経営理念とは、組織の軸となる重要なものです。経営者の想いを反映し、その想いに共感した社員の行動につながることが、経営理念の価値といえます。
ただ、いざ経営理念を策定しようとしても、何からするべきか、何を目指したらいいか戸惑うケースもあるでしょう。ここでは、経営理念が組織にもたらすメリットに触れ、経営理念を作るときに抑えておくべきポイントについて解説します。
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経営理念とは?
経営理念とは、企業の根本的な活動方針を言語化したものです。なんのために、なにを目指して企業活動をするのか、企業としてのあり方を定めています。いわば、企業が実現したいゴールを示したものです。
経営理念で重要なのは、経営者の想いが込められていることです。「社会に貢献したい」「社員を幸せにしたい」「お客さまを笑顔にしたい」など、創業からの企業が目指す理想像を明文化することで、社員の行動規範や判断基準となります。
企業理念との違い
経営理念とよく似た言葉に「企業理念」があります。どちらも企業としてのあり方を示すという意味では、広義には同じものといえます。場合によっては、企業理念と経営理念を同じように捉える企業もあります。
ただ、一つ大きな違いをあげるなら、企業理念には不変性があるという点です。企業理念には、企業の存在価値、存在理由、存在目的といった、その企業が大切にするべき価値観が込められています。たとえ経営者が変わったり事業内容が新しくなったりしたとしても、根底に受け継がれるべきものとして扱われます。
一方、経営理念は経営者が交替したタイミングや、経営方針が大きく転換したときに変わることもあります。
ミッション・ビジョン・バリューとの違い
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」も、企業の想いを明文化したものとしてよく聞かれるものです。これらはそれぞれの頭文字をとって「MVV」と呼ばれ、経営学者のピーター・F・ドラッカー氏によって提唱されたものです。それによれば、MVVは以下のように定義されています。
- ミッション(Mission):企業が社会で実現したいこと
- ビジョン(Vision):企業のミッションが実現したときの状態
- バリュー(Value):大切にする価値観や行動指針
MVVは、ミッションを上位概念として段階構造をとります。近年、小規模で創業するスタートアップではこの3つをセットで設ける流れが多くみられます。
言葉の意味は異なりますが、経営理念はMVVを包括する考え方です。ただし、扱い方は企業によって様々であり、ミッションと経営理念を別で策定するケースもみられます。
行動指針や社訓・社是との違い
社是とは、経営の方針や主張を明文化したもの。社訓とは、従業員が仕事をする上での心構えを示したものです。社訓と行動指針は、従業員を主語としている点で同じものと考えられます。
経営理念は創業者の想いを明文化したものです。それが従業員の判断基準や行動規範になる点を考えると、社是・社訓の両方とも近しい意味を持っています。どれが上位概念かといった明確な違いがあるわけではありません。古くからある企業には、社是を象徴的な企業精神と位置づけ、それに基づき具体的なフレーズで経営理念を示すケースが見受けられます。
経営理念はなぜ必要なのか?掲げることのメリット5つ
経営理念は、事業計画や売上目標にはない、組織をまとめ牽引する力があります。経営理念をつくることで得られる、会社としてのメリットを5つみてみましょう。
1.経営の判断基準になるから
業界や企業規模を問わず、あらゆる企業活動は、社会情勢や経済状況などに左右されます。近年では、新型コロナウイルス感染症拡大が人々のライフスタイルに大きな影響を与え、それにより事業の方向転換や見直しを迫られた企業は少なくありません。
このように、企業は常に時代が求めるものを察知し、社会から必要とされる企業活動を行わなければいけません。経営方針を検討する際、意見が割れることがあっても、経営理念に立ち戻ることで方向性が明確になります。経営理念があることで、組織としてぶれずに進むことができるのです。
2.強い組織を作れるから
どれだけ優秀な社員でも、一人ひとりの力で残せる成果には限界があります。組織内に能力の高い人材がたくさんいても、バラバラに活動していたのでは組織としてのパワーが半減してしまうでしょう。
経営理念は、社員が進むべき先を示す指針となります。理念が浸透している組織では、互いの強みを活かし、弱みを補い、イノベーションを生み出す効果が期待できます。
3.社員のモチベーションになるから
自分が手掛ける仕事が、社会に貢献しているという実感は、仕事のやりがいになります。しかし、日々の業務に忙殺されてしまうと、「なんのためにこの仕事をするのか」と迷ってしまうケースも少なくありません。また、業務をただの作業と捉えてしまうと、「なんのために自分がここにいるのか」と不安になってしまう人もいるでしょう。
担当業務を経営理念とすり合わせることで、その業務の必要性や組織で求められる役割について理解しやすくなります。意欲をもって仕事に取り組む社員が増え、組織の生産性向上にもつながります。
4.社外からの信頼獲得に繋がるから
経営理念は、社内だけでなく社外に向けても発信されるものです。企業ウェブサイトやパンフレット、ときにはテレビCMのような形で、株主・取引先・顧客といったさまざまな人の目に触れます。
経営理念に込められた想いに共感した人々が、新たな顧客となったり、取引関係を結んだりする可能性もあります。経営理念は組織の指針となるだけでなく、企業のブランドイメージを形づくるものともいえるでしょう。
5.自社が求める人材が明確になるから
経営理念で自社のゴールが明確になっている企業では、その理念を成し遂げられる「人物像」が言語化しやすくなります。どのような人物が活躍しているのかという「現在」の視点のみならず、どのような人物がこの先求められるのかという「未来」の視点を採用に組み込むことができます。
こうした視点は、組織を成長させる上で大いに役立つものです。
経営理念がないとどうなるのか?
