企業の組織力向上や従業員の成長には、管理職比率の適正化が不可欠です。しかし、企業によっては人事制度がうまく機能せず、管理職の数が増加している傾向があります。
本記事では企業の人事担当者向けに、管理職の適正な割合と、企業規模や業界別の管理職の割合を紹介します。また、管理職増加の背景や適正化の重要性、人事制度の適正化に必要なことも詳しく解説します。管理職の割合を適切に維持し、企業の組織力を向上させましょう。
Contents
管理職の適正な割合とは?
企業や従業員の成長のために管理職の存在が欠かせませんが、管理職の適正な割合は10%程度といわれています。
しかし昨今、企業における管理職比率が増加しています。
管理職比率とは企業における管理職の割合で、以下の計算式で求められます。
では、企業における管理職比率が増加している背景は、何なのでしょうか。管理職増加の背景と管理職増加の実態を抱える企業の割合を詳しく解説します。
管理職増加の背景
日本企業において管理職が増加している背景には、年功序列に根差した考え方があります。在職期間が長い社員は管理職に昇進し、賃金も上がっていくことが通常でした。1980年代での管理職の比率は全体の約21%だったのが、2010年に入ると26%に上がっています。
管理職の割合は一定数にとどめておくことが妥当といわれますが、年功序列に根差した処遇により、次第に管理職の割合が増加してきたと考えられるのです。
管理職が多すぎると感じている企業は4割
年功序列の処遇が関係し、年々管理職の割合が増えています。実際に、管理職の割合が多すぎると感じる企業は、4割です。他方、管理職が少なすぎると感じる企業は2割以下という結果も出ています。
さらに、7割もの企業において、組織力の向上には人員構成の適正化が必要だと実感しているとの結果も出ているのです。管理職が増えすぎた今、組織体制の見直しが求められています。
企業規模別・業種別の管理職比率
ここまで、日本企業において人員構成の適正化が求められることを解説してきました。
ここからは、管理職比率の高い業種や企業規模別の管理職比率などをみていきましょう。
管理職比率が高い業種
管理職比率が高いおもな業種は以下のとおりです。
- 建設業:17.9%
- 情報通信業:15.5%
- 鉱業、採石業、砂利採取業:14.2%
- 学術研究、専門・技術サービス業:14.0%
- 卸売業、小売業:13.4%
- 不動産業、物品賃貸業:13.0%
参照:セレクションアンドバリエーション オフィシャルレポート
建設業では20%近くの高い数値となっており、情報通信業や鉱業・採石業・砂利採取業が続きます。
企業規模別の管理職比率
企業規模別に、正社員に占める管理職比率を確認しましょう。
規模計 | 1000名以上 | 500~599名 | 100~499名 | |
---|---|---|---|---|
部長比率 | 2.9% | 2.6% | 3.1% | 3.2% |
課長比率 | 7.2% | 7.7% | 7.2% | 6.6% |
企業規模が大きくなるほど部長比率は低く、課長比率は高くなる傾向があります。部長比率については、企業規模にかかわらず大きな差がないことが特徴です。企業に必要とされる部の数に差異がないことが原因に挙げられます。よって、従業員数が多い大企業は中小企業と比べて部長比率が少なくなるのです。
他方、同じ管理職でも課長の比率については、企業規模が大きいほど高くなる傾向があります。とくに規模の小さい中小企業では、部長が課長の役割を兼ねる傾向があることが起因しているでしょう。
有名企業の管理職比率の例
大手電機メーカーのソニー株式会社では、2015年に等級制度が導入され、評価制度が2016年から運用されています。当時、管理職比率が約4割と高かった中で、登用機会が少ないという構造上の問題を抱えていました。
等級制度の導入により管理職比率が2割に半減され、年功序列による評価体制が廃止されたのです。
女性管理職の割合は?
