女性管理職の現状と増やすメリットは?企業が行うべき取り組みを解説

人材育成・マネジメント

増えつつある女性管理職ですが、調査によれば多くの企業で女性が管理職に占める割合は1割に満たないといわれています。働き方が多様化した現代、労働人口の減少とあわせて、女性の活躍推進は企業が真剣に取り組まなければいけない課題です。

この記事では、女性管理職の現状を解説するとともに、女性の就業継続と管理職育成のために企業ができる施策を紹介します。

Contents

女性管理職の登用における現状

日本は女性管理職の数が少ないといわれつづけています。日本企業の現状と、世界との比較を見てみましょう。

日本企業における女性管理職の割合

令和3年度雇用均等基本調査 」によれば、管理職に占める女性の割合は、部長相当職では 7.8%、課長相当職では 10.7%、係長相当職では 18.8%となっています。つまり、課長以上の管理職では女性社員の割合が1割にも満たない企業が多数というのが現状です。女性が昇進しても係長まで、という職場は少なくないといえるでしょう。

なお、企業別にみると、大企業ほど管理職に占める女性の割合は低く、さらに女性社員の割合も少なくなっています。

世界の企業との比較

世界各国と比較しても、日本企業の女性管理職の割合は低い状況です。

アメリカやフランスなどが約3割~4割の女性管理職比率であるのに対して、日本は10%前後。マレーシアやタイなどの東南アジアと比較しても低い状況です。

管理職を目指したいと考える女性は少ない

男性と女性を比較した場合、女性の一般社員のほうが「管理職になりたくない」と考える割合が多くなっています。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング の調査によれば、実に半数以上の一般女性社員が「管理職になりたくない」と考えています。

引用元:女性管理職の育成・登用に関する調査|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

男性で課長以上の管理職を目指したいと考える人が約3割いるのに対して、女性の場合は1割超と、性別によって大きな開きがあるのが現状です。

社員が管理職になりたくないと思う理由と企業側が行うべき対策

日本企業において女性管理職が少ない理由

このように女性管理職が少ない背景には、そもそもの前例が少ないことや、女性が活躍する環境が整備されていないことがあります。以下に詳しく見てみましょう。

女性管理職の前例が少ない

一つは、女性管理職の前例が少ないということです。前例があまりない、もしくはまったくないということは、「女性は管理職にはなれない」というマイナスのイメージをもたらすだけではなく、「管理職になれる女性はスーパーウーマンだけだ」というように、イメージのハードルを上げてしまいます。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査 によれば、一般の女性社員は、女性管理職に求める資質について、男性管理職と比べ高い水準を設定しています。これは、女性管理職の前例が少ないことから、ロールモデルが画一的となり、一部の優秀な管理職のイメージが強いことが背景にあると考えられます。

また前例が少ないということは、育児や家事と仕事を両立する女性が、管理職の責任を背負った上で、どのようにライフスタイルを確立していいか、イメージがつきにくいという状況を生みます。「管理職になったとしてもやっていけない」という認識が、女性管理職の少なさの要因となっています。

女性が活躍できる環境が整備されてない

また、管理職に意欲を持つ女性社員がいたとしても、そもそも女性がキャリアを形成し活躍する環境が社内に整っていないことも、女性管理職が少ない要因の一つです。たとえば、育児休業取得率を一つとっても、男性社員と女性社員では多くな開きがあります。女性が一般社員から昇進し管理職になるまでのキャリア形成には、結婚・出産といったライフイベントを踏まえた制度設計が不可欠です。

男性の育児休業取得促進や、社内託児所の整備、ベビーシッター代への福利厚生などは、女性がキャリアを続けるのを手助けします。また、そうしたサポートだけではなく、女性の働き方を公平に評価し、管理職への昇進を手助けするような評価制度が重要です。「マミートラック」という言葉に代表されるように、育休・産休を経験した女性が、責任のあるポストを任せてもらえないという状況は、日本企業が抱える課題の一つといえます。時短やリモートワークなど、多様化する働き方に合わせて、成果を評価し、中長期的なキャリアを築ける環境が重要といえます。

女性管理職を増やすことによる企業のメリット

少子高齢化が進み、労働人口の減少が予測される現代において、女性社員にいかに活躍してもらうか、そして女性管理職をどのように増やすかは、企業が真剣に取り組まなければいけない経済課題の一つといえます。

女性管理職が増えることは、キャリアのロールモデルの多様化や、若手女性社員のモチベーション向上、そして優秀な人材確保など、さまざまなメリットを企業にもたらします。メリットを詳しく見ていきましょう。