経営理念がもたらすメリットがある一方で、自社に合った経営理念の作成には労力がかかります。そもそも経営理念は、法律で定められたものではありませんから、作らない選択をすることもできます。
ただ、その場合は組織規模が大きくなるにつれ、組織としての統一感のブレや、経営方針の揺らぎに直面する可能性が出てくると考えられます。もちろん、どんな組織にも成長フェーズに合わせた困難はつきものです。しかし経営理念のような言語化された指針がない場合、さまざまな考えをすり合わせ、社員の想いをまとめるのがより難しくなります。
さらに、2017年に労務行政研究所が実施した調査によれば、回答した企業のうち1000人以上の規模の会社では100%が「経営理念はある」と応えています。また、日本企業23万社の財務データと優良企業のアンケート調査をもとに、卓越企業に求められる実践的な知恵を述べた『理念が独自性を生む』(宮田矢八郎著・ダイヤモンド社)では、経営理念の有無による企業の平均純利益が比較されています。それによれば、経営理念が無いと回答した企業とくらべ、経営理念が有ると回答した企業の利益額は1.7倍に上ったとのことです。
もちろん、経営理念があるから売上が上がるという安易な図式は成立しません。しかし、企業が成長するにつれ、より力を発揮するのが経営理念といえます。
経営理念の作り方
経営理念に決まったフォーマットはありません。ただし、より浸透させる経営理念を求める場合は、いくつかの点に気を付ける必要があります。以下に、経営理念を作成する際に抑えるべき基本を解説します。
良い経営理念の条件
良い経営理念には、以下のものがあげられます。
- 自社の状況に適したものであること
- 成長性を示していること
- 社会とのかかわりを示していること
- 一貫性がたもたれていること
- わかりやすいものであること
経営理念が、事業内容や業界の課題と紐づくものであれば、従業員や顧客は、経営理念からより「その会社の存在意義」を感じ取ることができます。また、成長性は会社の未来を描き、会社の方向性を理解することにつながります。
さらに、すべての企業活動が社会に求められるという点を考えると、おのずと社会貢献性を示唆する言葉が浮かび上がるでしょう。
また、経営理念だけでなく、企業理念を合わせて作成したり、MVVのようにより具体的な行動規範を設けるケースもあります。複数の企業メッセージを発信する場合は、経営理念を独立したものとして捉えるのではなく、一貫性を意識することが大切です。
経営理念を作るステップ
良い経営理念を作るには、段階を踏んで考えることが重要です。いきなり最初から完成形を目指すのではなく、考えを書きだしたり、自社の状況分析を行ったりするなどして、土台から積み上げるように完成を目指すのがいいでしょう。
- 企業活動で実現させたいことを書き出す
- 自社のおかれた状況を分析する
- 事業の社会的意義を分析する
- 周りの意見をヒアリングする
- キーワードを選ぶ
- たくさんのたたき台から納得いくまで作り直す
実現させたいことはもちろん、反対に「絶対にやりたくないこと」を書き出してみるのも、企業の輪郭を浮かび上がらせるのに効果的です。一人で考え込むのではなく、誰かとの対話を通じて、考えが明確になることもあります。
有名企業における経営理念の事例
経営理念の作成では、既存の企業例も参考になります。いわゆる有名企業と呼ばれる大手が、どのように経営理念を定めているのかご紹介します。
トヨタの事例
トヨタは、2020年11月の中間決算説明会で「トヨタフィロソフィー」を発表し、新たな経営理念と位置づけました。もともとトヨタには、1991年に制定された「トヨタ基本理念」があります。これは、企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、確固とした理念をもって進むべき道を見極めていくことが重要という認識のもと制定されたものです。
トヨタ基本理念は、7つの項目からなり、法令順守、異文化の尊重、環境保全、技術革新、グローバルといった要素が盛り込まれています。トヨタフィロソフィーは、こうしたトヨタに脈々と培われてきた企業精神を、より洗練し言語化したものです。
「わたしたちは、幸せを量産する」というミッションのもと、「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」
引用元:トヨタ株式会社
というビジョンが位置づけられ、企業として目指すべき方向、あるべき姿を示しています。
近年、トヨタは最新型エコカーの研究・開発を進めるほか、「モバイルトイレ」のように従来の自動車の概念を超え、モビリティの可能性を追求していることから、経営理念と企業活動の一貫が伺えます。
パナソニックの事例
パナソニックでは、経営理念を「綱領」「信条」「私たちの遵奉すべき精神」にわけて明文化しています。経営理念を、事業の目的と事業活動の基本的な考えと位置づけ、どれだけ時代が推移し、事業規模・事業内容が変化しようとも、根幹に変わらずあり続けるものとしています。創業者である松下幸之助の想いが、脈々と受け継がれている経営理念といえるでしょう。
・綱領
引用元:パナソニックグループ