女性の社会進出に伴い、多くの企業で女性管理職の比率が増加する傾向があります。諸外国に比べると、日本企業における女性管理職の割合は低く、女性の社会進出には課題を残しています。
ここからは、日本と世界の女性管理職の割合を確認しましょう。
日本の女性管理職の割合
日本企業における女性管理職の割合は平均9.3%となっており、諸外国と比べると低い水準にとどまっています。
女性管理職の割合が5年連続で1位となったのは、国内外で料理教室を展開するABC Cooking Studioで、97.3%を誇ります。次に、ビジネスホテルを展開する東横インが95.9%、子供写真館大手のスタジオアリスが86%と続きます。(参考:CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2023年版)
こうした企業は、そもそも女性従業員が多い点が特徴です。業種別にみると、女性管理職の比率が最も多いのが保険業で27.8%で、サービス業が19.4%、銀行業が19.2%と続きます。
女性管理職の現状について以下の記事でも詳しく解説しています。
世界の女性管理職の割合
諸外国の企業における女性管理職の割合をチェックしましょう。労働政策研究・研修機構のデータによると、アメリカは43.8%、イギリスは36%、フランスは32.9%、ドイツは29.3%となっています。アジア諸国を見ると、フィリピンが48.9%、シンガポールが35.2%です。
ヨーロッパやアジア諸国と比較しても、日本の女性管理職の比率が低いことがわかります。
管理職の割合が増えることで起こる問題とは
前述のとおり、組織のパフォーマンス向上のためには、適正な人事構成が不可欠です。組織を率いる立場の管理職の比率も適正である必要があります。
ここでは、管理職の割合が増えることでどのような問題が発生するのかを確認しましょう。
企業全体の生産性が下がる
まず、企業全体の生産性低下が挙げられます。一般的に管理職は組織の業績を維持・向上させることが主な役割です。しかし、管理職が枠を広げすぎることで、組織を統率する適正のない管理職が増えることにつながります。
そして、組織の業績が悪化し、部下の能力が上がりにくい環境が構築されるのです。部署全体の業務推進レベルが低下し、生産性の低下につながります。
無駄な人件費が増える
管理職が増えすぎると、当然人件費が増加します。管理職には、時間外手当がつきません。管理職の増加により一般社員の業務量が増え、残業代により管理職の給与を超える「逆転現象」が起きてしまうのです。この逆転現象を解消するために、管理職の給与を引き上げ、企業全体の人件費が増加します。
このような状況下で、さらに管理職の枠を広げてしまうと、人件費の増加で業績が悪化するおそれもあるでしょう。会社の経費を適切に管理するために、管理職比率をコントロールする必要があります。
管理職比率を適正化するには
組織力の向上には企業の管理職比率を適正化することが不可欠だと理解したところで、企業は具体的に何をすれば良いのか確認しましょう。
- 管理職の人数を把握する
- 昇進・昇格要件の見直しと厳格な運用
管理職比率の適正化には上記2点が必要です。まず現況を把握します。他社と比較して無駄なポストがないかをチェックし、組織図の見直しを図ることが不可欠です。
そして、適正化した組織図のもと、管理職への昇進・昇格要件を見直します。管理職が誰でもなれる立場になっていないかを確認することが大切です。
昇進・昇格要件の見直しには、自社に適する管理職の人材像を具体的に定める必要があります。自社の経営理念や事業方針に即して検討しましょう。
そして、人事制度を構築したら、厳格に運用することが大切です。人事制度構築の趣旨を経営層にきちんと説明し、全社が一体となって、納得できる人事制度を運用していきましょう。
管理職の割合に関するまとめ
本記事では、企業の成長には管理職比率の適正化が必要であることを解説しました。企業には管理職の存在が不可欠であるものの、近年管理職の割合が増加することでさまざまな課題が生じています。
企業の生産性向上や従業員の成長、人件費軽減などを実現するために、企業の現況を把握して適正な昇進・昇格要件を低率することが大切です。全社で共通の目的を設定して、一体となって自社に最適な人事制度を構築しましょう。