キャリアのロールモデルを確立できる

女性管理職が増えれば、それだけキャリアのロールモデルが多様化します。極端な例をいえば、雑誌に掲載されるようなスーパービジネスマンだけが管理職になるのではなく、それぞれの長所を活かした上で、経営やマネジメントに携わるキャリアを描けると、一般社員に発信することができるのです。さまざまなタイプの女性管理職の存在が、後進を勇気づけてくれるでしょう。

既存の女性社員のモチベーションが上がる

女性管理職が増えると、既存女性社員にも良い影響が生まれます。仕事で頑張れば、成果の分だけ公平に評価される現状を伝えることができるからです。昇進や昇給を目標とする女性社員にとっては、モチベーションアップの要因となります。また、いますぐに管理職を目指すわけではなくても、将来的に管理職という道があると、中長期的なキャリアをイメージさせてくれるでしょう。

同性の部下が相談しやすい環境ができる

女性社員の場合、男性の上司には相談しにくい事柄もあります。もちろん、上司という立場からすれば、性別に関係なく、どのような相談事にも対処するべきです。しかし、同性のほうが共感してもらいやすいといったイメージから、部下が相談しやすいことが考えられます。部下と管理職の間で話がしやすい関係性があると、現場の状況把握につながり、スムーズなマネジメントが期待できます。

優秀な人材の獲得にも繋がる

女性管理職の多さは、企業のイメージアップにつながります。採用において、女性が中長期的に活躍できるという点をアピールできるでしょう。その結果、新卒採用だけではなく中途採用においても、ポジティブな印象を伝えることができ、結果として優秀な人材確保につながります。

多様な視点が生まれる

男性管理職だけでは、表にでなかった事柄を、経営戦略に反映させることができるのも、女性管理職を増やすメリットといえます。育児や介護、ハラスメントなど、経営課題に関連するさまざまな事柄で、性差から理解度に違いが発生する現状があります。女性管理職の増加は、経営課題解決につながるかもしれません。

社会的評価にも繋がる

投資市場では、非財務指標であるESGも企業を評価する指針の一つです。ESG投資への注目度が高まる現代において、女性管理職比率の評価は、投資家からポジティブな評価を引き出します。

女性管理職を増やす為に企業が行うべきこと

では、女性管理職を増やすために企業は何をするべきでしょうか。企業で取り組める施策について紹介します。

ワークライフバランスのサポートを行う

女性が活躍し続けるためには、育児や家事でキャリアが中断されることのないよう、ワークライフバランスのサポートが不可欠です。育児休暇の期間を長く設定したり、時短制度の取得期間を伸ばすことは、育児を理由に離職する女性の存在を減らすことにつながります。

また、育児休暇や時短制度から復帰した女性社員のキャリア設計についても真剣に考える必要があります。時短だから、女性だからという理由で、任される仕事の責任に違いが生じていては、女性のキャリア形成は進みません。ライフステージによって就業環境が変化しても、働き続けられる制度を整えましょう。

女性が自信を持てるような環境づくりを行う

女性一般社員が管理職になるイメージがわかないといったケースでは、キャリアプランなど意識向上を目的とした環境づくりを行いましょう。自社の女性管理職にインタビューをし、社内で周知することは、他の女性の就業継続を後押しします。また、女性のリーダー候補を選抜し、管理職研修を行うことも、当事者の社員のみならず、他の社員にも良い刺激となるでしょう。

管理職で得られるメリットを提示する

管理職の大変さばかりが強調されているようであれば、管理職として働くうえでの不安を取り除けるよう工夫しましょう。「管理職は責任が重い」というネガティブなイメージは、管理職という役割に、どのようなスキルが求められるかわからないといった背景があるかもしれません。そうした状況では、マネジメントスキル研修を実施するなど、管理職向けの研修が役立ちます。

企業全体の意識改革を行う

かつての日本企業では、男性が働き、女性が家事をするという考えが一般的でした。しかし、20代・30代という結婚~第一子出産に差し掛かる年齢層の就業率が向上した現代では、もはやそうした性差は改めるべきものになっています。経営層が率先して女性活躍推進のメッセージを発することは、現場の意識改革につながります。

人事評価を見直す

女性の長期就業を後押しできるよう、人事評価制度を見直しましょう。とくに、育児休業から復帰した社員や、時短勤務の社員の評価を公平に行うことは重要です。勤続年数や就業時間、雇用形態が評価に反映される比重が多いと、正社員・フルタイム以外の社員のモチベーションは低下してしまいます。

女性管理職を増やす目的を決める

女性社員活躍推進の目標と目的を明確に決定し、経営層が発信することも、企業全体の意識向上につながります。目標数値を設定し、それに向けて女性管理職を増やすという計画の立て方は、他の管理職の賛成を得やすい傾向にあります。また、会社としても、男性管理職と同様に女性管理職にも期待しているということを伝えれば、女性社員のモチベーションを向上させることができます。

