
教育指導がOJTだけに偏った結果、社員のスキルが狭まってしまったり、キャリアに対して近視眼的になってしまう可能性が考えられます。バランスを見ながら、体系的な知識を身に着けるOFF-JTを取り入れることも重要です。
教育担当側の業務に支障が出る可能性
指導役の社員が日頃から忙しい場合、OJTが加わることで業務に支障がでる可能性があります。トレーナーのキャパシティーの問題から、十分な説明やフィードバックがなされないと、OJTの効果が半減してしまいます。
OJTを導入する場合は、指導する側の時間確保といった調整を行う必要があります。
新人が放置される場合も
OJTは、実務を通じて必要なスキルを身に着けることであり、けして「体当たりで学ぶ」教育方法ではありません。OJTの方法や目的をきちんとトレーナーが理解していない場合、「やって学んでみろ」といった教育スタイルになる恐れがあります。
十分な説明がなく、やったことに対するフィードバックが行われず、ただひたすらにノルマが課される現場は教育とはいえません。新人社員が放置されないよう、OJTでの目標を明確に定め、教育過程を追うことが重要です。
OJTに向いている業務・向いてない業務とは?
現場で活躍する社員の育成に適しているOJTですが、どの職種でもスムーズに導入できるとは限りません。OJTに向いている業務と、向いていない業務を見てみましょう。
OJTに向いている業務
業務フローが確立され、イレギュラーな対応が発生しにくい業務は、OJTに適しています。事前の説明をもとに、新人が実務に取り組み、教えられた内容ができたかどうかのフィードバックを適切に行えます。マニュアルを整備しておけば、ある程度レベルを保った教育を実施できるのも、こうした業務にOJTを導入するメリットです。
OJTに向いてない業務
反対に、プロジェクトごとにやり方が変わる業務や、イレギュラー対応が多い業務では、OJTが適しているとはいえません。責任が大きく、失敗が許されない業務も、研修中の新人の教育の場との併用は避けるべきです。
かといって、こうした業務のすべてにOJTが導入できないわけではありません。基本知識や基本の流れを学習するのはOJT、体系的に学ぶのはOFF-JTなど、上手く組み合わせることで、育成対象者のスキルを伸ばすことができるでしょう。
OJTの基本的な進め方・手法
OJTを進めるには、基本の4ステップに沿って行います。以下に、それぞれについて説明します。
Show(やってみせる)
まずはトレーナー自らが、対象となる業務をやって見せましょう。実際に目にすることで、業務で何をするべきか、具体的なイメージが湧くようになります。
Tell(説明・解説する)
一通りの業務を見せたあとは、その業務についてトレーナーから説明します。Showのデモンストレーションの補足や、その業務を行う理由、気を付けるべきポイントなどについて口頭やマニュアルを用いながら伝えます。同時に、育成対象者からの質問を受け付ける時間を設けることで、教えられる側の理解が深まると同時に、不安を取り除く効果もあります。
Do(やらせてみる)
実際の業務を、育成対象者が行います。不明点があれば都度質問してもらったり、トレーナーがサポートに入る体制を整えたりしておくと、育成対象者が安心して行えます。
Check(評価・指導をする)
Checkでは、DOの業務の出来栄えを伝えます。このとき、指導熱心になるあまり改善点ばかりを伝えないように注意が必要です。「できない」ばかりに注目しては、育成対象者のモチベーションが落ちてしまう可能性があります。
まず重要なのは、「できたこと」をきちんと伝えること。そしてそのうえで、変えたほうがいい点などを加えるといいでしょう。
OJTを成功させる為の3つのポイント
OJTを上手く人材育成につなげている企業には、「意図的」「計画的」「継続的」という3つのポイントがあります。それぞれポイントをチェックしていきましょう。
1.意図的であること
「意図的」とは、OJTを実施する上での「目的」が明確になっていることをいいます。なぜ、OJTを導入するのか。OJTで教育を受けた対象者が、どのように成長するのがゴールなのか。OJTの目的と育成対象者の未来像を言語化し、トレーナーに共有しましょう。意図があることで、OJTで伝えるべきスキルや教えるべき業務が明確になります。
2.計画的であること
現場が主導するOJTだからこそ、計画が重要です。スタートの時期とゴールの時期を定め、スキル習得までのタイムスケジュールを作成します。また、トレーナーの業務負担の調整も、計画を立てることで行いやすくなります。
3.継続的であること
OJTを継続的に人材育成に組み込めるような体制を構築しましょう。定期的にOJTトレーナー向けの研修を実施したり、OJTでの内容を見直したりすることが、よりよい効果につながります。また、現時点でOJTを導入している業務範囲が、新入社員向けなど限定的な場合は、OJDのような中長期的な人材育成プランを検討してみるのもいいでしょう。
OJTトレーナー(担当者)はどうやって選ぶ?