┗産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り
┗世界文化の進展に寄与せんことを期す
・信条
┗向上発展は各員の和親協力を得るに非ざれば得難し
┗各員至誠を旨とし一致団結社務に服すること
・私たちの遵奉すべき精神
┗産業報国の精神、公明正大の精神、和親一致の精神、力闘向上の精神、礼節謙譲の精神、順応同化の精神、感謝報恩の精神
京セラの事例
京セラの経営理念は、「社是」「経営理念」「経営思想」の3つから成り立っています。京セラは、現名誉会長である稲盛和夫が一代で築き上げた企業です。人として何が正しいのか、意思決定に迷う際の判断基準として、経営理念が重視されています。
・社是
┗「敬天愛人」
┗常に公明正大 謙虚な心で 仕事にあたり 天を敬い 人を愛し 仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心
・経営理念
┗全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。
・経営思想
┗社会との共生。世界との共生。自然との共生。共に生きる(LIVING TOGETHER)ことをすべての企業活動の基本に置き、豊かな調和をめざす。
引用元:京セラグループ
Googleの事例
Googleには、経営理念として位置づけられるものに、「Googleが掲げる10の事実」があります。会社設立から数年して制定された10の事実は、随時見直され、事実に変わりがないか確認されます。10個のシンプルな内容ですが、Googleのあり方を示しているものといえるでしょう。
・1. ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
・2. 1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
・3. 遅いより速いほうがいい。
・4. ウェブ上の民主主義は機能する。
・5. 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
・6. 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
・7. 世の中にはまだまだ情報があふれている。
・8. 情報のニーズはすべての国境を越える。
9. スーツがなくても真剣に仕事はできる。
10. 「すばらしい」では足りない。
引用元:Googleが掲げる10の事実
Amazonの事例
Amazonの経営理念は「Earth’s most customer-centric company(地球上で最もお客様を大切にできる企業であること)です。Amazonジャパンのサイトでも、この経営理念に習い、
「地球上で最もお客様を大切にする企業、そして地球上で最高の雇用主となり、地球上で最も安全な職場を提供すること」
引用元:Amazonについて
とされています。
経営理念を浸透させるには?
経営理念は、策定後に社員の共感を得、それぞれの行動に反映されて、はじめて企業の「行動指針」や「判断基準」となります。経営理念を浸透させるには、経営陣だけでなく管理職、現場社員など、雇用形態に限らず企業活動に関わる全ての人に、しっかりと理念を共有することが大切です。
「共感」「行動」「習慣化」という浸透ステップに対して、できることを見てみましょう。
浸透しない原因を知る
浸透するまで、「どのステップで」躓いているのか原因を探りましょう。経営理念を伝える機会が足りず、共感を得るに至ってないかもしれません。もしくは、経営理念と仕事のすり合わせが行えず、行動につながっていない可能性もあります。日々の流れのなかで忘れ去られないよう、繰り返し発信し習慣として定着させることも重要です。
経営者自身が理念に一致した行動をする
社員が日々の仕事で経営理念と一致した行動を起こすには、まず経営者自身が経営理念を体現している必要があります。経営方針の決定のみならず、新規事業の方向性や株主との関係、社員の福利厚生など、企業活動のあらゆる面に経営者の想いが表れます。
そのとき、経営理念との齟齬を与えてしまっては、社員は想いを信じることができません。どのような行動が経営理念に基づくものなのか、トップ自らが示すことで、社員にも伝わります。
自社に合った制度を取り入れる
経営理念の浸透の一つに、人事制度に組み込む方法があります。企業が求める判断基準や行動指針に沿ったアクションで成果を残しているのか、測定可能な仕組みや制度を整えましょう。それにより、社員が経営理念に触れる機会が増え、意欲的に行動できるようになるでしょう。
経営理念とは?に関するまとめ
経営理念は、企業が理想とする姿を明文化したものです。企業活動が進む方向性や、将来性、社会とどのように関わるべきか、企業として重要な姿勢が込められています。経営理念は、組織を一つにまとめるほか、企業としての姿を社会へと伝える重要な言葉となります。
経営理念の策定にあたっては、時間をかけ、自社のあるべき姿を深く考えましょう。経営者の想いが言葉になることで、社員としても目指す方向や判断するべき基準を理解でき、働く意欲が高まるでしょう。