女性管理職を置く際の注意点

女性管理職を増やす際、「形だけの管理職」とならないよう全社で意識改革を行いましょう。「女性管理職の数だけ増えればいい」と、役職を与えたにも関わらず、仕事の責任や待遇が釣り合わなければ、女性管理職だけではなく一般女性社員のモチベーションにも影響します。「お飾り」ではない、真の女性活躍促進のために自社が取り組めることを考えましょう。

女性管理職の目標数値だけを設定し、数合わせのように昇進させるやり方は、女性社員だけではなく男性社員にも良い印象を与えません。勤務形態や勤続年数とは別に、仕事の成果を公平に評価する仕組みが必要です。360度評価や、職種別の目標管理制度など、自社の働き方に合った評価制度を構築しましょう。

女性管理職を増やすの取り組み事例

女性管理職を増加させるにあたり、先進企業の取組み事例を見てみましょう。

なお、以下3つの事例は、 厚生労働省の女性管理職の登用推進に関する資料 を参考にしています。

取り組み事例1:管理職昇進へ消極的になる不安を解消

長時間労働や責任の重さなどといった理由から、管理職への昇進に女性社員が消極的であったA社では、ロールモデルの発信と職場環境の改善に取組みました。既存の女性管理職にインタビューを行い、定期的に女性のキャリアについて発信。また、管理職の対象となる複数の女性社員を管理職の女性社員に紹介し、仕事やキャリアについて気軽に質問できる場を設けました。さらに、管理職の労働時間管理を実施し、長時間労働の解消に努めた結果、昇進の打診に前向きな反応がみられました。

取り組み事例2:女性管理職を育成するための研修を整備

女性管理職登用を経営方針としたB社でしたが、女性管理職を育成するためのノウハウが自社にないことに気づきました。外部コンサルタントの力をかりて、自社の研修制度を刷新。女性のリーダー候補者を集め、マネジメントの研修だけではなく、キャリア開発や意識向上に向けた教育プランを構築しました。

取り組み事例3:女性の活躍推進のため人事考課制度を見直し

女性社員のモチベーションアップと就業継続を支援するため、C社では人事考課制度を刷新。社員の能力、勤務態度、実績などによる定性評価にあわせ、目標管理制度を導入し、社員の個別の目標と達成度による定量評価を実施しました。それにより、評価の透明性が向上。努力や成果が評価に反映されると、勤務形態を問わず、職場の士気が向上。育休から復帰した社員のなかで早期の昇進者がでるなど、リーダー育成に良い結果がみられました。

女性管理職に求められるスキル

女性に限った点ではありませんが、女性管理職には以下のようなスキルが求められます。

  • マネジメント力
  • 決断力
  • コミュニケーション力
  • 調整力
  • 柔軟性
  • 部下育成力

新任の管理職や、部下の指導経験が少ない管理職候補の社員の場合、研修を通じて必要なスキルを磨くことができます。また、管理職研修は、「管理職に求められる役割」や「管理職に必要なスキル」について社員が理解を深めるのに役立ちます。

管理職に求められるスキルについては以下の記事で更に詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

管理職に求められる3つの能力とは?スキルの高め方とあるべき姿

管理職に向いている女性の特徴

管理職に向いている女性の特徴として、以下のような点があげられます。

  • 部下を導くのがうまい
  • 言語化能力に優れている
  • 新しいプロジェクトにチャレンジするのが好き
  • 目標達成志向が強い

現代では、「正解を教える」指導方法にあわせて、「正解を考えさせる」指導方法が、部下の育成に重要だといわれます。やり方を伝えるだけではなく、問いを通じて部下の考える力を育てられるような女性社員は、この先の管理職に向いているでしょう。また、昇進に対して意欲的であることが重要です。与えられた目標に真剣に取り組むような、目標達成思考が強い女性社員は、管理職候補として育成すると優れたリーダーに育つかもしれません。

女性管理職に関するまとめ

日本社会における女性管理職の比率は、諸外国と比べまだまだ低い現状です。その背景には、女性管理職のロールモデルの少なさや、女性社員の管理職へのネガティブなイメージがあります。また、女性の長期的なキャリア形成を拒む評価制度や雇用形態も問題です。

自社の女性管理職を増やすためには、現状を把握するとともに、何が阻害要因となっているのかを分析しましょう。女性の継続的な就業をサポートするには、育児休業取得率向上やテレワーク制度の促進など、ワークライフバランスのサポートが欠かせません。それとあわせ、研修制度の充実や評価制度の見直しを実施しましょう。