トレーナーの力量によって教育効果が左右される可能性のあるOJTでは、適切な人選をする必要があります。ここでは、OJT担当者に必要なスキルや向いている人の特徴を紹介します。
OJTトレーナーに必要なスキル
OJTで業務を教えるのに、まず求められるのがコミュニケーション能力です。ここでいうコミュニケーションとは、「相手にわかりやすく伝える力」や「相手の不安や疑問を察知する力」などが含まれます。また、育成対象者が萎縮せず、安心して指導を受けられるような雰囲気づくりも重要です。
そして、育成対象者の能力を伸ばすために、必要となるのがフィードバックのスキルです。良いフィードバックは、人を励まし、モチベーションを高める効果があります。ただ欠点を指摘するだけでもいけませんし、手放しに誉めるだけでも人は育ちません。良い点を見つけ、本人のやる気を育てながら、ゴールへと近づけるよう、適切なフィードバックができるスキルがOJTのトレーナーには不可欠です。
OJTトレーナーに向いてる人の特徴
OJTが業務を通じて物事を教えるからといって、現場で優秀な社員が必ずしもOJTに向いているわけではありません。なかには、業務ができるあまり、他者にどのように教えるのがいいか方法がわからないという人もいます。
OJTのトレーナーを選ぶ場合、その社員の「他者への接し方」「チームでのポジション」を見てみましょう。他者に接するとき、相手の気持ちを汲んだ対応ができる人は、想像力があります。そうした人であれば、育成対象者の不安に寄り添いつつ、「わかりやすさ」に気を配ることができます。
また日頃からチームのサポーター的なポジションで俯瞰力の高い人は、「どうしたら成果につながるのか」と、客観的に物事を見ることができます。育成対象者のできている点・たりない点を把握し、指導を成長につなげることができるでしょう。
OJT教育がうまくいかない時に見直すべきポイント
OJT教育を導入しているのに、なかなか成果に結びつかない…。そんなときは、「体制」と「内容」を見直してみましょう。
体制では、そもそもトレーナーがきちんとOJTに時間を割くことができているのか、トレーナーの業務量を見直してみましょう。フィードバックが十分に行えていなかったり、育成対象者が放置されている問題がないかを、ヒアリングして把握するよう勤めましょう。
フィードバックの回数を増やしたり、OJTにトレーナーが注力できるような体制を整えることで、OJTの質を上げることができます。
内容では、ゴールをすり合わせ、それに沿った指導内容を検討しましょう。また、OJTを導入している業務は適切でも、指導の仕方に問題があるケースもあります。「叱る」がメインになっており、育成対象者のモチベーションが下がっている場合には、トレーナー自身への研修を行います。
指導方法が適切なのにも関わらず、育成対象者に熱意が見られない場合は、目的のすり合わせにより「なぜOJTを行うのか」を、本人に納得してもらうことが重要です。
OJT教育に関するまとめ
実務に必要なスキルを、現場で習得できるOJTは、新入社員を育成するために効果的な教育手法です。ただし、その成果は指導を行うトレーナー社員の力量に左右されます。そのため、OJTの目的を明確にし、計画的に行うことが重要です。